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I Just Wasn't Made For These Times
The Beach Boys (Sub-Pop) 7-inches single

(for Record Collectors Magazine, July 1996)

 こんなすごいもの、なんでオクラにする?

 先日、やぶからぼーにサブポップ・レコードからリリースされたビーチ・ボーイズの3曲入りアナログ・シングルのことなんだけど。以前このコラムで騒いだ『ペット・サウンズ』リリース30周年記念CD4枚組ボックス『ペット・サウンズ・セッションズ』に収められる予定だった「駄目な僕」のトゥルー・ステレオ・ミックスと、「素敵じゃないか」の“スタック・オ・ヴォーカル”ヴァージョン、そして「ヒア・トゥデイ」のステレオ・バック・トラックを収めた7インチ盤。ボックス発売を目前にしたキャピトル・レコードが、話題作りのため、アナログを作らせたら定評のあるサブポップにコレクター向け商品として制作を委託したものだとか。で、この3曲入りアナログ・シングルが作られ、ボックス発売に合わせて1万枚限定という形で市場に出た。5000枚がアメリカ用。残りが海外用。当然、日本の輸入盤屋さんにも入荷して、マニアさんたちの度肝を抜いた。

 がっ。これまた本コラムでお伝えしたように、ビーチ・ボーイズのメンバー間のモメごとが起こってCDボックス本体は突如発売延期。おかげで、シングルのほうも店頭に一週間姿を見せただけで、あえなく回収だそうだ。この原稿を読むまでそんな7インチがリリースされていたことすら気づかなかったビーチ・ボーイズ・ファンも多いはず。サブポップからのリリースだっただけに、むしろフレイミング・リップスやマッドハニーのファンが手に入れている可能性のほうが高そう。いやはや。

 実はぼくも完全に出遅れ組で。コレクターズ編集部のご尽力のおかげでなんとかブツを入手させていただいたのだけれど。でもね。聞いてみたらさ、これがすごいわけよ。初のトゥルー・ステレオ・ミックスによって音像が深みを増してるし。ヴォーカル/ハーモニーのみの「素敵じゃないか」からは、オケにマスクされがちだった細部のヴォイシングまでが鮮明に聞き取れるし。コーラスの録り方まで推測できる。鳥肌もの。これがCD4枚分出てたら、もう、私、座りションベンしてバカんなっちゃうかもしんない。

 なのに、オクラなんだよね。LA在住のマシュー・グリーンウォルド氏の調査によって、発売延期の理由も判明しましたよ。マイク・ラヴがね、今回の新ステレオ・ミックスで自分の声が目立ってないからイヤだって文句つけたんだと。あと、アル・ジャーディンまでが、「スループ・ジョン・B」をカヴァーしようと提案したのは自分であることをクレジットしろって言い出したんだって。30年もたってから。突然。なんだ、そりゃ……。





How Blue Can You Get? Classic Live Performances 1964 to 1994
B. B. King (MCA)

 私ですね、自慢しちゃいますけど。B・B・キングのプロデュースしたことあるんですよ。まじ。すごいでしょ。

 何年か前、B・Bと、彼の甥(だっけ?)でバンド・リーダーもつとめているウォルター・キングだけが来日して、そのバッキングを日本のミュージシャンがつとめるってライヴをやったんだけど、そのときのプロデュース/コーディネイトをぼくがつとめたんですねー。でもって、ドラムを岡地さん、キーボードをキョンさん、ベースを吉田建さん、ホーン・セクションをビッグ・ホーンズ・ビー、そしてギター&バンマスを吾妻さん……ってラインアップにして、そこにB・Bとウォルターが加入。さらに桑田佳祐だのカシオペアの野呂さんだの山岸さんだの上田正樹だのがゲスト参加するという。ライヴ盤も出たんだけど。

 あのときはごきげんな経験だったなぁ。リハーサルをやったあとで、B・B御大のありがたいお言葉とかもいただけたし。自慢ですよ自慢。

 で、そんなこととはほとんど関係なく、B・Bの64年から94年までの名ライヴ・パフォーマンスを選りすぐったコンピレーションの登場。もちろん64年の『ライヴ・アット・ザ・リーガル』の音源でスタートして、間にアメリカでは未リリースだった71年の来日公演での録音なども挟みつつ、81年のクルセイダーズとの共演音源とか、93年のブルース・サミットのライヴ・ヴィデオからの音源とかを経て、94年の未発表ライヴへと至る2枚組だ。

 チョーキング一発の説得力で腰が抜けちゃう。歌と一体となった愛機ルシールの“泣き”が素晴らしい。過去に膨大なアルバム群を残しているB・Bだけに、若いリスナーが入門したいと思ってもどこから手をつけていいかわからないみたいだけど、そういう意味じゃ絶好の一枚かな。もちろん、ずっとB・Bを好きだったって人にも、もう一度彼のとてつもなく雄大な魅力を駆け足で再確認するためのいいチャンスになりそう。

 スリルはいつまでも去らないんだよなぁ、この人からは。





Cactology The Cactus Collection
Cactus (Rhino)

(for Music Magazine, June 1996)

 で、次はカクタス! 『カクトロジー〜カクタス・コレクション』。カクタスのベストなんて、出るとは思わなかった。出したのは、やっぱりライノ。元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガートとカーマイン・アピスが、ジェフ・ベックと新グループを結成するはずだったのに、ベックの交通事故のおかげで計画がおじゃん。

 でも、その熱い新バンドへの思い断ち切れず、ミッチ・ライダー&デトロイト・ホイールズやバディ・マイルス・バンドのギタリストだったジム・マッカーティと、アンボイ・デュークスにいたヴォーカル&ハーモニカのラスティ・デイと組んだハード・ロック/ブルース・バンド。

 ヴァニラ・ファッジのシンフォニックスな音作りに飽きてきたボガート&アピスが、70年、レッド・ツェッペリンやジェフ・ベック・グループらの盛り上がりに呼応する形でストレートかつハードなブルース・ロックに燃えた、とてつもない勢いが爽快だ。

 ここにも収められた「のっぽのサリー」のハード・ブルース・ヴァージョンとか、大学時代、友達のミズグチが大好きだったもんで、ずいぶんと聞かされた。もーっと熱く厚い音像が、今聞いてもやばい。アトコに残した4枚のアルバムからのセレクションだが、やはり気合の入ったファースト・アルバムからの作品が中心。ファーストからのアウトテイク1曲と、未発表ライヴ音源1曲も収録されている。