1997.11.4


 長かったぁ。

 長い道のりでした。待ちに待ったCD4枚組『ペット・サウンズ・セッションズ』がとうとう、アメリカとヨーロッパでリリースされた。日本発売は11月27日だけれど、何はともあれ、ようやく公式リリースされたわけで。めでたいっすよ。

 思えば、うーん、あれはいつだったんだ? 去年、1996年の3月くらいか? 1枚のプレス・リリースが東芝EMIから届いた。ビーチ・ボーイズの…ってよりか、ブライアン・ウィルソン個人のクリエイティヴィティのピークを記録した大傑作アルバム『ペット・サウンズ』発売30周年を記念するCD4枚組ボックスのリリース告知。それを見たとき、一気に盛り上がっちゃって。で、いきなりその資料を無断でOCRして作ったページがこいつだった。

 ホントに簡単に内容を説明した英文プレスリリースだったけれど、それだけで十分に心が躍った。それまでだってブート盤をかき集めればそこそこ伝説のペット・サウンズ・セッションの断片を覗き見することはできたのだけれど。今回は正規盤。それもブライアン・ウィルソン当人がプロデュースしたボックス・セットだ。たまんない。初のトゥルー・ステレオ・ミックスあり、様々なバック・トラック・テイクあり、演奏をすべてカットした“スタック・オ・ヴォーカルズ”あり、当初ブライアンが意図した通りの完全モノ・ミックスあり。仕様に目を通しているだけでクラクラしたものだ。

 後追いでビーチ・ボーイズのファンになったぼくが『ペット・サウンズ』を手に入れたのは、オリジナル・リリースから5年後。高校生になったばかりのころだった。正直言って最初は何がどういいんだか真価をつかみかねていたんだけど。ほら、高校生なんてヒマだから。買ったレコードは隅から隅までなめつくす。毎日毎日繰り返し体験しているうち、何十回目かの「ドント・トーク」を聞いているとき、一気に全面突破。「あっ!」とすべてがわかった。突然、アルバム全曲に流れるえもいわれぬ美しさに胸が震えた。あの瞬間のことは今も忘れない。それから数年間はほとんど毎日最低一回は『ペット・サウンズ』。それだけにボックスの登場は、座りションベンしてバカになっちゃうくらい、うれしかった。

 なのによぉ。マイク・ラヴが横やりを入れてきたとか、アル・ジャーディンが文句言い出したとか、なんともしょーもねえ理由で突如発売無期延期。そのニュースを聞いたのが去年の5月くらいだ。あれから苦節1年半。ついに、ついに、一時は発売をあきらめかけた『ペット・サウンズ・セッションズ』が公式に世に出たわけだ。じらされまくったおかげで、今度は座りションベンくらいじゃすまないかもしれない。

 でも、笑っちゃうのは豪華ブックレットの冒頭に、去年の仕様では見あたらなかったマイク・ラヴのコメントが載っていることかな。何やってんだか(笑)。

 内容についてのあれこれは、今後、徐々に時間をかけてホームページのほうでも書いていくことにして。とりあえず、今日に至るまでの長い長い1年半の歩みをここで振り返っておくことにした。チョー極私的「ペット・サウンズ・ボックスへの遙かなる道」です。画像が多くてすまんす。

1. I Just Wasn't Made For These Times
45rpm Single (Sub Pop)

 まずはこのシングルで始まったんだよなぁ。ボックス・セットの前あおりとして、やぶからぼーにサブポップ・レコードからリリースされた3曲入りアナログ・シングル。詳しくはこちらでレビューしてますが。

 聞きまくりました。聞きまくって、ボックス・セットを発売延期にしたキャピトルとマイク・ラヴに怒りましたね。まじに。

2. The Pet Sounds Sessions Sampler
Promotional CD (Capitol)

 で、お次の衝撃がこれ。ボックス・セットのプロモーションのためにアメリカのキャピトルが制作した業界向けのCDサンプラーだ。まず11トラックほど、スタック・オ・ヴォーカル・ヴァージョンやら、カラオケやら、別ヴァージョンやら、セッションの模様が入ったあと、今回のボックスの目玉でもあるニュー・リアル・ステレオ・ミックスで『ペット・サウンズ』をまるごと全曲収録した、まあ、言ってみれば、なんだよこれがありゃボックスなんかいらないじゃん的な逸品。

