TUZIE- 辻永クラフト工房
昭和ミシンのすすめ
古い家庭用ミシンを活用してみよう!

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昭和ミシンのすすめ


昭和ミシンと
手回しハンドル



昭和ミシンを
使いやすく



いろいろな
昭和ミシン



昭和ミシンのすすめ
あとがき








昭和ミシンを使いやすく
昭和ミシンを使いやすく:糸立ては必須


糸立て一式に小巻糸

 ミシン本体に付属した糸立てではなく、別に専用の糸立てを用意して使うことをおすすめします。昭和ミシンの多くには、小さな糸立てが付いており、それは小巻の糸を立てて糸を横に引き出すという使い方をするものがほとんどです。でも、この使い方だと、上糸を安定させるのが難しいのです。

 画像は小巻糸をセットした状態ですが、糸立ては単体で販売されていることが多く、糸駒押さえやスポンジなどの必要な部品は別途購入して準備します。

昭和ミシンを使いやすく:糸駒押えはトラブルを防ぐ


糸止めの切込みを上にして置く


糸駒押えで 糸の引っかかりを防止

 専用の糸立てを使い、糸を上に引き出すようにして使うことが大切ですが、小巻の糸を使う場合は、糸駒押えを必ず使いましょう。糸巻きには、糸を引っ掛ける切り込みがあることが多いですが、ミシン使用中に、この切り込みに糸が引っかかってしまう時があります。それを防ぐために必要なのが、糸駒押えです。

 切り込みを上にして糸巻きを置き、その上に糸駒押えを設置します。切り込みを下にして糸を置くと引っかかりにくいような感じがするものですが、切り込みを下にしても何かの拍子に糸が引っかかることがあるので、切り込みを上にして糸駒押えを使うほうが確実なのです。糸駒の下に糸を潜り込ませないために、スポンジも重要です。

 手芸店で販売されている小巻の糸の多くはスパン糸です。革の縫製の場合は、フィラメント糸を使うことが多いので、レザークラフトショップなどで販売されている、30番か20番の小巻のフィラメント糸を購入することをおすすめします。ただ、小巻のフィラメント糸は大巻の糸ほど太さも色数も揃いませんので、色や太さを自由に選びたい場合は、大巻糸になります。



使わなくなった糸立てに上糸給油器

 専用の糸立てを用意すると、ミシン本体の糸立ては使わないことになりますので、何となく飾り的なものになってしまいます。そこで何か使い道はないものかと考えるわけですが、例えば上糸給油器を取り付けることができます。低速の縫製ではあまり必要ないのですが、糸と革の摩擦を減らしながら、上糸に少しテンションをかける役目を果たしてくれることもあります。

ミシンを使いやすく:大巻糸


大巻糸


振れ止めは無くてもいいかも

 糸立てを使うと、工業用の大巻糸も使うことができます。工業用ミシンは高速で縫うのが前提になっているので、振れ止めもセットのようになっているのですが、家庭用ミシンで使う場合には、振れ止めはあまり必要ないと思います。特に、手回しで使うとなると、ますます必要ありません。小巻と大巻の糸の両方を使う場合にも、振れ止めを使わないほうが糸を変えるときに楽です。

昭和ミシンを使いやすく:三つ目糸掛けは効果あり


三つ目糸掛けには下(裏)から3回糸を通す

 糸立てに取り付けて使う、三つ目糸掛けです。三つ目糸掛けは、自作して取り付けます。ステンレスなどで作りたいところですが、簡単に製作可能な革とハトメリングの組み合わせです。

 職業用や工業用ミシンには付いていることの多い三つ目糸掛けが、昭和ミシンはもちろん、ほとんどの家庭用ミシンにはありません。その代わりに、糸立てに三つ目糸掛けを付けてしまおうという方法です。糸立てに三つ目糸掛けが最初から付属していればとても便利なのですが、そういった製品が見当たりません。不要であれば三つ目糸掛けを省略して糸をかけることもできますから、最初から三つ目糸掛け部品の付属した糸立てがあれば、より汎用性の高い標準的な道具の一つになると思います。

