中国黒竜江省酪農乳業発展計画
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中国黒龍江省酪農乳業発展計画

先源郷酪農経営の分析と経営改善への提言

国際協力機構 短期派遣専門家
小 室 重 雄
以下は小室短期専門家(畜産経営コンサルタント)による酪農セミナー(2004.12.7)での発表要旨である。(実際の発表に用いたものはこれを中国語に翻訳したもの)

目次
はじめに
1.モニター農家の経営概況
2.飼料基盤の弱さと自給率の低さ
3.頭数と収入および飼料購入費
4.乳飼比の検討
5.モニター農家の粗収入と所得
6.酪農経営精密調査の分析より
7.飼料の価格と生産費用
8.成牛の牛乳生産額に対する相対価格
要約
若干の提言

はじめに

目的: 先源郷酪農の経営改善をするため、課題の摘出と課題を解決するための提言を行う。
方法:
  1. 2003年のモニター農家調査結果の分析
  2. 6戸の農家について精密経営調査(以下精査と言う)の実施と分析
  3. その他カウンターパート等への聴き取り情報

1.モニター農家の経営概況

平均耕地面積13ムー、牛の頭数は7.1頭で典型的小規模家族経営である。(スライド1)

1頭当り年間搾乳量は5,400kgで低い水準ではない。1戸当りの総所得は1万9千元、そのうち酪農所得は1万4千元であり、1頭当り酪農所得は1,900元である。

ここで注目されるのは、耕地面積の少なさである。

 

先源郷酪農モニター経営の概況

(クリックしてください。右にその内容が表示されます。以下同じ)


2.飼料基盤の弱さと自給率の低さ

飼料生産の基盤である耕地面積は1頭当り2ムーに過ぎない。これは酪農経営の基盤が弱いことを示している。

 

成牛換算頭数と耕地面積

 

牛の頭数は耕地面積と関係がなく、飼料基盤に根ざさない酪農である。

つまり、飼料基盤が弱いと言うことは酪農経営の危うさとも言える。


飼料生産は耕地面積にほぼ比例しているが、一部にバラツキも見られる。

 

耕地面積と飼料生産量


自給飼料の生産性

平均の生産性はTDNで1ムー当り2.6t、ha当り39tで決して低い水準ではない(日本の青刈りとうもろこしの平均収量は53t/haである:2002年)

 

モニター農家の飼料生産性

飼料の自給率

飼料の生産性は低くないが、面積が小さいため、飼料の自給率は低く、平均では16%に過ぎない。この点が大きな問題であり、経営改善の要点になる。

 

飼料自給率の分布

3.頭数と収入および飼料購入費

規模の違う経営の生産性や収益性を比較するのに、1頭当りや面積当りで比較すると分かり易い。ここでは成牛換算1頭当りという指標を使用しているが、それは;「成牛換算頭数とは?」に示した約束で算出している。

 

成牛換算頭数とは?

牛乳の生産量は成牛換算頭数(以下「成牛頭数」と言う)に比例している。すなわち、成牛1頭当り牛乳生産量は農家によって大きな違いがないということを示している。

 

成牛換算頭数と牛乳生産量

また、成牛頭数が多くなると当然、年間収入(所得=純収入)も多くなる。

農家によるバラツキもあるが、傾向的には1頭増加すると、約2,600元の増収になる。

 

成牛換算頭数と年間収入

次に飼料購入費と頭数の関係を見る(スライド9)。頭数の増加により飼料の購入費も確実に増加しており、牛の飼養が購入飼料に依存していることが良く示されている。農家によるバラツキも少なく、1頭増加するに伴い、約5000元の飼料が購入されている。(注1)参照

 

成牛換算頭数と購入飼料費

これを牛乳の生産額との関係で見ると、飼料購入費と牛乳販売額が非常に近く(上の線が牛乳生産額)、回帰線の勾配は0.73で購入飼料が牛乳生産量の73%を占めている。

この値を日本では「乳飼比」と言う。

 

牛乳販売額と購入飼料費

4.乳飼比の検討

「乳飼比」とは購入飼料費の牛乳生産額に対する割合である(スライド11)。

これは酪農の経営成果を簡易に判断する1つの指標であるが、その水準がどの程度ならば良いかは、その国や地域の条件によって異なり、多くのの情報が必要になる。経験では、日本の中規模酪農では40%以下が望ましいと考えている。ここでは何%がのぞましいか?

 

乳飼比:経営成果を測る簡易な指標

調査した農家の乳飼比は73%で、100%を越えている農家(飼料購入費が牛乳出荷代金よりも高い)が4戸あった。

 

乳飼比の分布

なぜ乳飼比は高いのであろうか?

 

乳飼比が高過ぎる要因

多くの農家の1頭当たり乳量は5,000kgから6,000kgに分布している。平均では5,420kgと低くはない。

 

成牛一頭当りの乳量の分布

購入飼料の見積もりは多すぎるか?

