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 Wide Swing Tremolo
 
Son Volt 
(Warner Bros.) 
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 待望の新作。ザ・バンドにとっての“ビッグ・ピンク”を思わせる“ジャジューカ・プレイス”なる倉庫でリハーサル〜レコーディングのすべてを行なったという。そのせいか、出音がでかそうだし、のびのびしているし。大方の収録曲はこれまで通りのオルタナティヴ・カントリー〜ルーツ・ロック路線なのだけれど、リズム隊のタイトさが一段と増したせいか、スケールがでかく聞こえる。成長ぶりが目に見えていて、たのもしい。 
 
 ジェイ・ファーラーの曲作り、歌詞作りもより幅広くなったみたい。タフさとメランコリックさが交錯するファーラーの味は、やっぱりいいねぇ。 
 
 ちなみに、これまた大傑作だった前作のレビューはこちらです。
 
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 Mutations
 
Beck 
(Geffen) 
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 『オディレイ』からたっぷり2年ぶりの新作! 
 
 ベックの場合、『メロウ・ゴールド』とか『オディレイ』のような、わりと派手に作り込んだアルバムはメジャーのゲフィンから、より簡素なアコースティック・アルバムはインディのボング・ロードから、それぞれリリースしていたが、今回はその中間っぽい仕上がりだ。実際、最初はボング・ロードからのリリースを予定していたものだとか。そういう意味では“地味になったな”と感じるリスナーが多いかもしれない。けれども、たとえば前2作のローファイでハイパーなファンキー・ルーツ・ロックのような世界の背後にぴったりと潜んでいた、内省的なシンガー・ソングライターとしてのベック像を感知していた人になら、まったく問題なし。ベックが本盤で提示する新しい世界観にも無理なくとけ込むことができるはずだ。 
 
 今回はサンプラーもコンピューターもなし。レディオヘッドとの仕事で一躍名を馳せたナイジェル・ゴッドリッチのプロデュースのもと、過去に書きためた曲をかき集め、ほんの2週間スタジオにこもってほぼ一発録りでレコーディングされたという12曲。ベックは間違いなく、ヴィック・チェスナットやロン・セクスミス、エリオット・スミスら並ぶ……いや、彼らから頭ひとつ抜きんでた素晴らしい新世代シンガー・ソングライターなのだなと思い知らせてくれる。基本的にはアコースティカルな1枚だが、フォーク、カントリーの要素だけでなく、ジャズ、ボサノヴァなど幅広い音楽性が見え隠れするのは相変わらず。いい曲、多いぞ。正攻法が彼の才能のでかさをさらに浮き彫りにする。 
 
 親父さんの弦アレもあり。
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 Dressed Up Like 
Nebraska
 
Josh Rouse 
(Slow River/Rykodisc) 
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 今年の4月ごろに出た盤らしいんだけど。最近入手して、けっこう気に入りました。アルバム・タイトル通り、ネブラスカ生まれで最近ナッシュヴィルへと引っ越した25歳だとか。あ、ジャケットに映っている女の子じゃないです。男です。 
 
 もともとはスミスとかU2が好きで、やがてニール・ヤングに惚れ込んだという音楽体験の持ち主らしく、往年のネオアコ風味も感じられる内省的なカントリー・ロック系シンガー・ソングライター。本盤は、小さな街のふとした情景を端正に綴ったデビュー・アルバムだ。かなり力のあるソングライターだと思う。
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 Electro-Shock Blues
 
Eels 
(Dream Works) 
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 2年ぶりのセカンド。 
 
 前作同様、基本的にはダスト・ブラザーズの片割れでもあるマイケル・シンプソンとEの共同プロデュースだ。ミッキーP、ジム・ジェイコブソン、プリンス・ポールといった気になる名前もプロデューサーにクレジットされている。 
 
 さりげなく、けれども密度濃く構築された1枚という手触りは変わらないが、歌詞的にもサウンド的にも、前作以上にEのパーソナルな色合いが強く打ち出された仕上がり。なんでも前作以降、Eは母親、姉、友人など、多くの死に遭遇したのだとか。そうした厳しい体験が彼のまなざしにより一層の鋭さと閃きを与えたのだろうか。90年代を代表する屈指のシンガー・ソングライター、Eのすばらしい音宇宙がここにある。
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 El Oso
 
