1998.7.18

Car Wheels on
a Gravel Road

Lucinda Williams
(Mercury)

 能地が仮店舗で大騒ぎしていたもんで、ぼくも聞いてみました。確かに、素晴らしい仕上がり。キャリア20年にして5枚目のアルバムだとか。もともと6年前、カメレオン・レコードのもとで録音がスタート。その後、アメリカン・レコーディングスに移籍して、リック・ルービンのプロデュースのもと作業が続いたものの、もろもろのトラブルに巻き込まれ再度、頓挫。ファンの間ではオクラ入りした曲のテープとかがやりとりされていたらしいが、結局マーキュリーが制作を引き継ぎ、ようやく完成に至ったものだそうだ。

 基本的なプロデュースがザ・トワングトラスト(スティーヴ・アール&レイ・ケネディ)。アディショナル・プロデューサーとしてブルース・スプさんちでの活動がおなじみのロイ・ビタンがクレジットされているのも気になるところ。リック・ルービンはミキシング・エンジニアとしてほぼ全曲のミックスを手がけている。

 ブルースとカントリーを下敷きにした、んー、なんというか、カントリー・ソウルとでもいうか。かなりぐっとくる世界。乾いたスライド・ギターとか、ロイ・ビタンのアコーディオンとか、ブルージーなマンドリンとか、胸にしみる。まだ全部把握はできていないけれど、歌詞も味わい深そう。不勉強でした。全部はCDになってないみたいだけど、がんばって過去の作品にさかのぼって聞いてみよう。



Across a Wire:
Live in New York

Counting Crows
(Geffen)

 ライヴ・バンドとして定評があるカウンティング・クロウズの2枚組ライヴ盤だ。1枚目が去年夏、VH1の『ストーリーテラーズ』でのアンプラグド・ライヴ。2枚目が去年の暮れ、ニューヨークのハマースタイン・ボールルームからMTVを通じてオンエアされたバンド型式の通常ライヴ。

 ということなので、隠しトラックも含む全22曲中、「ラウンド・ヒア」「ハヴ・ユー・シーン・ミー・レイトリー」「エンジェルズ・オヴ・ザ・サイレンス」「レイン・キング」の4曲がアコースティック、エレクトリックそれぞれのヴァージョンでだぶって収録されていて。ファンでないと損した気がするかもしれないけれど、ぼくはファンなので(笑)、興味深く、うれしく聞かせてもらった。カウンティング・クロウズの場合、良くも悪くもリード・シンガーであるアダム・デュリッツのワンマン・バンド的なところがあるわけだけれど、そんなアダムのシンガー・ソングライターとしての資質/才能を立体的に再確認できる。

 どうもこの人たち、日本では今いち評判が良くないようなんだけど。なぜだろう。いい曲、多いのになぁ。堂々としすぎているのか。ブルース・スプリングスティーンの評判が悪いのと同じかもしれない。このライヴ盤がその辺の壁をぶちこわしてくれればいいのに。それだけの説得力をもった仕上がりだと思う。大好きな「ア・ロング・ディセンバー」も入っていて、幸せだー。



Marc Ribot
Y Los Cubanos Postizos

Marc Ribot
Y Los Cubanos Postizos

(Atlantic)

 ラウンジ・リザーズの一員として、あるいはエルヴィス・コステロやトム・ウェイツのアルバムへの客演で、ごきげんにいかれたギターを聞かせる男。英語で言うと "The Prosthetic Cubans" ということになるらしいニュー・バンドを率いての新作だ。でも、ワタシ、Prosthetic の意味、わっかりませ〜ん。

 “ポスト・パンク・ジェネレーションのためのキューバン・クラシック”だそうで。今回は、アルセニオ・ロドリゲスの楽曲を中心に、ときにメランコリックだったり、ときにファンキーだったり、ときにアバンギャルドだったりしながら、独特の質感をともなったプレイを展開してみせる。パーカッション陣が本格ラテン・ミュージシャンらしく、グルーヴはごきげん。超シンプルながら、ぐいぐいくる。そこにマークならではの屈折をはらんだギターが舞う。いいっすよ、これは。ジョン・メデスキーやアンソニー・コールマンによるオルガンもいい味出している。