 糸の通し方は、画像のように下(裏)から3回通します。これは糸の撚りが少し戻る方向の掛け方なはずなので、撚りが原因で糸が暴れることが減り、上糸が安定して供給されることになります。撚りが強めの太めのフィラメント糸を使うことの多い革の縫製では、手回しのような超低速縫いであっても効果があるようです。

 第一テンションあるいはサブテンションと言われる部品ほど明確な物ではありませんが、三つ目を通すことと、部品に使う革は糸が滑りにくいこともあって、糸に少しテンションがかかります。このテンションと撚りが少し戻る方向になるという2つの要素で、三つ目糸掛けの効果が上がるのではないかと思います。もしかしたら、四つ目・五つ目という手もあるのかもしれませんが、今のところ三つ目で十分なような気がしています。

 ちなみにですが、糸を上に引き出すこと自体が糸の撚りには影響があるはずなのですが、先に紹介した小巻糸の使い方でも、通常の大巻糸でも、糸を上に引き出すと撚りがかかる方向になると思われます。ミシン糸は、基本的には撚りが戻らないように使うようですね。大巻糸は向きを変えようがありませんが、小巻糸は逆さに置いて糸を引き出すと、撚りが戻る方向になるはずです。私も実際に試してみましたが、短い距離を試しに縫っただけでは、正直なところ違いがよくわかりませんでした。

 糸の引き出し方向にしても、三つ目糸掛けにしても、目に見えて糸の撚りが変化するというほどの物ではありませんが、わずかな糸の撚りや糸の張りがミシンの上糸調子には影響しているような気がします。三つ目糸掛けへの糸の通し方は、ミシンの説明書によって違いがあるようなのですが、私の経験上で良いと思われる方法を紹介しております。もちろんご自分の判断でより良い方法でお使いください。






その後、上下の画像のような金属と革を組み合わせた糸掛けを試しています。






さらにその後、
可能な場合はミシン本体の糸立て棒位置に糸掛けを取り付けるようになりました。





ミシンを使いやすく:片押えは機能的なのだが・・


標準押え・改造片押え・固定片押え・テフロン押え・改造テフロン片押え・細幅押え

 画像の左から、標準押え・標準押えを改造した片押え・固定の片押え・標準的なテフロン押え・テフロン押えを改造した片押え・ファスナー縫いなどに使われる細幅押えです。標準的な押さえでも問題は無いのですが、片押えを使うと針落ちの位置が見やすくなります。一度縫った同じ穴に針を落としていく場合などもありますから、視認性の良さは大切ですね。市販されている家庭用の片押えはほとんどありませんので、自分の手で改造して準備することになるかと思います。

 多くの押えはソリの部分が段差に合わせて動くようになっている自由押えですが、一部にソリの部分が動かない固定押えもあります。アンティークミシンには、古い固定押えが付いている時があり、小さいながらも道具としての存在感があります。

 画像の左から3番目の固定の片押えは古いものではありませんが、革をしっかり押えてくれますし、必要最低限のサイズで余計な部分がありませんので、レザークラフト用途ではおすすめしたい押えです。でも、この文章を書いている2015年現在、入手可能な片押えの市販品がすでに見当たりません。市販されていれば、レザークラフトでお使いになる人には使いやすい押さえの1つとしておすすめできるものですので、復活することを願っている押えです。

 家庭用の固定押えには、ファスナー押えと言われる左右に位置を移動して使うことのできるものが、昔から存在します。固定の片押えという面では悪くないのですが、位置を移動させる構造のために押え全体が大きくなってしまい、次に説明するステッチ定規を適切な位置に取り付けることができないのが欠点となります。

 テフロン押えは、革縫いの定番のように言われますが、あまり厚くなく硬くない滑りの悪い革の場合に特に有効です。テフロンは鉄よりも柔らかいため、革を押え込む力が弱いので、厚みや硬さが増した場合には、必ずしもおすすめできるとは限りません。革にテフロン押えが有効というのは間違いありませんが、万能というわけではありませんね。

