Reviews   Music


New World Order
Curtis Mayfield (Warner)


 むちゃくちゃうれしい。最高。ついに完全復帰だ。

 カーティス・メイフィールド。

 ニュー・アルバムが出ましたよ。フル・アルバム。まじに。うれしくてうれしくて。胸がいっぱいだ。

 90年8月の忌まわしい事故のこととか、カーティスのキャリアのこととかは、以前ここに書いたので、ぜひ参照してください。一時は再起不能かとも言われたものの、その後病状も徐々に回復。確か91年のロックンロール名誉の殿堂セレモニーの際、病院のベッドからカメラを通して全米にメッセージを送ったり、その翌年だったかのグラミーか何かの折りに車椅子でステージに登場したり。94年にはカーティスを愛する若手・ベテラン入り乱れて作り上げた素晴らしいトリビュート・アルバムの中で1曲、軽く歌声を聞かせてくれたりもした。車椅子でもできる、ヒップホップのサンプリング権利のコーディネイトの仕事をぼちぼちこなし始めているという噂も耳にした。

 そんなこんなを経て、出ました、ついに、6年ぶりのフル・アルバム『ニュー・ワールド・オーダー』。内容もばっちり。ちっともナマっちゃいない。繊細さ太さをあわせもつカーティス節が炸裂。震えがくる。

 復帰前と何ひとつ変わっちゃいないんだけど。その、何ひとつ変わっちゃいないってことが、こんなにも胸を震わせてくれることだったなんて。かけがえのないグレート・パフォーマーの完全復活だ。心から祝おう。


Pinkerton
Weezer (MCA)

 Windows95のCDロムにビデオクリップが収録されていたことでもおなじみ(笑)、ウィーザーのセカンド・アルバムだ。

 前作は輸入盤が出回りだしてからずいぶん長いことかかって日本盤が出たものだけど、今回は来日もあるせいか、国内先行発売だったんじゃないかな? よくわかんないけど。まあ、火がつくのは確かに遅かったものの、デビュー盤は結局200万枚くらい売り上げたみたいだから。当然でしょう。

 で、その本格ブレイク後初のアルバムの内容はといえば、これがなんとも、とんでもなくアグレッシヴ。前作はリック・オケイセックのツボを心得たプロデュースのもと制作されていたせいか、要所要所にポップでキャッチーなポイントが設けられていたけれど。今回はそんなことおかまいなし。メンバーのリヴァースのセルフ・プロデュースだけに、リスナーのことなんか目に入ってないんじゃないかってくらいパーソナルな仕上がり。身勝手に轟音をぶちあげ、身勝手に情けなさを露呈しまくり、身勝手に音程をはずしまくり……。

 ファーストのポップさに惹かれていた人には、ちょっと意外な仕上がりかも。でも、そのなんともいえないダメっぽさが、妙に耳に残る、そんな一枚ですよ。


One Mississippi
Brendan Benson (Virgin)


 前回紹介したジェイソン・フォークナーと友達なんだとか。もうひと月くらい前に日本盤が出ているので、ご存じの方も多いとは思いますが。

 そのジェイソンとの共作曲も多く含むデビュー・アルバムだ。チマタでは、ベン・フォールズ・ファイヴをも凌ぐ新世代のメロディ・メイカー……みたいな言われ方をしているみたいだけど。まあ、そのとらえ方でほぼ間違いはないと思う。基本的にはベックやらG・ラヴやらベン・リーやらスプーキー・ルーベンやらと同じ、ヒップホップ世代以降のシンガー・ソングライターなわけだけど。

 なんでも、ガキのころから親の影響でデヴィッド・ボウイやストゥージズを浴びるように聞いていたそうで。そうした、どこか退廃的な手触りもあって面白い。かと思うと、近ごろ話題の60年代ソフト・ロックっぽいニュアンスもあったりして。丹念な曲作りぶりが印象に残る。

 アルバム・タイトル通り、南部出身らしいが、いわゆる南部野郎っぽい無骨さはない。音楽的にはやはりジェリーフィッシュに通じるものが強く感じられる。屈折ポップ。そんなサウンドに乗せて、もっと、こう、なんつーか、ツインピークス的な、アメリカの深い病巣とかも思わせる、ちょっとヤバめの内省的な歌詞が歌われていたりして。深いね、アメリカの若者はさ。


The Concert For
The Rock And Roll Hall Of Fame

Various Artists (Columbia)

 クリーブランドにできたロックンロール名誉の殿堂の完成を祝して催されたスペシャル・コンサートの模様を収録した2枚組ライヴ盤。

 ジョン・メレンキャンプの「R.O.C.K. In The U.S.A」でスタート。メリサ・エスリッジの「ビー・マイ・ベイビー」だの「リーダー・オヴ・ザ・パック」だの、アル・グリーンの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」だの、アレサ・フランクリンの「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」だの、ジョン・フォガティのCCR曲だの、イギー・ポップ&ソウル・アサイラムの「バック・ドア・マン」だの、Pファンク・オールスターズのスライ&ファミリー・ストーン・メドレーだの、ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドとジェリー・リー・ルイスの共演による「火の玉ロック」だの、スラッシュ&ボズ・スキャッグスの「レッド・ハウス」だの……。なんだか、興味深いような、おそろしいような取り合わせによる名曲がざくざく。