 ベースがかっこいいんで、クレジット見てみたら“ブラッド・ジョーンズ”って書いてあった。でも、これはさすがにアレックス・ザ・グレート・スタジオのブラッドさんじゃないよね。



Newpower Soul
New Power Generation
(NPG)

 で、プリンスなんですけどね。全曲自分で作って、アルバム・ジャケットにもどかんとひとりで映っているにもかかわらず、ニュー・パワー・ジェネレーション名義での新作リリースです。

 よく出来ている。例のCD3枚組、実はぼくは入手していないので、それとの関係性はよくわかっていないのだけれど、いずれにせよPファンクの優秀なフォロワーとしての味が色濃く反映された仕上がり。アダルト・コンテンポラリーなバラードも挿入されているものの、かっちょいいのはグルーヴィーなファンク・チューンのほうだ。刺激的な発見はあまりないながら、衰えぬ才能は存分に楽しめる。

 でも、まじにこの人、リリース形態が気まぐれすぎて。1枚1枚、よくできていても印象が散漫になってしまうのが、惜しいな。



Hello Nasty
Beastie Boys
(Grand Royal/Capitol)

(from Music Magazine, Aug. 1998)

 オリジナル・フル・アルバムとしては94年の『Ill Communication』以来。その後のビースティ・ボーイズといえば、メジャー・デビュー以前のハードコア・パンク時代の音源を集めた『Some Old Bullshit』を出して、96年にはその路線に新たな視点から取り組んだミニ・アルバム『Agrio E Olio』を出して、と同時に、マニー・マーク大活躍のインスト集『The In Sound From Way Out』でファンキー/ソウル・ジャズ的な路線を集大成し…。

 と、そうした、ある種のアイデンティティ再確認作業を経ての新作だけに、予想通り、きっちりと持ち味を総ざらいした仕上がり。バンド演奏による歌ものあり、リズム・マシンなどと生演奏を合体させたラップものあり、バンド演奏をサンプリングしたらしきものもあり、アドロックのひとり多重生演奏ものもあり、もちろんスクラッチ満載のヒップホップあり。オールド・スクール的なヒップホップ・グルーヴやそれふうの歌詞も目立つが、同時にトリップ・ホップ経由の最新ファンク・サウンドの要素も随所に見え隠れする。まさに90年代末のスピード感をたたえたポップ・ミュージック総覧って感じ。尽きせぬアイディアと、それを実際に音盤に定着させる手腕には、やはりうならされる。聞き手の気分を思い切りあおる、テンション高い掛け合いラップも手堅い。もはやベテランの貫禄か。

 メンバー3人以外の顔ぶれとしては、まずマニー・マーク。彼は今回も数曲に参加し、相変わらず決定的なファンキー感覚をアルバムにプレゼントしている。が、DJハリケーンの参加はなし。でも、かなりイケてるスクラッチが要所要所で聞かれる。日本盤のみのボーナス曲23のリメイクにも関わり、12の歌詞にも登場するミックス・マスター・マイクが全編に参加しているようだ。

 『Check Your Head』のころまでのワンパクな激走ぶりはさすがになりをひそめたものの、今や時代のど真ん中に位置する彼らが放つ最新ポップ・アルバムとして、堂々たる仕上がり。その点をどう受け取るかが評価の分かれ目になるのだろう。まあ、これまでに目にした大方のレヴューでは好意的に受け止められているようだし、王道ポップス愛好家としてのぼくも、この方向性、大いに楽しませてもらった。ビースティーズの場合、時代の旬のグルーヴをどんなふうに捉えているのか、その指標になるタイプのアーティストなんだろうとは思う。が、ベックあたりと同様、さすがアメリカ人のドショッポネ、根幹には時代のはかない移り変わりになどけっして流されることのない、ぶっといスピリットが流れている。そのスピリットってのは、つまりロックンロールってことなのだが。そうした揺るぎない根幹があるからこその、堂々たるポップ・アルバムなわけだな。


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