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Play Games
Dog Eat Dog (Roadrunner)

 ドッグ・イート・ドッグ、たぶんこれ、セカンドかな。少なくともぼくが買った2枚目の彼らのアルバム。いやはや。ごきげんですよ、これは。

 まず、スポーツ・カートをかたどったジャケットがグー。ジャケット開けると、6人のメンバーそれぞれのスポーツ・カードふうピンナップも入っているし。アトランタに向けて盛り上がる中でのリリースとしちゃ、狙いはばっちりでしょうかね。

 もちろん、音がごきげん。ヒップホップ、オルタナ、ハードコア、パンク、メタル、スカ、レゲエ……といった要素を、むちゃくちゃ貪欲に、無軌道にごちゃまぜにしたスピーディな仕上がり。フィッシュボーンをさらに無邪気にしたみたいな雰囲気もある。いいよー、これ。そういった、今やたら元気のいいタイプの音楽を、ポップなセンスで再構築した感じ、とも言える。いい意味でアイドルっぽい肌触りもあるし。

 曲によってはRZAとコラボレートしていたり、ロニー・ジェイムズ・ディオが参加していたり。ハマりました、私ゃ。





Stakes Is High
De La Soul(Tommy Boy)

 これが最後のアルバムになるかもしんない……なんて物騒な噂も耳にしたけど。

 デ・ラ・ソウルの4枚目。ニュースクールの代表選手みたいな感じでシーンを席巻した彼らだけど、近ごろはぐっとオールド・スクールなツクリが目立つ。今回もそう。かっこいいです。ストリートっぽいというより室内技的な手触りがあるのは、持ち前の変わらぬ個性かな。

 でもって、対象に向かう眼差しも相変わらず。東対西のヒップホップ抗争からファッション・トレンドまで、今おいしいネタを次々拾ってきては、彼ら独自の視点でばっさばっさとなぎ倒す。つーか、ドア・チャイム鳴らして、ブワーッと逃げてく悪ガキのりのところもあるけどね。

 頭いいやつらだなと思います。2パックとかドレとかとは、また違ったタイプの、現在のヒップホップ・マスターだなぁと改めて思った。





Chaos And Disorder
The Artist Formerly Known As Prince(Warner Bros.)

 長年在籍したワーナーでのラスト・アルバムだとかで。最後になって、いきなし超どポップな一枚をぶちかますこの感じ。元プリンスさんのひねくれ根性炸裂ってとこか。これまでさんざんアヴァンギャルドな“売れない”アルバムに頭を痛めてきたワーナーのお偉方がギリギリしてる光景が思い浮かぶ。ロージー・ゲインズも迎え、ニュー・パワー・ジェネレーションとともに、今年の3月、マイアミでたったの2日で録音されたという新作は“こんなもん2日もありゃ作れるんだぜ”という元プリンスの不敵な笑みに包まれた、ごきげんにストレートなロックンロール・アルバムだ。

 といっても、当たり前ながら、別に手抜きなわけじゃない。7のタイトル通り。ロックするがゆえに我あり。心意気むんむん。ここんとこ彼は、時代の最先端を体現するのではなく、時代を超える様々な不滅のポップ・イディオムを彼なりに再構築するという作業にいそしんできたけれど、今回はさらに照準を絞って、多彩な顔を持つ元プリンスの“ロックンロール・エンターテイナー”としての側面をとことんズームアップしてみせた仕上がり。曲によっては70年代ディスコ調のえぐいやつもあるが、そのまっすぐなアプローチぶりも含めて、手触りはどうしようもなくロックンロール。ギターも弾きまくってるし。楽しい楽しい。そんな大騒ぎ盤を最後に、18年におよぶワーナーとの関係に終止符を打った元プリンス。さて、次はいったいどこに向かうのか。移籍先は? 今度はどんな音楽性に照準を? 名前の行方は? やー、興味の引き方がうまいね、この人は。

(for What's In? Magazine)





It Was Written
Nas(Columbia)

 大傑作『イルマティック』に続くナスティ・ナスの新作。前作では、特に日本でだけど、ピート・ロックも含むサウンド・クリエイト陣の才能みたいなものへの評価が高かったみたいだけど。今回、輸入盤で買っても歌詞が全部ついてて。それ読んでたら、この人、やっぱり歌詞のほうもすごいってことがよーくわかって。今さら何言ってんだかって感じではありますが。うん。うなりましたよ。

 独特のインテリジェンスってのがあるね。デラとはまた違ったインテリジェンス。そっち方面に着目させられた新作でしたわ。この人、まだ若いんだよね。よく知らないけど。先が楽しみっていうか。これ聞いた、さらなる若手がどんな刺激を受けてくれるかがまた楽しみな仕上がりです。





Hawaii
The High Llamas(Epic)

 この人たち、ぼくはノーマークだったんだけど。高橋健太郎くんとか、佐野郷子とか、音楽関係の友人たちみんなからすすめられちゃって(笑)。「健太くんはきっとハイラマズ好きだよ」って。なもんで、買いました。ステレオラブがらみの人脈としても取り上げられることの多い英国ユニットですが。

 これが、なんというか、全編「キャビネッセンス」と「フレンズ」と「ペット・サウンズ」みたいな。スマイル・エラのブライアン・ウィルソンへの屈折に満ちた愛情がほとばしりまくる一枚。いるんだねぇ、こういうやつは。

 とともに、今のスタジオ・ワークってのは、ブライアンがかつて全身全霊をこめて作り上げた、あの豊潤なサウンドを、わりかし、いとも簡単に再現できるだけのノウハウとか、センスとかを身につけてるんだなぁ、と思い知る。

 ところで、このアルバム、週刊文春でも紹介されてた。最近の週刊文春、やけにカルトな盤とか取り上げられていて。誰か、けっこううるさい若手が編集部に入ったんだろうね(笑)。





Odelay Beck (MCA)

 ようやく登場。待たされました。ベック、3年ぶりのメジャー・レーベル盤。でもって、仕上がりは、よかった。ばっちり。間違いなく90年代もっとも有効な表現手段としてのヒップホップ感覚を大胆に導入しながらも、ブルース、R&B、ジャズ、フォークといったルーツ音楽への尊敬の念と愛情とを存分にたたえた音作り。3年前に大当たりした「ルーザー」で見せてくれた衝撃の方法論は、さすがに初発の斬新さは失ったものの、いまだ有効に機能している。

 ベックとかG・ラヴとか、あるいはスピーチあたりも含めて。ルーツ音楽とヒップホップ感覚の融合を見事にやってのける連中がシーンに台頭してきたことで、ずいぶんとたくさんフォロワーが誕生。日本でも様々な後追いアプローチが見られた。けど、正直言って、ヒップホップとかハウスとか先端の音を好きな連中が、付け焼き刃でルーツ音楽も利用したような、そんな中途半端な手触りのものが多かったのも事実。トレンドとしてのルーツ音楽、みたいな。対してベックを筆頭とする先駆者たちの場合は、トレンドも何も関係なく、まず何よりもルーツ・ミュージックにどっぷしハマっていて。そっちをベースにヒップホップの味を取り入れているわけで。ここがいい。かっこいい。地に足ついてる。

 今回もベックがほとんど一人ですべての楽器を演奏。究極の宅録感は変わらない。が、曲作りの面でさらに成熟。ベックとともに共同プロデュースを手がけたダスト・ブラザーズの存在も大きかったようだ。ヒップホップ時代のシンガー・ソングライターの理想的な在り方って感じかな。

(for What's In? Magazine)