概  要: 

 

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3体問題:

 「地球 と人工衛星」の関係のような,2体から構成される系の力学問題を2体問題といいます。2体問題については,数学的に解析解を求めていくとができます。
 これに対して,「地球・月・人工衛星」のように,3体からなる物体(天体)の運動を扱う力学問題を3体問題といい,一般に解析的な解を求めることはできません。ただ特殊なケースでの解は知られています。

 3体問題では,3つの天体間で働き合う力は万有引力のみとし,天体は全て質点として扱います。運動方程式は,3天体の合計9個(3次元ゆえ,3×3)の座標に対するそれぞれ2階微分方程式として記述され,全体として18階の連立微分方程式となります。
 この方程式の解を求めることはきわめて至難で,18世紀頃から数学者等の関心を引いてきました。そして,この連立微分方程式は積分を繰り返すなどによって解析的に一般解を求めることはできないことが分かってきたのです。
 しかし,特別な初期値に対する特殊解は知られています。その内の2つはラグランジュ(仏)が1772年に発見したもので,正三角形解および直線解といわれる解です。他の1つはごく最近見つけられたもので,8の字解とよばれています。

 正三角形解は,3個の天体が初期値として正三角形の頂点にある場合であり,直線解は3個の天体が初期値として質量によって決まるある比率で1直線上に並んだ場合です。これらの場合,3個の天体は相互の距離の比および形(正三角形や直線)を一定に保ちつつ,3体の共通重心のまわりを回転するというものです。各天体の運動は同一離心率のケプラー運動となります。つまり,これらの解の位置に天体が配置した形で運動するときに限り,各天体は一定の相対位置を保ったまま運動できるのです。

 3個の天体のうちの1個の質量が他の2つに比べてきわめて小さいとき(例えば,地球・月に対する人工衛星など),質量の大きい2天体(例えば,地球と月)がその共通重心のまわりにケプラー運動をすると考えることが出来ます。さらにこの運動が円運動であるとき,取り扱いはさらに単純化出来ます。これを円制限三体問題といいます。この場合の正三角形解,直線解の位置をラグランジュ点といいます。
 ラグランジュ点は合計5カ所ありますが,正三角形解ポイント(L4,L5点とよぶ)はとくに安定で,木星の軌道上を公転しているトロヤ群小惑星(約1000個の小惑星群)が存在するのは,太陽・木星の正三角形解の位置にあたります(下図)。



本シミュレーションについて:

 本シミュレーションでは,星の質量を 赤:青:緑=1:0.03:10-10 として,ルンゲクッタ4次法と呼ばれる数値解析法でシミュレートしています。

 衛星の初期位置がラグランジュ点の L1~L3 のいずれかである場合,はじめのうちは緑星は青星と同じ周期で円軌道上を周回し始めますが,やがて軌道は円軌道から大きくずれていきます。これは, L1~L3 の位置確定がコンピューターの精度(6桁以上の精度)では十分でないらしいこと,つまりコンピューターでは星の初期位置を正確に L1~L3 の位置に設定できないこと,および数値解析の繰り返し計算に伴う誤差の累積が避けられないためと考えられます。(ルンゲクッタ法は比較的誤差の生じにくい解析法ですが,計算を繰り返していくことにより,僅かな誤差が累積していくことは避けられません)。
 これに対して初期位置が L4もしくは L5 の場合,上記のような要因があるにもかかわらず,その後もほぼ完全に近い円運動を続け,極めて安定した点であることが分かります。

 理由については,以下の『ラグランジュ点 詳細』で説明しています。



詳しくは『ラグランジュ点 詳解1』 へ続く。