飼料の給与量をTDNでみると、調査時の1日当りで見ても年間調達量から成牛1頭1日当りを推定した給与量も多い水準ではない。給与飼料の大半は購入飼料なので購入飼料の量を多く見積もっているとは言えない。

(註2)参照

 

成牛1日当りTDN給与量

 

「給与飼料と飼料調達量の構成」と「一日の給与量からみた飼料構成と年間の調達量から見た飼料構成の比較 」は調査時点の給与量と年間調達量から算出した1日当り給与量の構成を比較したものであるが、それほど大きな違いはないと判断できる。

このことから、年間の飼料調達量推計はそれほど大き過ぎるとは言えない

 

給与飼料と飼料調達量の構成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日の給与量からみた飼料構成と年間の調達量

購入価格は高過ぎるか?

最後に飼料の購入価格であるが、穀実とうもろこし、酒粕、乾草はモニター農家調査の平均値より決定した。大豆粕、混合飼料およびとうもろこし茎葉は今回の農家精査およびCPの皆さんからの聴き取りを参考に決めたものである。、この価格も決して高い水準とは言えない。

以上からここで算出した乳飼比に大きな問題があるとは言えない。

 

購入飼料の価格

5.モニター農家の粗収入と所得

モニター農家調査では年間出荷乳量と所得に相当する「酪農収入」を聴いている。年間出荷乳量に乳単価を掛けて販売収入(粗収入)とすると所得率の算定が可能となる。

 

モニター農家の粗収入と所得の把握法

販売収入(粗収入)は32,000元、平均所得は13,730元で所得率は42.9%である。1頭当り所得では約2,000元となる。

 

モニター農家の販売収入と所得・所得率

乳飼比と所得率との間には一方が高ければ他方が低くなると言う相殺関係があり、日本の小・中規模の経営では両者の和(両者を足したもの)は70〜80の間にある。ところがモニター農家ではこうした関係は見られない。

 

所得率と乳飼比

先に検討したように乳飼比には問題がなさそうなので、所得率のほうに問題があるのか。

モニター農家調査で示される「酪農収入」(所得)と牛乳販売額との間にはきれいな相関関係が見られ、疑う余地がないようにみえる。

 

牛乳生産額と所得

 

しかし、「酪農収入」の農家の答えは「これぐらいの牛乳を売ったのだから、これぐらいの所得(収入)はほしい」と言う期待値かもしれない。所得の算出は次に見るように面倒な計算が必要なので、ここで答えている所得(収入)は期待値の可能性が高いと考えれば、これまでの検討が納得できる。

そこで次に酪農経営の精密調査よりこの点を検討する。



6.酪農経営精密調査の分析より

友誼村、紅星村、八一村より各2戸、計6戸の農家に2回ずつの訪問し、酪農経営の収益調査を実施したので、その分析結果を示す。

 

酪農経営精密調査の分析

農経営成果の計測における約束事

この調査では2003年9月より2004年9月までの1年間を計測期間としている。

 

酪農経営成果の計測方法

酪農経営の粗収益

(まず右の「酪農経営の粗収益」を開いてください)

 

酪農経営の粗収益

 

A、B、Eは実際に販売して現金収入が得られる項目である。

赤字で表示したC、Dは現金での収入ではないので目に見えないが、Cは1年間の経営から家畜が増殖(大きくなる)することで資産として増えたものである。またDは期首の評価額が15,000元の成牛を17,000元で売った場合、2,000元の評価差を収益に計上するものである。

酪農経営の経営費(費用)

(まず右の「経営費(費用)」を開いてください)

 

経営費(費用)

 

AからJまでの費目は現金支出を伴う。K、Lは現金支出を伴わないが、長期的に経営を続けて行くのに必ず必要となるものである。

酪農経営の所得および所得率

経営の成果を測る指標はほかにもたくさんあるが、ここでは最も基本的な所得と所得率を使う。

 

所得および所得率

精査農家の経営概要と収益

査農家の平均耕地面積は16.6ムー、成牛換算頭数は7.7頭でモニター農家60戸の平均より経営規模は少し大きい。

平均粗収益は78,600元、所得は40,000元で、所得率は50%を超えている。

しかし、個々の数字は大きく異なっており、平均値はあくまでも参考値に過ぎない。

 

精査農家の経営概要

粗収益の構成

精査農家の粗収益は78.6千元である。その構成は牛乳販売額が63%で最も大きいが、家畜評価増殖額も31%と大きな割合を占めている。

(注3)参照

 

精査農家の粗収益の構成

経営費の構成

経営費のうち64%は購入飼料費で最も大きいが、家畜評価損を含む償却費も22%を占めている。

(注4)参照

 

精査農家の経営費の構成

飼料生産の多い経営と少ない経営

飼料生産の多い経営の1頭当り所得は13,300元であるのに、中ぐらいの経営では6,300元、少ない経営では3,200元、1,300元と大きな違いが出ている。

 

自給飼料が多いと経営効率も高い

飼料自給率と1頭当り所得

1頭当り所得は飼料の自給率が高くなると明らか多くなる。ただし、6戸のうち4戸は自給率20%以下である。

 

