albums (Pet Sounds)

 

Pet Sounds
The Beach Boys
(Capitol) 1966


 

 

 『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』は収録曲「ドゥー・ユー・ウォナ・ダンス」「ダンス・ダンス・ダンス」といったシングル・ヒットの後押しも受け、全米アルバムズ・チャート4位まで上昇した。その後、キャピトル・レコードが強制する年間アルバム3枚、シングル4枚という過酷なリリース・スケジュールをこなすために、ブライアン/ビーチ・ボーイズは7月に『サマー・デイズ(アンド・サマー・ナイツ!)』、11月に『ビーチ・ボーイズ・パーティ!』という2枚のアルバムをリリース。以前の、サニー・カリフォルニアの夏を謳歌するビーチ・ボーイズのイメージへとちょっとだけ逆行した内容がむしろファンからは歓迎され、それぞれ全米2位と6位に輝いた。

 が、こうした、ある種後ろ向きな快進撃の水面下で、ブライアンは壮大なティーンエイジ・シンフォニーの制作にとりかかっていた。それが『ペット・サウンズ』。ビートルズの『ラバーソウル』に刺激を受けたブライアンが、持てる情熱と才能の限りをつぎ込んで制作した大傑作アルバムだった。

 このアルバムについては、すでに多くのところで多くが語られている。ぼくもこことかこことかこことかに関連した文章を載せている。今さら改めて何を語ることもないのだけれど。一点の文句も付けようがない名曲ぞろいの本盤の中で、さらに群を抜いて美しく輝く曲といえば、オリジナル・アナログ盤のB面ラストを飾っていた「キャロライン・ノー」だろう。本盤に先駆け、ブライアン・ウィルソンのソロ名義でシングル・リリースもされたこの曲は、過去ブライアンが書いた様々な楽曲の中でも特に寂寥感、虚無感、喪失感を強くたたえた名品だ。淋しさが漂うパーカッションのイントロに続いて、“君の長い髪はどこへ行ってしまったの? あの幸せな輝きはどうして消えてしまったの?”とブライアンが歌い出すその瞬間から、“キャロライン、だめだよ……”という悲痛な吐露に導かれつつなだれ込む最後のフェイドアウトまで、全編を貫く内省的なまなざしは聞く者の心を深く、切なく締め付ける。

 あるいは、「ドント・トーク」。“しゃべらないで。手をとって。ぼくの心臓の鼓動を聞いてくれ。聞いてくれ。聞いてくれ……”。ひたすら邪念のない無垢な心を取り戻そうとするブライアンの祈りにも似た歌声が悲しい。

 これらの曲を支配しているテーマは、成長することによって喪失してしまう“無垢さ”だ。この曲を作り上げた1966年、ブライアンは23歳。まだまだ若さを謳歌していい年頃だった。にもかかわらず、彼はすでに無垢の喪失を恐れ、嘆く。1962年にメジャー・デビューを飾って以来、暴君的に君臨してきた父親マーリー・ウィルソンに罵倒され続け、所属するキャピトル・レコードから過酷なリリース・スケジュールを課せられ、フィル・スペクター、モータウン、そしてビートルズといった強敵とのサヴァイヴァル・レースを強いられ、ドラッグに溺れ、揺れに揺れたマリリンとの結婚生活を送り……。23歳にしてこの地点へと到達してしまったのもまた、ブライアンの類い希なる天才のなせるわざだったのだろうか。

 ご存じのように、このアルバムがリリースされた当時、従来のビーチ・ボーイズの路線とあまりにも違う仕上がりになっていたため、ファンやレコード会社があからさまに不安を表明。以降、ブライアンの迷走の日々が始まるわけだが。

 いずれにせよ、ブライアンにとっての最初のピークを記録した1枚がこの『ペット・サウンズ』だった。そして、本盤に流れる“無垢への憧憬”というテーマは、30年以上の歳月を経て、新作『イマジネーション』をも貫き、ぼくたちの胸に切実に迫るのだ。

 

 

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