(from
Music Magazine, Aug. 1998)
オリジナル・フル・アルバムとしては94年の『Ill
Communication』以来。その後のビースティ・ボーイズといえば、メジャー・デビュー以前のハードコア・パンク時代の音源を集めた『Some
Old Bullshit』を出して、96年にはその路線に新たな視点から取り組んだミニ・アルバム『Agrio E Olio』を出して、と同時に、マニー・マーク大活躍のインスト集『The
In Sound From Way Out』でファンキー/ソウル・ジャズ的な路線を集大成し…。
と、そうした、ある種のアイデンティティ再確認作業を経ての新作だけに、予想通り、きっちりと持ち味を総ざらいした仕上がり。バンド演奏による歌ものあり、リズム・マシンなどと生演奏を合体させたラップものあり、バンド演奏をサンプリングしたらしきものもあり、アドロックのひとり多重生演奏ものもあり、もちろんスクラッチ満載のヒップホップあり。オールド・スクール的なヒップホップ・グルーヴやそれふうの歌詞も目立つが、同時にトリップ・ホップ経由の最新ファンク・サウンドの要素も随所に見え隠れする。まさに90年代末のスピード感をたたえたポップ・ミュージック総覧って感じ。尽きせぬアイディアと、それを実際に音盤に定着させる手腕には、やはりうならされる。聞き手の気分を思い切りあおる、テンション高い掛け合いラップも手堅い。もはやベテランの貫禄か。
メンバー3人以外の顔ぶれとしては、まずマニー・マーク。彼は今回も数曲に参加し、相変わらず決定的なファンキー感覚をアルバムにプレゼントしている。が、DJハリケーンの参加はなし。でも、かなりイケてるスクラッチが要所要所で聞かれる。日本盤のみのボーナス曲23のリメイクにも関わり、12の歌詞にも登場するミックス・マスター・マイクが全編に参加しているようだ。
『Check Your
Head』のころまでのワンパクな激走ぶりはさすがになりをひそめたものの、今や時代のど真ん中に位置する彼らが放つ最新ポップ・アルバムとして、堂々たる仕上がり。その点をどう受け取るかが評価の分かれ目になるのだろう。まあ、これまでに目にした大方のレヴューでは好意的に受け止められているようだし、王道ポップス愛好家としてのぼくも、この方向性、大いに楽しませてもらった。ビースティーズの場合、時代の旬のグルーヴをどんなふうに捉えているのか、その指標になるタイプのアーティストなんだろうとは思う。が、ベックあたりと同様、さすがアメリカ人のドショッポネ、根幹には時代のはかない移り変わりになどけっして流されることのない、ぶっといスピリットが流れている。そのスピリットってのは、つまりロックンロールってことなのだが。そうした揺るぎない根幹があるからこその、堂々たるポップ・アルバムなわけだな。
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