1998.7.3

Simple Gearle
Stacey Earle
(Gearle)

 能地がナッシュヴィルで買ってきた1枚。スティーヴ・アールの妹さん、ステイシー・アールのインディーズからのアルバムだ。スティーヴ・アールのアルバムでバック・コーラスやったりしていたけれど、自分でも活動していたんだね。

 4人組のザ・ジュエルズなるバンドを率いて、曲によってはスティーヴ・アールをコーラスに迎えて仕上げられている。内容もいい。いい曲書いてるし、歌声もなかなか。こういう人が、なんだかんだ言ってインディーズ、それもほぼ完璧な自費出版でしかCD出せないっていうんだから、アメリカの層の厚さを思い知る。  無駄な音を極力廃したアレンジも印象的。ホームページもあって、そっから注文もできるみたいなので、興味のある人はぜひ、ひとつ。



VH1 Storytellers
Johnny Cash /
Willie Nelson
(American)

 祝・アメリカン・レコーディング再生!

 リック・ルービンの意欲的なレコード会社、アメリカン・レコーディングが活動休止してしまったというニュースに心を痛めていたルーツ・ロック・ファンは多いと思う。ぼくもそんなひとり。ジェイホークス、ピート・ドロージ、フリー・ホイーラーズなどごきげんな連中を世に送り出し、ジョニー・キャッシュ、ドノヴァンといったベテランを再生させてきたあのレーベルには心から期待していたから。

 でも、ついに米コロムビアに配給元を移して活動再開。新譜がリリースされるようになった。喜んで買ってきました。ハードコア・パンク系のシステム・オヴ・ア・ダウンなるバンドの盤と、これ。  これはね、ちょうど去年、休暇でハワイに行っていたとき、VH1でずっと前あおりしていた番組の音源をCD化したもので。シンガー・ソングライター系の人たちが登場して、自ら曲の成り立ちなどを語りながら生演奏を聞かせる“ストーリーテラーズ”というシリーズものの一環だ。一昨年、ハワイに行ったときには確かジェームス・テイラーが出ていて。それもオンエアの前あおりをしていたなぁ。JTのも実際のオンエアは見られなかったし、こっちも見られなかったんだけど。

 うれしいです。こうして音だけでも聞けて。きっとビデオも出ているんだろうな。それも欲しいぞ。

 というわけで、ジョニー・キャッシュとウィリー・ネルソン。「ウォリード・マン」「フレッシュ・アンド・ブラッド」「フォルソン・プリズン・ブルース」「ファニー・ハウ・タイム・スリップス・アウェイ」「クレイジー」「ナイト・ライフ」といったそれぞれの自作曲はもちろん、「ライダーズ・イン・ザ・スカイ」「アンチェインド」「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」といった他ソングライターによる代表レパートリーも交えながら、だらだらおしゃべりしつつ、本人たちのギター2本で綴る、実にコアな世界。

 たまらん男の美学ですよ。



The Philosopher's
Stone:
The Unreleased Tapes Vol. 1

Van Morrison
(Polydor)

 1971年から1988年までに残された30曲の未発表音源を集大成したレア・トラック集。まったく初出の曲もあれば、別ヴァージョンもあり、再録ものもあり。

 なんだけど、これがすごいのさ。このほぼ20年のヴァン・モリソンの歩みを見事に総括してみせてくれるような充実ぶり。ブルース、ジャズ、ゴスペル、ソウル、R&Bといった魅惑的な黒人音楽を、アイリッシュとしていかに自らのものへ昇華させていくか。そんな見果てぬ孤高の旅を雄々しく続けたモリソンの姿がくっきりとらえられている。

 圧倒されます。と同時に、この人の長いキャリアを公式発表音源できっちり綴ったボックス・セットの登場を心から願いますよ。



Premonition
John Fogerty
(Reprise)

 前作『ブルー・ムーン・スワンプ』で、まったく衰えぬルーツ・ロック魂を爆発させたジョン・フォガティの最新ライヴ。CCR時代の名曲を中心に、ソロ作品も織り交ぜつつ、ディープに、スワンピーにロックンロールしてみせる。かっこいいぞー。

 CCR時代に使っていたのとまったく同じアンプと、ほぼ同じギターを弾きながら、フォガティさんは見事に吼えまくる。バーバンク・スタジオで収録されたもので、何曲かにはフォガティ自身がバック・コーラスをダビングしたりもしているので、純正のライヴ盤というより、過去の名曲の再演盤として企画された1枚と思ったほうがいいかも。

