十二ヶ岳・鬼ヶ岳御坂山塊 毛無山から見た十二ヶ岳

御坂(みさか)山塊とは河口湖・西湖の北方に立つ山々のことで、その中の十二ヶ岳や鬼ヶ岳へ登るには一般に富士急行で河口湖駅まで行って、そこから西湖方面行きのバスに乗ることになる。
今までこのあたりには足和田山を登ったほか来ることはなかった。観光地の中の山で騒がしそうな気がするし、富士山ばかり眺めさせられて飽きるのではないかと思っていたからだ。だが十二ヶ岳に続く稜線には鎖場があって変化に富み、いくつかのピークをつなげる縦走は富士山以外にも眺めるものがありそうだった。足和田山はほんとうに観光地の山だが、御坂山塊は観光客が簡単に登ってこれる山ではない。ではどんなところか確かめに行こう、と秋の長雨直前に河口湖を目指した。


河口湖駅からのバスを文化洞トンネル手前の登山口で下り、比較的穏やかな山道を一時間強で毛無山に着く。山頂直下から見晴らしがよくなり、河口湖と西湖が足下に見える。このあたりは意外と花が多く、前後を歩いていた人からは「イワカガミがあるよ」という声も聞かれた。西湖を挟んで毛無山と対峙する低い山は富士三足の一つの足和田山(あしわだやま)で、その背後に富士山があるわけなのだが、今日は二合目あたりから上がすっかり雲に隠されている。今朝、河口湖駅の売店のおばさんに「今日は久しぶりの青空よ」と言われていたので、これでもここ最近ではよい方なのだろう。
毛無山から十二ヶ岳まではコブの一つ一つに一から十二の名前が付いている。しかし最初の一ヶ岳など毛無山の肩に過ぎず、数合わせで名前を付けただけの本当のただのコブ。二ヶ岳へは多少下るので、むしろ毛無山そのものを一ヶ岳と数えた方が理解しやすいだろう。稜線は木々が茂っていて、たんねんにピークを上下するわりには展望はそれほどよくない。四ヶ岳や六ヶ岳はかなり山頂部が明るく感じられる。眺望が開けると足下に二つの湖が望まれる。
一ヶ岳から始まって十二まであるということは、当然途中に「八ヶ岳」もあるのだが、この山頂は踏まないで迂回させられる。九も十も岩峰基部を巻き、十一ヶ岳はどこが山頂だかよくわからないまま過ぎると、目の前に十二ヶ岳本体の頂上部が垂直に思えるほどの急角度で立ち上がっている。鞍部に向かって急坂をロープで下っていくと、木々と岩だけの世界に白く光るアルミ製の小さな吊り橋が現れて、やや不調和な感じを受ける。昔は梯子が掛かっていたらしいが、最後が本当に垂直の岩なので事故を避けるため吊り橋になったのだろう。
揺れる橋を渡りきったところからすぐグレード5.3くらいの岩場が上方に伸びていて、ここを鎖やロープの助けも借りつつよじ登っていく。途中で振り返ると十一ヶ岳方面の奧には頂上のアンテナが目立つ三峠山、おおらかな黒岳などが遠望できる。黒岳左手にところどころガレた山肌を晒している蛸のような山は釈迦ヶ岳だろう。同じ名の山が、御坂山塊西方の蛾ヶ岳(ひるがだけ)近くにある。このあたりは紛らわしい名の山が多い。


道が平坦になるとすぐ十二ヶ岳の山頂だった。毛無山よりさらに狭い山頂の地面には8人くらいのパーティが西湖を見下ろして座っており、満席状態だった。小さな祠があり、その横にある露岩の上に登ると眺めがよく、ひとりなら何とか座れるのでここで休憩とする。ここだと縦走路の先の眺めがよい。正面には鬼ヶ岳が立ちはだかり、左遥か下の西湖めがけて尾根を急激に落とし込んでいる。鬼ヶ岳の右には節刀ヶ岳(せっとうがたけ)が鋭いピークをもたげていた。
十二ヶ岳から見た鬼ヶ岳
十二ヶ岳から見た鬼ヶ岳
十二ヶ岳から鬼ヶ岳方面に足を踏み出すと、すぐまたロープをつたっての岩場の急降下が現れる。だがこれは一度きりで、そのあとは金山まで穏やかな道が続く。眺めはないが道幅が広く圧迫感はない。両側には広葉樹の自然林が広がっていて明るい感じがする。
途中にある金山のピークは左行けば鬼ヶ岳、右行けば節刀ヶ岳の三叉路になっており、樹林に囲まれた小広い草地で、観光地の近くにある山とは思えない静かな雰囲気だ。足を伸ばして休憩するには良いところで、十二ヶ岳ではお茶を飲んだだけなので空腹だったこともあり、当初予定の節刀ヶ岳往復は中止して食事を摂ることにした。空はかなり雲が広がってきており、日差しが無くなって涼しくなっている。久しぶりにストーブを炊いて暖かいものを作った。
金山から鬼ヶ岳に向かって穏やかな道を歩いていくと、徐々に斜度が増してきて、やがて白っぽい大きな岩がいくつか見えてくる。これは近いな、と思っていたら案の定鬼ヶ岳山頂で、時刻が遅いので人影はなかった。地面から突き出している大岩の上に立って十二ヶ岳を見ると山頂はガスの中で、天気は着実に下り坂になっているらしい。甲府盆地側はまだ遠望が利いたが、長居をせずに鍵掛峠への道に入ることにした。正面には稜線続きの王岳(おうだけ)が逆光に黒々とそびえている。鬼ヶ岳山頂の去り際に木の幹に下がっていた温度計を見つけ、目盛を見ると11度だった。
1999/9/5

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