1頭当り所得は自給率が高いと高い

所得率と乳飼比は逆相関

これまでと同じように所得率と乳飼比の関係を見ると、ここでは明らかな逆相関を見せ納得できる形になっている。乳飼比が100を超えているのは牛乳販売額より飼料購入費が多いことを示しているが、それでも赤字にならないのは、家畜増殖額が大きいからである。

しかし、購入飼料が多いと所得は低くなるので、購入飼料費の削減は経営改善の重要な課題である。

 

精査農家の所得率と乳飼比

7.飼料の価格と生産費用


購入飼料の価格は飼料の種類により大きく異なる

粗飼料ではとうもろこし茎葉が乾草の4分の1の価格であり、濃厚飼料では大豆粕、混・配合飼料が特に高い。

 

購入飼料のTDN1kg当たり価格

自給飼料の生産費用

何戸かの精査農家情報から自家労賃を除く生産費用を算出した。

とうもろこし穀実の生産費用は購入に比べ数分の1で格段に安い。

 

とうもろこし穀実の生産費用

とうもろこし茎葉や青刈りとうもろこしについても購入したとうもろこし茎葉に比べ半分くらいの水準である。

 

とうもろこし茎葉と青刈りとうもろこしの費用比較

 

乾草の生産費用については2戸の事例しかないが、その生産費用も購入乾草よりかなり安い。

 

乾草の生産費用

 

以上のように、自給飼料の重要性が理解できる。

8.成牛の牛乳生産額に対する相対価格

既に粗収益のうち家畜増殖額の占める割合が高いことを示したが、これは牛乳の価格に対して牛の価格が相対的に高いことによる。

 

精査農家の粗収益の構成(再掲)

 

次の図は成牛の価格に対して1年間の牛乳生産額がどの程度になるかを日本の相対価格と比較したものである

 

成牛1頭の価格と牛乳生産額

 

ここでは成牛1頭の価格がおよそ牛乳生産額2年分に相当するが、日本では1年の牛乳生産額の約60%(7か月分の乳代)が成牛1頭の価格である。

雌牛育成の重要性

牛乳に対して牛の相対価格が高いと言うことは、逆に牛乳の価格が安いと言うことでもあり、経営にとって健全に雌牛を育成することは極めて重要な課題である。繁殖率の向上とともに流産・死産などを減らして行く技術対策が求められる。



要   約

これまでのモニター農家調査結果および経営精査の分析を簡単に要約すると以下のようになる。

  1. 耕地、草原の自給飼料基盤が少なく、自給率が極めて低い。
  2. したがって、購入飼料依存の経営になっている。乳飼比が高く、牛乳生産の場面では収益改善の余地が少ない。
  3. しかし、粗収益のなかで育成牛の増殖価額は大きく、これが経営を支えている経営も多いと思われる。
  4. これは、牛の価格が牛乳の生産額に対して高いことによるものであり、短期的に牛乳価格の上昇が期待できない限り、雌牛育成は経営改善にとって重要な課題である。
  5. 購入飼料に依存した経営なので、価格の安い飼料をうまく利用する必要がある。
  6. 自給飼料の生産費用は購入飼料に比べ格段に安く、自給飼料生産の重要性を確認できた。
  7. 購入飼料の中でも品目によって価格差は大きく、粗飼料である乾草やとうもろこし茎葉は安く、濃厚飼料である大豆粕や配合飼料は特に高い。

若干の提言

以上を踏まえると、以下の対策を提言できる。

  1. 自給飼料基盤の拡大→先源郷では困難?
    現在の生産量ではサイレージ貯蔵の利点は活かされない。
  2. とうもろこし茎葉の有効利用
    現在大量に購入されているとうもろこし茎葉は購入したものでも安い飼料である。現状の利用量は成牛の維持飼料要求量の約60%を満たしているが、もう少し増加することは可能であろう。そのためには購入時の水分の高い時期に良質なサイレージを大量調製するなどの方策が求められる。
  3. 大豆粕、配合飼料などの価格の高い飼料に変わるものはないか。
    例えば、蛋白飼料としては大豆粕の代わりに綿実粕など植物性油粕類の利用を検討。
  4. 繁殖育成技術の改善
    雌牛育成は経営上極めて重要なので、繁殖率の向上や事故率を低くするような技術対策が早急に望まれる。精査農家の14頭の平均分娩間隔は約17か月でり、また流産・死産の例も多いことから改良の余地は大きい。
  5. 乳雄子牛の育成技術確立と雄子牛の経営資源としての活用
    現在雄子牛は生れ落ちるとすぐ200元位で処分されているが、これを肉用素牛として育成する技術を改良し、経営資源として活用する対策が望まれる(現状では採算に合わないと言う−未検討)。

外部環境の整備

  1. 飼料基盤強化の検討
  2. 適正な乳価の実現
  3. 金融・信用制度の整備
  4. 期待される「乳牛協会」の機能強化

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