 しかも、アメリカのキャピトルがちゃんと作ったものなのでブートってわけでもないし。なのに、なのに、健太くんはこれを入手しそこなっていたのです。今年になってから入手できたからいいんだけど、こういうのが出回っているってことを知ってからしばらくの間、ぼくはこのサンプラーを聞くことができなかったのでした。中古屋さんで何十万円だとかって値段がついた噂も耳にした。こいつをマザーにしたブートも出回った。うー……。

 そんな悲嘆にくれる健太くんに、しかし、ある心優しいお方が救いの手を差し伸べてくれたのでありましたとさ。つづく。

3. The Pet Sounds Sessions Sampler
Write Once CD (Personal Made)

 救いの手を差し伸べてくれたのは、山下達郎さんでした。キャピトルのCDサンプラーを入手できずにしくしく泣いていた健太くんに、達郎さんは「おぅ、じゃ、俺持ってるからさ。CDに焼いてやるよ」と、まさに神様のような一言をかけてくださったのでありました。

 で、サンプラーから全曲のステレオ・ミックスだけを抜き出して作ってくれたのがこれだぁぁっ! インデックスまでお手製です。このステレオ・ミックスも含むCDサンプラー全曲を入れたDATもくださいました。達郎さんには足を向けて寝られません。次のアルバムが出たら、もう、持てる力のすべてをふりしぼって、がんがん雑誌とか新聞とかに書きまくります。ほめまくります。談合です。ラジオでもかけまくります。ありがとうございました。

 でも、出るのか、達郎さんのアルバム?

4. Pet Sounds 30th Anniversary Celebration
CD (Bootleg)

 と、そうこうしているうちに1996年も終わり、97年に入ったとたん、やっぱり出たか……って感じで市場に現われたのがブートレグの4枚組。

 ブートなので多くは語りませんが、ここでレビューしてます。何はともあれ、ボックス・セットの音源に関する全貌を把握することができて、なんだかんだ言ってもありがたかったんすけどね。

5. The Pet Sounds Sessions
Advance Listening CD (Capitol)

 でもって、今年の夏。ぼくが東芝EMIから再発になる20枚のビーチ・ボーイズのCDのライナー全部書きに勤しんでいるちょうどそのころ、アメリカのキャピトルから突然、プレス・キットが届きました。『ペット・サウンズ・セッションズ』の発売が正式に決まったとのこと。

 でもって、添付されるブックレットの内容をタイプした書類のコピーと、プロモーション用のカラー写真、モノクロ写真それぞれ4点と、ジャケット写真と、そして、なんとなんと、ボックス・セットの音源4枚分を全部、ちゃんと収録したCD4枚! ほ、ほ、ほんものだぜっ。

 これが届いた時点で、ぼくにとっての長い旅はほとんど終わりだったわけですが。なんか発売前に、こんなものタダでもらっちゃったとか自慢するのもナンなんで、ホームページでは黙ってました(笑)。

 ちなみに、この時点で添付された資料には、10月22日発売と書かれていました。

6. The Pet Sounds Sessions
Official Pamphlet

Promotional Pamphlet (Capitol)

 これがその後届いたパンフレットです。ここでは発売日が11月4日に訂正されてます。

 で、パンフの表紙に書かれているのが、「あんたらがビートルズのアルバムを買おうとしていたころ、ビートルズが買おうとしていたアルバム」の文字。これねぇ、なんかすごくほめられているような気もするけど、よく考えると結局ビートルズよりもビーチ・ボーイズのほうが下に見られてることの証みたいなキャッチコピーでしょ。どうも納得いかないよなぁ。

 わかってるのか、キャピトル? ちょっと。聞いてる?

7. The Pet Sounds Sessions
4 CDs Box Set (Capitol)

 そしてようやく、11月4日、完成品の『ペット・サウンズ・セッションズ』が世に出たわけです。長い道のりでした。

 ちなみに、11月27日に出る日本盤には外盤に付いている豪華ブックレットはもちろん、日本独自の完全翻訳ブックレット(これまた100ページ近いボリューム)が付くそうです。まだ翻訳の出来具合とか見てないけど、当時セッションに参加した様々なミュージシャンたちのコメントとか、専門用語がけっこう多いので、そういうのもとっぷりと楽しみたい人は日本盤にしたほうがいいかも。ちょっと高いけど。でも、だいじょぶ。十分にもとは取れるからさ。

 ぼくはどうしようかなぁ。前回の『グッド・ヴァイブレーション・ボックス』のときもうれしくなっちゃって米欧日、全部のボックス買っちゃったしなぁ。今回もそういうバカになるのかなぁ。仕方ないよね。バカなんだからさ、俺。ビーチ・ボーイズに関しては、特に。


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