 テフロン製のソリは厚く作られていることが多いので、押さえの高さが鉄の押えと変わる時があります。薄い鉄板と積層させたハーフテフロンといわれる押えは、比較的薄く仕上がっているので、押さえの高さがあまり変わらず、使いやすいと思います。

 鉄の押えを使って、どうしても滑りを良くする必要があるときには、フッ素樹脂(テフロン)のテープを貼る方法などもあります。けっこう値段が高くて、接着力もあまり強くはありませんが、滑り効果は高いものです。革漉き機の押え金に使っている場合も多いので、お近くのレザークラフトショップなどに相談すると、もしかしたら小分けしてもらえるかもしれませんね。

 ファスナー縫いなどに使われる細幅の押えも、便利に使うことができる時があります。もちろん、これをベースに細幅の片押えを作ることも可能ですね。細いからこそ縫いやすいという場合もありますが、押さえが細すぎると送りが悪くなったり、革に跡がつきやすくなったりすることもありますから、やはり適材適所で使い分けることが大切です。

 工業用ほどではありませんが、家庭用の押えにも様々な種類がありますので、いろいろ試してみましょう。ちなみに、ワンタッチ交換式の押えにも、昔の昭和ミシンで使うことができるものがあります。

昭和ミシンを使いやすく:縁縫いには定規


押えと一緒に取り付けるステッチ定規

 革を手縫いするときには、ネジ捻やグルーバーで縫い代線を入れることが多いですが、ミシンの場合はステッチ定規を活用するのも便利な方法です。手軽に使えるのは、押え金と一緒に固定するタイプのステッチ定規です。

 押えと定規を一緒に固定する場合は、押えの固定ネジをドライバーでしっかりと締めてください。手締めだけだと、定規がしっかり固定できない場合があります。片押えと組で使うと、針のそばまで定規を当てることができて便利です。定規面に多少の加工が必要な場合があります。

 平ベッドには定規用のネジ穴が2つ開いていますので、その穴を利用してベッドに固定する定規を使うこともできます。この方法では定規が送り歯に接触するために、おおむね3.5〜4.0ミリ以上の縫い代がある場合に有効です。他に、マグネット式の定規も利用可能ですが、ネジ止め式と比べると固定力はあまり強くありません。

昭和ミシンを使いやすく:針を選ぶ


シュメッツのユニバーサルとレザー用

 私がおすすめしている針は、シュメッツの家庭用針で、ユニバーサル針と革用(LL)針です。ユニバーサルは万能的に使うことができる針で、もちろん革を縫うためにも使うことができます。革用の針は日本のオルガン製だと太さミックスのパックしか無いので不便ですが、シュメッツならば同じ太さの5本入りで買うことができます。本来であれば、糸を針の左から右に通す古いタイプのミシンでは、LRポイントの針があれば斜め感のあるステッチになるのですが、残念ながら家庭用が製造されているのは現在LLポイントだけです。LLの場合は裏の縫い目には斜め感が出ますが、表は真っ直ぐっぽい縫い目になります。

 ちなみに、現在主流の糸を針の正面から奥に通すタイプの家庭用ミシンでは、LLポイントが通常のLRポイントと同じ向きになります。現在、家庭用でLLポイントの針しか流通していないのは、糸を通す方向が正面から奥というミシンが主流になっていることが、関係しているのではないかと思っています。画像の検索をして、家庭用のLRポイントと思われる針の画像を見たことはありますので、もしかしたら昔は家庭用のLRポイントが製造されていたのかもしれませんが、情報量が少なくてはっきりしたことはわかりませんでした。

 家庭用ミシンに工業用の針を付けて使う例がネット上には散見されます。私も試したことはあります。でも、私は昭和ミシンには家庭用の針の#18までの利用でいいのではないかと思っています。そして、糸は20番程度と考えています。もともと家庭用ミシンは、太くても30番か20番までの糸の利用を想定して設計・製造されている機械ですから、あまり糸の太さを求めるべきではないと思うのです。レザークラフトで常用する糸も、20番くらいの太さが調整しやすくミシンの負担になりにくいと思いますし、20番ならそれなりのステッチ感が出ます。革の世界では20番は大して太い糸ではありませんが、手芸・洋裁の世界から見れば、20番は極太と言ってもいいような番手の糸です。