 「グリーン・リバー」「フォーチュネイト・サン」「プラウド・メアリー」「トラベリング・バンド」といったCCRものと、「オールド・マン・ダウン・ザ・ロード」「センターフィールド」といったソロものと、歳月を隔てて、しかし彼が何ひとつ変わらずにロックンロールしていることを思い知らせてくれる1枚だ。



We Ran
Linda Ronstadt
(Elektra)

 グリン・ジョンズのプロデュースのもと、マイク・キャンベル、ベンモント・テンチ、ハウィー・エプスタイン、バーニー・レドン、ワディ・ワクテルらがバックアップ。で、取り上げている曲は、ボブ・ディラン、ジョン・ハイアット、ブルース・スプリングスティーンなどの作品。

 と、まあ、ほぼ20年前の活動スタンスにもどったかのようなリンダの新作。スタンダード歌ったり、ミュージカル出たり、メキシコ歌謡に回帰したり、いろいろやってきたけれど、もう50歳も超えて、再び初心にってことでしょうか。でも、すごくいい仕上がりだと思う。前の子守歌集もすごくよかったけど、これもすごくいい。

 自然なリンダ・ロンシュタットの姿だね。



Out There
Jimmie Vaughan
(Epic)

 スティーヴィー・レイ・ヴォーンの兄貴、久々のソロ・アルバムだ。ナイル・ロジャースが1曲プロデュースして、ドクター・ジョンが1曲ソングライティングに関わっている以外、あまり派手なゲスト参加はなし。弟の豪放なスタイルとはちょいと違う、持ち前のよりコンパクトなテキサスR&Bテイストを実直に発揮している。

 ごきげんなギターも、ちょいと弱めの歌声も、いい味。新鮮みは何一つないものの、ブルースやR&B、そして何よりもロックンロールへの深い愛情が満載されていて、好感度抜群です。



Twistin' In
The Wind

Joe Ely
(MCA)

 テキサス州オースティンのベテラン・カントリー系シンガー・ソングライターの新作。ジャケットのイメージ通り、ダークかつダスティな空気感ただよう渋い渋いアコースティック・ワールド。

 これ見よがしにではなく、そこはかとなく漂ってしまうメキシコ風味も土地柄って感じで気持ちいい。マイナー調の曲で良さが発揮されているようだ。南部ならではの寓話のようなものをまぶした歌詞も含めて、日本人リスナーにはいちばん理解しにくいタイプのアメリカ音楽かもしれないなと思うけれど、ベースを担当しているグレン・フクナガって、何人だ?



The Songs Of
Dwight Yoakam:
Will Sing For Food

Various Artists
(Little Dog/Mercury)

 ドワイト・ヨーカムの右腕としてもおなじみの、ウルテク・ギタリスト/プロデューサー、ピート・アンダーソンがエグゼクティヴ・プロデューサーをつとめたドワイト作品集。ホームレスへのベネフィット・アルバムだ。

 アンダーソンのプロデュースのもとデビューしたバックスライダーズをはじめ、キム・リッチー、ブレイザーズ、ギリアン・ウェルチ、デイヴィッド・ボール、ティム・オブライエン、ボニー・ブラムレット、ピート・ドロージなどが参加。ドワイト本人の歌声の場合、例の鼻にかかったヨーデル系の歌いっぷりをめぐって好き嫌いが思い切り分かれるみたいだけど、こうして様々なスタイルにリアレンジされたヴァージョンで聞くと、ドワイトの作る楽曲の魅力が素直に楽しめるはずだ。

 本人の新作より、いいかも(笑)。



Rufus Wainwright
Rufus Wainwright
(Dreamworks)

 さすがに2カ月も更新してなかったので、これはかなり古いものになりますが。ラウドン・ウェインライト3世とケイト・マクギャリグル夫妻の間に生まれた23歳のルーファスくんのデビュー・アルバム。もうあちこちで絶賛されているので、今さらですが。ぼくもこのひと月ほど愛聴している盤なので、とりあえずピックアップしときます。

 本盤にもプロデュース/アレンジで関わっているヴァン・ダイク・パークスや、ランディ・ニューマン、ハリー・ニルソン、初期のトム・ウェイツといった連中に通じる、どうにも抗いようのない屈折したアメリカン・ノスタルジアをたたえたシンガー・ソングライター。ゲイなんだそうで。そのせいなのかどうかは知らないけれど、繊細かつ鋭い観察眼のようなものが楽曲に一層の深みを与えている。

 歌がうまいわけではないけれど、間違いなく本人だけにしか歌えない世界。あ、初期のジョン・サイモンとかにも近いね、そういう意味じゃ。




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