 まあ、興味はその取り合わせ云々一点。よく海外の音楽賞とかの中継見ているときに、わー、こんな取り合わせでこんな曲を……とか喜んじゃうシーンに出くわすけれど、そのオンパレードって感じです。楽な気分で楽しむには絶好かな。


Grace Of My Heart
Original Motion Picture Soundtrack (MCA)


 バート・バカラックとエルヴィス・コステロが主題歌を共作したってことでも話題の映画のサントラ。この映画と、そこで使われている音楽については、シアトル在住の佐々田さんからEメールをいただきました。ご本人の許諾のもと、以下に引用しておきますね。


From: 佐々田利宣@シアトル
 健太さんこんにちは。

 今日は、先日観た1本の映画のことについて書こうと思います。これはぜひ健太さんにお伝えしなければ、という気持ちになったので。

 その映画の題名は "Grace Of My Heart" といいます。この映画のことは、もうご存知かも知れませんね。 こちらでは先週公開になりました。

 エルヴィス・コステロとバート・バカラックが一緒に曲を創っている、というニュースが以前に伝わってきましたが(しかし何という組み合わせ!)、この映画の主題歌は彼らのペンによるものです。最近のビルボード誌にも二人仲良く並んだ写真が小さく載っていましたね。監督はアリスン・アンダーズという女性、そしてマーティン・スコセッシがエグゼクティブ・プロデューサーを努めるこの映画は、フィフティーズ/シックスティーズ・ポップスを愛する人には興味深い一本ないでしょうか。

 歌手を夢見ていた一人の女の子がふとしたきっかけでとある音楽出版社の専属作曲家になり、公私共に波乱に満ちた生活を送る、というのがごく簡単なあらすじなのですが、現実にあったフィフティーズ/シックスティーズ・ポップスの状況とフィクションがシンクロするところにこの映画の醍醐味があるのではないかと思います。あのブリル・ビルディングが大きく映し出されるシーンまであるのですから。

 主人公のデニースを演じるのは、スコセッシのパートナーとも言われているイリアナ・ダグラス。彼女が勤める音楽出版社の社長役にジョン・タットゥーロ(いつもジョン・タツローと言ってしまう)、同僚の作曲家にパッツィ・ケンジット、そしてデニースの2番目の夫役にマット・ディロン。それぞれが実際のどの人物をモチーフにしているのかを考えるだけでも楽しめます。

 デニースはおそらくキャロル・キング(キャスティング・ロールのいちばん最後に "For C." とありました)。ジョン・タットゥーロはフィル・スペクター、あるいはドン・カシューナー。パッツィ・ケンジットはどうやらエリー・グリンウィッチかシンシア・ウェイル。他にもゲリー・ゴフィン、バリー・マン、ダイアナ・ロス、ライチャス・ブラザーズ、おまけにレズリー・ゴーアのような人物まで出てきます。

 問題は、マット・ディロンの役柄です。 サーフィン・サウンド・バンドのリーダーだったが既存の音楽形式に飽き足らなくなってしまい、より精神性と純粋さに満ちた音楽を嗜好するアーティストを演じています。

 健太さんなら、もうおわかりですね。そうなのです。あの人なのです。マット・ディロンの演技自体は悪くなかったのですが、実際の人物に起こった出来事を、こんなふうに物語用に再構築してもよいものだろうかと少し疑問も残りました。イリアナ・ダグラスはとてもはっきりとした顔立ちで、ときどきマリリン・ウィルソンのように見えてなりませんでした。

 この映画は、日本でも公開されるのでしょうか。話はもとに戻りますが、コステロ=バカラックによる"God Give Me Strength"は出色の出来ばえで、劇中ではデニースが歌うシーンが(ただし吹き替え)、そして最後のキャスティング・ロールのときには、コステロ自らが歌うバージョンが流れてきました。近く発売予定のサウンドトラック盤を早く手に入れて聴いてみたいと思う毎日です。


 なかなかにサントラ盤だけでも興味深い一枚でした。ウィリアム・ブラザーズがもろエヴァリー・ブラザーズっぽい曲を歌っていたり、フォー・リアルがかつてのガール・グループっぽいものをやっていたり。元ネタ探しだけでも、まじ、楽しいCDっすね。


Lather
Frank Zappa (FZ / Ryko)

 1977年に出るはずだったのに、結局オクラになっていたアナログ4枚組が、CD3枚に詰め込まれ、さらにボーナス・トラックも追加して、ようやく公式リリースされた。

 未発表もの、別ヴァージョン、別エディット、別ミックスなどがごったまぜになっているのだけれど。実際のところ、大方の音源は78年から79年にかけて別々のアルバムに収められて世に出ていたりもする。

 ので。よっぽどザッパにハマってる人以外には、あまり必要ないものかもしれないけれど。音源的には73年から77年まで、ある意味でザッパがもっともノリにノっていた時期のものばかりなので。もしかしたら、これを入門篇にしちゃうという狼藉も、そう悪くないアイデアかもしれないね。

 やっぱ、すんげえ才能です。音楽にかけるパッションが違うね。ぶっとびますわ、改めて。