2000.6.6

Transcendental
Blues

Steve Earle
(E-Squared, LLC/Artemis)


 デル・マッコーリー・バンドと組んだ前作で伝統的ブルーグラスのグルーヴを見事現代に甦らせたスティーヴ・アールの新作だ。今回は曲ごとによりバラエティに富んだアプローチを展開している。もちろん、レイ・ケネディとの名ユニット“トワングトラスト”名義でのプロデュース作。これとかこれとかこれとかと並ぶ、またまた名盤を作り上げてくれた。バックを固めているのは、基本的には現在のザ・デュークスの面々(ギターのデイヴィッド・スティール、ベースのケリー・ルーニー、ドラムのウィル・リグビー)だ。

 とはいえ、曲によって興味深いゲストも参加。特に目立っているのが、ブルーグラスに続くさらなるルーツ探しの旅とでも言えそうなアイルランド(ダブリン)録音2曲のミュージシャン陣だろう。名アコーディオン奏者、シャロン・シャノンと彼女のバンド・メンバーを迎えて新味を聞かせている。といっても、“スティーヴ・アール、アイリッシュ・ミュージックに挑戦”みたいなストレートな感じではなく、かたや「Steve's Last Ramble」って曲は往年のボブ・ディラン系フォーク曲をアイリッシュふうの2ステップ・ビートで聞かせるもの。もうひとつの「The Galway Girl」は、マウンテン・ミュージックっぽさとアイリッシュ・リールっぽさとが無骨な2ビートに乗って渾然と交錯する感じの曲。的確な主張が感じられて、さすがスティーヴ・アールと感心してしまう。

 レイ・ケネディがベース、兄弟のパトリック・アールがドラムを手がけた「All Of My Life」や、ベンモント・テンチが参加した「Wherever I Go」「I Don't Wanna Lose You Yet」、ザ・デュークスががっちり独自のグルーヴを聞かせる「Another Town」あたりは、いかにもスティーヴ・アール!って感じのカントリー・ロッキン・チューン。妹のステイシー・アールとデュエットを聞かせる「When I Fall」は佳きころのフォーク・ロック・サウンド。ティム・オブライエンのマンドリンを従えた「Until The Day I Die」は前作を引き継ぐようなブルーグラス・ナンバーだ。

 ところで、「I Don't Wanna …」や「When I Fall」もそうなのだけれど、今回はわりとサビで泣きのポップ・メロディが出てくる曲も多い。この辺、ジュールズ・シアーにも相通じるビートルズ好きの側面が炸裂しているのかもしれない。「The Boy Who Never Cried」に登場してくるポルタメントを効かせたストリングス・アレンジにもビートルズの影が色濃い。「Everyone's In Love With You」も、まあ、ザ・バーズととれなくもないものの、やっぱり『ラバーソウル』〜『リボルバー』期のビートルズと言ったほうがぴったりくる仕上がりだし。「I Can Wait」に至ってはもろマージー・ビートって曲調。ハーモニウムが印象的に使われるアルバム・タイトル・チューンも含めて、全体的にイギリス方面に寄った仕上がりと言えなくもなさそう。

 もちろん、シンガー・ソングライターとしてのスティーヴ・アールの持ち味が淡々と披露される「Lonelier Than This」とか「Halo 'Round The Moon」「Over Yonder (Jonathan's Song)」のような佳曲もあり。

 と、かなりバラエティに富んだアプローチを聞かせるこの新作。でも、全体を貫くサウンドがあくまでも生ギターの響きとワイルドなドラムのグルーヴを中心に据えたアコースティックなものなので、けっしてとっちらかった感じはない。日本盤にはボーナス・トラックも1曲入るんだって?


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