 工業用の針は、主に高速回転で使用されることを前提に作られている針です。手回しは超低速ですが、極端に太い糸を使いたいとなれば、工業用の太い革用の針が必要になり、針板の針落ちの穴の仕様変更が必要になります。針板の形状や強度などを考えると、加工の仕方によってはマイナス面が出てくる可能性も否定できません。糸は太くても20番かせいぜい8番までと考えれば、針の太さは#18まででほとんどの場合は何とかなりますので、昭和ミシンの使い方としては、それが剛性や性能に合わせた合理的な考え方なのではないかと思っています。ただし、#18の針に対して8番の糸は、やや厳しい組み合わせになります。

 どうしてもという場合は、針板と針の仕様を変えて使うことになります。その場合は、もっと太い針と太い糸を使うことが可能にはなりますが、常用するには縫製条件が厳しくなり、私にとっては現実的なものではありません。針と糸が太くなると、縫うことのできる縫製条件が厳しくなるだけでなく、ミシンへの負担も大きくなります。

 それから、革の厚みを考えた場合は、針全体の形状も重要な要素になります。針にも様々な規格の製品がありますが、ここでは代表的な2種類を比べて見てみましょう。下の画像は、家庭用の針と、一般的な工業用針のDB×1のを並べて撮影したものです。針幹の細い部分を見ると、家庭用の針のほうが長いことに気が付かれると思います。家庭用の針とは違い、DB×1の針幹には段があります。#18までの太さの針は、同様の違いがあります。厚みのある革を縫うときには、この革に刺さる細い部分が長いということは、大切な要素になります。(ただし、#19以上の針になると、DB×1系の針も針幹の段が無くなります。)

 針ひとつとっても様々な種類がありますが、家庭用の針にも利点がありますので、なかなか良さそうだと思いませんか。



上が家庭用 下が工業用


厚い革を縫うときに 針の形状は重要


昭和ミシンを使いやすく:手回しミシンは下糸巻きに少々難あり


古いボビンは問題なし


新しいボビンだと レバーがはまらないことなどがある


 辻永式の手回しハンドルを取り付けたミシンは、上軸を直接駆動させるために、プーリーを空転させて下糸巻きをすることができません。下糸巻きをするときには、針も上下する事になりますので、針の上下に気をつけて糸巻きをしていただくか、あるいは針を取り外した状態で糸巻きをしてください。

 また、1:1の手回し駆動なので、下糸巻きに時間がかかります。それでも、手回しハンドルの重さで、勢いをつけると一度に何周かプーリーが回りますので、多少は糸巻きの能率が良くなります。

 それから、下糸巻きの時に針が上下することと時間がかかるということ以外にも、実は問題があります。それは、現在市販されているボビンが、昭和ミシンで使えない場合があるということです。どうやら、それぞれの製品に違いがあって、昔のボビンとは仕上がりが異なっていることが多いようなのです。基本的な規格は同じなのですが、微妙な部分で違いがあり、昔のボビンと比べると作りが甘いように感じます。

 少し詳しく見てみましょう。



現在入手できるボビンの中では比較的安定している
クロバーのボビン


左が昔の古いボビン 右が現在のクロバーのボビン
側面の溝の彫りが現在のボビンは浅い

 昭和ミシンは、ほとんど垂直半回転釜のミシンで、昔から金属製のボビンが使われてきました。金属製のボビンは現在も販売されておりますが、その中で比較的安心して買い求めることができるのは、クロバーの製品です。

 順を追って見ていきますが、まずはボビン側面の溝を見てみましょう。古いボビンと新しいクロバーのボビンを並べて撮影したものですが、側面の溝の彫り方が異なっていることに気が付かれると思います。現在の金属製ボビンは、クロバーに限らず、この溝の作りが浅くできているものが多いのです。これは、ボビンとしてはある意味で致命的と言ってもいいような部分なのですが、どのように影響するか次の写真でご覧ください。



