『S−Report』  1/23号    新しい政策環境の整備          −まちづくりのあらたな展開を求めて−6    
                      特定の利益のためにどこか遠くで作られた政策の彼方に


  私は、長い間「政策」についてまじめに考えたことはありませんでした。
  それは官僚やプレッシャーグループ、ロビイスト、政党や党派に属さないただの人には「特定の利益のためにどこか遠くで作られた政策」や「知らないうちに議員や行政の上の方でかって決められた政策」が常に前に立ちはだかるものでしかなかったからです。 また、これは「政策」を立案ではなく、転換することを中心に動いてきた政党や党派に属さないただの人たちの共通の考え方だと思います。
 一般的にも、政策というのは「知らないうちに議員や行政の上の方でかって決められた」というイメージをいだかれるのは、普通の人が既存の政策立案過程に関与する回路は長い間、政治過程の中で代議制による政策立案過程・立法過程を通して実現されるということでしかなかったからです。 そして、この気の遠くなるようなプロセスを経て政策は決定され、実現されます。しかし、そんなことをしていては間に合わないことが多々ありますよね。

 例えば、ハンセン病患者の問題がそうです。最終的には訴訟を起こすというやり方でしか、政策転換が図れなかったのは事実だと思います。
 もし、これが別の利益的な政策課題であれば、政党やプレッシャーグループというセクターが代議制による政策立案過程・立法過程を通して政策転換を実現していったことでしょう。

 だから、この問題に限らず今まで裁判により判例を確定し、実質的な救済を継続的に実現していくという方法をとってきました。
 そして、判例の中から「政策」を転換するための法概念として「行政の不作為」「立法の不作為」などを紡ぎだしてきたと思っています。(司法に対しては「司法の不作為」「「公訴権濫用」をつかみだしてきたと思っております。)
 また、このほかにも各種「享受権」を権利として確定する方法をとってきました。

 しかし、やっと「政策を転換する」のではなく、政策を代議制による立法過程などとは別に「政策を立案する」「政策を実施する」過程がみえてきた気がします。もちろん、今までも都市マスタープランや環境政策のような限られた分野ではありましたが。 (しかし、これは裁判による政策転換を否定するのではなく、「主観的価値判断からの主観的選択が裁判である」という「法のポストモダン」に即応した裁判のやりかたで、政策立案と平行して協働して行うこしになると思います。−この点についてもこの「まちづくりのあらたな展開を求めて」でご報告したいと思います。)  

  ひとつは、自治体が住民と政策を協働して策定していく試みです。

 千代田区ではNPO・ボランティアとの協働に関する政策提案制度を立ち上げました。

 千代田区では、NPO・ボランティアの先駆性・創造性を生かした斬新な視点を政策に取り入れ、多様化する区民ニーズに対応するとともに、提案団体と区との協働により魅力あふれる千代田区の創出を図っていくため、「NPO・ボランティアとの協働に関する政策提案」を募集しました。その結果、13団体22件の応募がありましたので、お知らせします。  今後、提案はすべて、提案団体と区の担当部署とで、専門家や区民の意見等も参考にしながら、事業化を目指して検討してまいります。

 ここに詳細があります。  http://www.city.chiyoda.tokyo.jp/tokusyu/npo/npo.htm

(参考−「千代田区 NPO・ボランティアからの政策提案を募集します」東京都千代田区(2002/10/18付)
 この千代田区の下記のペーパーはとても良くできてていいのに、千代田区のサイトには詳細がないので残念です。ぜひ、見て下さい。)

 また、三重でも 「三重県では、PLAN(企画)−DO(実行)−SEE(評価)のマネジメントサイクルを通じて、行政サービスの向上を図るために「事務事業評価システム」に取り組んできましたが、平成14年度当初予算からは、事務事業評価システムの機能を拡充し、進化させた「みえ政策評価システム」として運用しています」 「平成13年度実績評価表の公表」について

 三重県 「事務事業評価システムの概要」について
  http://www.pref.mie.jp/GYOUSEI/plan/jimu00k/gaiyou.htm

・市民の側・協働 評価みえ
  http://www.hyouka.org/index2.shtml


 まず、公開されている資料によると三重では「政策提言のしくみの運営」を2003年4月に開設を予定している「三重のくにづくり協働センター」が担うようです。
(補注 このあたりはこれからで未定の部分が多いそうです。12/1 三重県関係者より聞き書き、文責は当方にあります)

「三重のくにづくり協働センター」の開設に向けて(まちづくり協働センター)

・「三重のくにづくり協働センター」の内容の検討

 @政策提言のしくみの運営
 A政策提言、協働事業のコーディネート
 B協働事業の相談
 C協働事業の評価

  (以下略)
「協働推進センターに向けて、参考情報 4」
2001/11/15 11月15日の運営委員会でNPO担当より提供された資料より [miecenter:365]より
 http://www.mienpo.net/npooffice/004.html

 この運営は自治体と市民が行うことになるのでしょう。

  また、前掲の「千代田区 NPO・ボランティアからの政策提案を募集します」(2002/10/18付)では

1.政策提案内容のサイト公開によるプロセスも含めた情報公開
2.提案団体と事業化の検討
3.区と協働しない場合ボランティアセンターや公社と提案団体で事業化の検討
 を行うとなってます。