Soul Coughing 
(Slash/Warner Bros.) 
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 相変わらずのネオ・ボヘミアン・ヒップホップ・ビーバップを展開する3枚目。前作はデイヴィッド・カーンがプロデュースしていたけれど、今回はファースト同様、チャド・ブレイクとの共同プロデュースがほとんど。数曲を、なんとオプティカルがプロデュース。やっぱりというか何というか、ドラムンベースに手を出してますよ。 
 
 アメリカのオルタナ系FM受けしそうな、そっち方面におけるキャッチーな曲がずらり。もはやコラージュ的な感覚で乗り切れる時代でもなくなってきていることに感知しているのか、バンド自体のグルーヴを強めようとしている局面も見受けられるのが面白い。
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 All About Town
 
The V-Roys 
(E-Squared) 
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 スティーヴ・アールとレイ・ケネディによるザ・トワングトラストのプロデュース作品。アールとレコーディングしたこともあるVロイズの、たぶん単独ではこれが E-Squared からのセカンドだ。 
 
 オルタナティヴ・カントリー・バンドってことになるのかもしれないけれど、この人たちの持ち味は、むしろ真っ向から骨太なカントリーをぶちかましたときに発揮されるみたい。なので、けっこうロック寄りに曲を展開するアルバム前半よりも、ぐっとストレートアヘッドなカントリー色を強めるアルバム後半のほうがしっくりくる。
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 Prolonging The Magic
 
Cake 
(Capricorn) 
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 大ヒット曲「ザ・ディスタンス」を作ったオリジナル・ギタリストのグレッグ・ブラウン脱退後の初アルバム。通算3枚目だ。だいじょうぶかな、と心配したけど、まあまあだいじょうぶ。まあまあやばい。そんな仕上がりだった。 
 
 オルタナティヴ・テックス・メックスとも言いたくなるようなセンスと、80年代初期のニュー・ウェイヴ・バンドのたたずまいが合体したような全体の手触りはそのまま。でも、前作に漂っていた抗いがたい“えぐさ”とか“太さ”のようなものが削ぎ落とされてしまったような感じもあって。なんだか物足りない。チープでファンキーなアンサンブルは相変わらず魅力的なんだけど…。
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 John Mellencamp
 
John Mellencamp 
(Columbia) 
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 近ごろ能地がすっかりメレンキャンプ・フィーバーに突入しているもんで。詳しくは能地のページを見たほうがいいかもしれませんが。 
 
 マーキュリーからコロムビアへ移籍しての第一弾。サウンドの構造としては96年の『ミスター・ハッピー・ゴー・ラッキー』と同じかな。アコースティック・ギターとフィドルという、メレンキャンプお得意の生楽器を含むバンド・サウンドと、サンプリング/ループと、シタールとかタブラといったエスニック楽器とが不思議なバランスで渦巻きながら構築されたルーツ・ロック・ワールド。曲によって一時のトーキング・ヘッズみたいになる瞬間もあったりする。 
 
 ガンズのイジー、ハートブレイカーズのスタン・リンチあたりをゲストに招いた曲でのグルーヴ感はさすが。やっぱりこの人からは目が離せない。インディアナ・ロッカー魂は不滅ってとこですか。でも、全体の印象は地味なので、またあまり売れないかも。
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 Painted From Memory
 
Elvis Costello & Burt Bacharach 
(Mercury) 
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 映画『グレース・オブ・マイ・ハート』のサントラのために共作した「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」をきっかけに生まれた1枚。コステロが作詞と歌唱、バカラックが作曲。収録曲それぞれに、過去のバカラック・ナンバーの味をちりばめ、コステロが彼らしい皮肉な唱法でじっくりと綴る。 
 
 コステロのファンからしてみれば、彼の場合、デビュー直後のコンピレーション『ライヴ・スティッフ』ですでにバカラックの「アイ・ジャスト・ドント・ノウ・ホワット・トゥ・ドゥ・ウィズ・マイセルフ」を歌っていたりしたわけで、特に違和感のない組み合わせなのだけれど。一方、バカラック・ファンにしてみると、コステロの歌い方が生々しすぎてちょっとひっかかるかもしれない。実際、アルバム1枚聞き通すと、かなりコステロ好きのぼくでも少し疲れる。 
 
 それなりにいい曲だらけなので、ちょっとずつ、休み休み聞くほうがいいかも(笑)。
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