糸巻きの軸に空転防止のピンが付いている場合に影響


溝が浅いために糸巻きのピンがボビンにはまらない


溝が深い昔のボビンは深くはまる


クロバーのボビンも溝を深く加工するとはまる


空転防止がバネの場合は側面の溝はほぼ影響しない

 下糸巻き装置の軸に、空転防止のピンが付いている場合に、ボビン側面の溝が浅いと本来ボビンが入るべき位置にボビンが収まらず、糸巻きをすることができないことがあります。糸巻き量調整レバーがボビンの中に収まらないために、ボビンをうまくセットできないのです。少々 無理をしてセットできた場合でも、ボビンと糸巻き量調整レバーが強く接触してしまい、糸巻き装置が回転しないことがあります。(ただし、糸巻き装置は個体差が大きいので、必ず不具合が起きるということではありません。)

 下糸巻き装置の軸には、空転防止のバネが組み込まれている場合もあります。この場合はボビン側面の溝の深さはあまり影響せず、浅くても問題にはならないと思います。

 クロバーのボビンは、側面の溝さえ深く彫られていれば、多くの昭和ミシンにほぼ問題なく使える汎用性の高いボビンになるのですが、残念ながら現行の他の金属製ボビンと同様に側面の溝が浅いようなのです。仕方ないので、自分で側面の溝を深く加工する時もあるのですが、ハンドルーターに薄い円盤型の軸付き砥石を付けて加工すると簡単にできます。少々時間はかかりますが、薄い金工ヤスリで溝を彫ることも可能です。




現行のボビン 左がノーブランド 右がクロバー
左のノーブランドのボビンは枠がゆがんでいる


クロバーのボビンの内寸 9.8ミリくらいで安定
手持ちの古いボビンを実測したところ
9.4〜9.8ミリとばらつきがあった


ノーブランドのボビンの内寸 これは9.2ミリくらい
歪みがあるせいなのか内寸は不安定

 クロバーのボビンは枠の歪みが少なくて、内寸が安定しています。ボビンが販売されるときは、直径と高さの外寸のみが表示されることが多く、内寸が表示されることはほぼありません。それは、縫うときの釜への収まりは外寸が合っていることが大切で、内寸は問題にされないからです。でも、ボビンの内寸が狭いと、糸巻き量調整のレバーがボビンにきちんとはまらなくなるので、内寸は糸巻きに影響する重要な要素なのです。

 この点では、クロバーのボビンは内寸が広めに正確に作られているようなので、安心感があります。それに対して、私の手持ちのノーブランドの金属製ボビンを見てみると、内寸が狭めなことが多い上にボビンの枠の部分に歪みがあり、仕上がりが不安定な製品が少なからずあります。



クロバーのボビンの側面の溝を加工してセット
内寸は十分あり糸巻き量調整レバーがはまる


ノーブランドのボビン
内寸が狭く糸巻き量調整レバーがはまらないことがある

私の手持ちの昭和ミシンの糸巻き量調整レバーの幅は
8.7〜9.2ミリとばらつきがあり
この画像のレバーの幅は9.2ミリと広め

 金属製のボビン以外にも、プラスチック製のボビンも市販されています。プラスチック製のボビンは、側面の溝は深めにできている場合が多いようなのですが、残念ながら内寸は狭めにできているものが多いようで、私が手芸店や百均などで試しに買い求めてきたボビンには、昭和ミシンに最適と言えるものはありませんでした。

 百均のボビンに、金属製のボビンもあったので、試しに購入してみました。これがなかなかの仕上がりで、少し歪みはあるものの、内寸は十分なものでした。側面の溝は、片面は浅いのですが、もう片面は深く加工されていて、糸巻きにセットする向きに気をつければ、市販の状態で問題なく使うことのできるものでした。ただ、百均の商品ということで、継続して入手できるものかどうかわかりませんし、側面の溝も片側のみ十分な深さということでしたので、製品の安定性がどうなのか判断できませんでした。