 もうひとつは、自治体が首長の権限の範囲で住民と政策を協議し実施していく試みです。

 既に政府の政策に対して独自の政策を持ち自ら実行している小さな自治体があります。

  (長野県栄村の)喜寿へと近付く高橋彦芳村長は“道普請”なる独自制度の下で昨年も、6本の村道を建設しました。距離にして800m。金額にして3500万円。補助金事業として施行する場合と比べたなら、僅か十分の一の金額です。何故、可能なのでしょう? 生活道路としての村道は、冬季の必需品たる除雪車の重量3トンに耐えられれば良い。と考えた高橋氏は、自分達の道路だから自分達で建設基準を決めるのだ、と村民に提案しました。地面の固さも道路の幅も、集落の村民と話し合って栄村が独自に決めます。工事人として常時6名を雇用し、工事費も受益者である集落と村で負担し合います。一昨年は9本の村道が完成しました。
 高橋氏は語り続けました。お願いします、と県や国に頭を下げて陳情している間に、栄村の老人達は天寿を全うしてしまう。その前に、雪の降る日でも安心して隣家に出掛けられる道路と除雪を実現しようではないか、と。冬期間、栄村では45人の季節職員が毎朝午前3時半から出動し、7時半には村内道路は隈無く除雪が完了します。“下駄履きヘルパー”と呼ばれる独自の訪問介護制度や、農水省の国庫補助事業の四分の一近い費用で、棚田の多い地形に合わせて農地整備を行う“田直し”。
 お口を開けて、何時とも知れぬ補助金が転がり込んでくるのを他律的に待つ全国津々浦々の行政とは凡そ異なる、21世紀型の小さな行政、然しながら、温かい行政が長野県の県境に、僕が就任するよりも遙かに前から、凛として屹立していたのです。
  「田中康夫の愛の大目玉」田中康夫 074 週刊 SPA! 2002/7/23号  週刊 WebSPA! 
   http://spa.fusosha.co.jp/oomedama/  

 このように、国民が自ら政治過程の中で代議制による政策立案過程・立法過程以外にも政策立案や決定の回路が開かれれつつあります。
  また、「県や国に頭を下げて陳情している間に、栄村の老人達は天寿を全うしてしまう。」(ハンセン病患者もまたそうでした。)ような気の遠くなるようなプロセスを経て実現される政策の実現ではない別の道も拓かれつつあります。

 しかし、ここですぐに市民参加、参画と自治体のマスタープランのようにということにはなりません。その前にやらなくてはならないことがあります。

 ある意味で自民党の江藤氏が「道路公団の民営、政策転換って簡単にできないぞ、数多くの法律はどうするんだ〜」と道路公団民営化推進委員にいうのと同じです。(私は道路公団の民営化について江藤氏と意見はまったく意見を異にしますが)
 つまり、代議制による立法過程などとは別に政策を立案・立法する過程を法的に担保する、法制化するための「法理論の構築」という実に気の長い重要な仕事がいります。

 さて、「まちづくりのあらたな展開」の六つめは「新しい政策環境の整備」です。

  「新しい政策環境の整備」とは「政治過程の中で代議制による政策立案過程・立法過程」及び「市民参加型の新しい政策立案過程」に対して政策の立案ばかりでなく、それぞれの政策をつくる環境の整備を行う必要があります。

  具体的には
1.政府(公共セクターの一部分の担い手)による「制度的環境支援」
2.幅広い公共セクター(政府に限らない広い意味の公共セクター)による”公開の場で自律的な活動を支える「場所」「会議」「会」「ICTを利用した会議等」のための積極的な「場」のセッティング”
3.そして、それらのための法律制定及び法理論の構築です。  

 今までは、政策をつくる話と言えば政策のことばかりが論じられ、「政策環境」がなおざりにされており、その結果が現在の状況を生みだしています。
 今、新しい政策環境の整備とそれにもとづく住民、NGO・NPO・ボランティアとの協働による政策策定と評価が必要ではないでしょうか。 このことによって「特定の利益のためにどこか遠くで作られた政策」を超えた新しい政策が生まれてくるでしょう。

付記−このことは既存の政策提言や政策提言集団の活動を否定するものではありません。中間セクターとしての国政への政策提言集団の役割はこれからもますます重要となり、住民、NGO・NPO・ボランティアも積極的に政策提言集団と協働していく必要があります。

  今回、政策について意見を交換させて頂いた個人、政策提言集団の皆様に感謝いたします。

 

 イペントの紹介 
 
 「パートナーシップで築く国際協力〜持続可能な都市づくりを目指して
                      〜“Building Partnerships for Sustainable Cities」  

  アジア太平洋地域の都市で市民(NGO/NPOを含む)、企業、行政がパートナーシップを組みながらどのように都市の発展と環境の共生をはかっているか、その知恵と行動力を学び合い、これからの国際協力のあり方を考える。

・プログラム概要:
(1)ワークショップ 2/1(土)9:30〜16:00 50名(同時通訳つき)
(2)シンポジウム  2/2(日)13:00〜18:00 200名(同時通訳つき)
(3)交流会     2/2(日)18:00〜19:00※希望者のみ(参加費1000円)
(4)スタディツアー 2/3(月)10:00〜16:00

 ※ワークショップ参加者から希望者のみ35名(昼食代のみ自己負担)

・会 場:横浜シンポジア(中区山下町2 産業貿易センタービル9階)

・参加費:無料 ・主催・申し込み:アジア太平洋都市間協力ネットワーク

 (シティネット) E-mail: soumu@citynet-ap.org

・詳 細: http://www.viva.ne.jp/db/detail.php3?id=1545

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