倉岳山    高畑山北方より倉岳山(4月)

前道志と呼ばれる小さな山並みが、中央本線の相模湖駅近くから大月駅まで車窓の左側すぐに眺められる。倉岳山は1,000メートル未満とはいえこの中ではいちばん高い。
この山はかなり前に一度行っただけなのだが、山梨の山歩きの行き帰りに必ず目にするので何度も訪れた気になっており、改めて足を向けるまでもないと思っていた。が、さてその山行を思い返そうとしてみると、山頂での記憶がまるでない。鳥沢まで車で行って穴路峠経由で登ったのだが、峠を風が吹き越していたことと、峠のすぐ上の登りがけっこう急だったことくらいしか覚えていない。というわけで再訪せずにいられなくなり、まだ紅葉の残る秋の日にでかけて行った。


久しぶりの山頂は疎林に囲まれ、その幹のあいまに扇山方面が眺められた。東側のわずかな切り開きからは高柄山(たかつかやま)方面がはっきり見える。おそらく10年以上前に来たときもこの眺めを見たのだろうが、そのときは各々の山がなんという名なのかわからず、印象にも残らなかったのだろう。名前がわからないものはよほど強い個性を持っていない限り覚えておかないものだ。足元の山頂広場は、人気のある山のせいか、よく踏まれてただの草原になっている。木々に囲まれているというのにかなり広い。一人で訪れると、このぽっかりと空いた空間はどことなく空虚ささえ感じる。最初に来たときに山頂が記憶に残らなかったのはこういった事柄のせいだろう。
西の穴路峠に向かえば遊歩道のように心地よく歩ける道となり、ずっと心安らぐ。急下降が始まるところでは、相変わらず樹林越しとはいえ、午後の光に照らされた扇山とその背後の権現山とがよく見える。とくに横長の権現山は山頂部が山頂部らしく見えてなかなか格好がよい。
木の幹にすがるほどの下りをこなすと、斜度が緩み、覚えていたとおりの峠に出る。今回も、初めて訪れたとき同様に風が吹き越している。秋山のほうへは落ち葉に覆われた好ましい道が下って行っており、「こちらを下ろうか」とも思ったが、車道に出たところでのバスの時間がわからなかったのでとりやめにし、これまた前回同様に隣の高畑山(たかはたやま)へと稜線を辿るのだった。
1987/4, 2000/11/11

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