 けっきょく、現在販売されている中で、下糸巻き装置の仕様に関わらず間違いなく昭和ミシンに使うことのできるボビンは、私の知る限りはありません。クロバーのボビンの側面の溝が深ければ迷わずおすすめできるのですが、紹介した通りで糸巻き装置の仕様によっては、自分で加工しなくてはならない場合があります。

 解決策としては、古いボビンの中から使用可能なものを探すというのも、一つの方法です。何個か使用可能なボビンがあれば、実用上はあまり問題がないのではないかと思います。古いミシンには古いボビンが付いていることも多いので、少し汚れていてもすぐに捨てたりせずに、再利用を考えてみてください。多少のサビは問題ありません。

 できればやりたくはありませんが、下糸巻装置の糸巻き量調整レバーを削るというのも、場合によっては解決策の一つになるかもしれません。でも、くれぐれも本体部品への加工は焦らず、じっくり考えてからにしてください。

 具体的なメーカー名を出してクロバーのボビンを取り上げましたが、クロバーのボビンについても、私が持っている現行のボビンに付いて確認しただけで、製品の仕上がりにはもしかしたらロットによる差異などもあるかもしれません。面倒なことではありますが、実際に使えるかどうか現物で確認しなくてはならないというのが、昭和ミシンの糸巻きに関しての現状です。

 それから、糸巻きのゴムワとプーリーに油が付いてしまうと、スリップして上手く糸を巻くことができないことがあります。その時には、ウエスなどでゴムワとプーリーの油をよく拭きとってください。そうすると、スムーズに糸巻きが回転するようになります。油以外にも、ゴムワとプーリーの位置設定などもきちっと行わないと上手く回転しない構造の場合もありますので、じっくり観察して調整してみましょう。


*その後またいくつかのボビンを試してみましたが、河口で扱っている台湾製のHAボビンは、歪みがなく外側の溝の深さもしっかりしており、古いミシンでもほぼ問題なく使うことのできる、良い仕上がりであることがわかりました。ボビンでお悩みの方は、河口のボビンを試してみてください。ただし、この文章を書いた時点での情報ですので、過去の製品や将来の製品についてはわかりません。その点ご承知おきください。

*また、クロバーのサポートに問い合わせたところ、ボビンの外側の溝を深く修正してくださる予定を示してくださいました。その時期についてははっきりしませんが、2018年以降になるようです。それが実現して、クロバーの日本製ボビンの仕上がりがさらに良くなるのを期待したいところです。・・・その後、クロバーは金属製の古いタイプのボビンの製造は終了すると、2019年にサポートからご連絡いただきました。残念でしたが、時代の流れ・世の中のニーズを考えれば仕方のないことですね。丁寧な対応ありがとうございました。




百均のボビン プラボビンは内寸が狭め
右端の金属ボビンはなかなかの仕上がりだった

内寸が狭めでも 現在のミシンでは 問題ないのかもしれない


昭和ミシンを使いやすく:足踏み台の車輪止めのキャップ


鉄脚の固定に自作のキャップ


塩ビパイプのエンドキャップ
中に4ミリ厚の革を敷き 底面に3ミリ厚のゴムを接着

 鉄脚の脚踏み台を使う場合、脚の先に車が付いているので、固定しないと地震などの万一の場合に危険です。純正の木製やゴム製の車輪止めのキャップが残っている場合もありますが、すでに壊れたか紛失したかで、キャップが無い場合が少なからずあります。

 そんな時には、手に入りやすい塩ビパイプのエンドキャップを利用して、車輪止めのキャップを自作することができます。呼び寸法40というサイズがちょうど良く使うことができます。エンドキャップの内側に厚めの革を敷くと、鉄の車輪の荷重で塩ビが損傷することを防ぐことができると思います。また、底面には滑り止めのゴムを貼り付けると、万が一の場合の安全性が増すと思います。

 車輪むき出しのままでも、問題の無いことも多いとは思うのですが、地震の多い国に暮らしていることを考えると、安全策の一つとして車輪止めのキャップはぜひ用意したいものです。

昭和ミシンを使いやすく:性能に合った物を作る


前胴:内縫い 後胴:外縫い

 平面を縫う場合、昭和ミシンで問題になることはあまりありません。でも、立体的な作品になると、平ミシンでは縫えない、あるいは縫いにくい部分というのが出てきます。画像のような前胴が内縫いで後胴が外縫いという構造は、平ミシンでも比較的作りやすい構造です。

 デザインや型紙作りの段階から、ミシンの性能に合わせた物作りを考えると、良いものが仕上がりやすくなりますね。


前胴も後胴も外縫い

 これも最初のケースと同じ通しマチ構造ですが、前胴も後胴も外縫いになっています。こうなると、平ミシンでは、なかなか思うように縫うことができません。裏からならば縫うことができますが、縫い目の美観が整わなくなります。こういった縫いにくい構造は、手縫いと合わせて作る前提で考えると、不都合なく組み立てることができると思います。作るものによっては、部分縫いにミシンを使うと割りきって使うということです。


内縫いの袋物
 内縫いの袋物は、平ミシンでも比較的作りやすいものです。このバッグの場合は、口元の縫製をどうするかが問題になります。頑張って表から縫うこともできますが、柔らかい革で縫い目があまり目立たないようでしたら、口元を裏から縫うのも選択肢のひとつです。

 ざっくりとした作りの作品だと、口元のステッチの必要の無い場合もありますから、そんな時は特に悩むこともなく、縫うことができると思います。

 ミシンを活かすのは、自分の知恵と工夫とデザインで!


その他の使用上の注意など
 ミシンは、各部の調整が適切に行われていないと、上手く動きません。また、実際にミシンを使用する際には、今まで書いたこと以外にも様々な工夫が必要ですし、ミシンを操作する上での守らなくてはならない手順や注意点もあります。そういった点については、地元のレザークラフトショップやミシン店に相談してみてください。

 ちょっとした事で、ミシンの使用感は変わりますし、性能を発揮させるためには、使う人の知識や技術も必要です。文だけではわかりにくいですが、いくつか注意点を上げておきます。




  • 注油は定期的に行い、良質のミシンオイルを使ってください。現代のミシンは、注油禁止であったり、禁止ではなくても注油がしにくいことが多いのですが、昔のミシンは自分で注油するのが前提で、注油もしやすくできています。

  • 使っていなくても、ミシンは定期的に動かしてください。

  • 縫い始めは、上糸と下糸をしっかり押えることを意識してください。そうしないと、糸が絡みます。

  • 上糸や下糸をセットしたままミシンを空転させると、糸が絡みます。縫う時以外は不用意にミシンを回さないでください。空転させる必要があるときには、糸を抜いてください。

  • 天秤が上がり切って一つの縫い目が完成します。その前に押えを上げて革を動かすと、釜の中に上糸が残っているので、トラブルのもとになります。

  • 厚みの段差にミシンは弱く、縫い目が飛びやすくなります。段差解消の工夫を考えてください。具体的には、組み立て前の厚みの調整や、段差を縫うときに段差解消の当て革の利用です。

  • 試し縫いは、本番と同じ条件で行い、糸調子をしっかり確認してください。糸調子は、最初にボビンケースで下糸の強さを決めたら、あとはほとんど上糸で調整します。

  • 縫い目調整の主な確認ポイントは、上下の糸調子に加えて、押えの強さです。押さえ圧は縫い目に影響しますし、押え圧が弱く革が浮いてしまうと、釜内の剣先が上糸のループを通らず縫い目ができません。

  • 針の先が潰れると、良い縫製はできません。針はこまめに確認・交換してください。消耗品と割りきって使うことが大切です。

  • 調子が悪い時には、まずはじっくり観察してください。ミシンのせいではなくて、自分の調整や操作に原因があるときが多いのです。

  • 手回しではミシンに大きな力が伝わるので、無理な使い方はしないでください。実際に、ミシン内部の基幹部品を破損させてしまった事例があります。

  • 性能の上限としては、6ミリ厚程度のヌメ革でも縫うことができますが、限界の厚さでの常用は勧められません。もともと、布などの革よりも薄いものを縫うために設計されているからです。普段は、もっと薄く楽に縫える縫製条件で使い、いざという時には厚くても対応できると考えてください。





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