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戦後補償講座 法律編

第2回 「請求権放棄」問題とは,一体,どのような問題?(2)

 国や企業の主張とは違ったもう一つの「請求権放棄」論に,1972年の日中共同声明の第5項によって,中国人の個人請求権は放棄されたのだという説があります。ただし,日中共同声明第5項は,国家の請求権とは別に,中国人個人の賠償請求権をも放棄すると明記しているわけではなく,国際法の解釈として,このような条項で個人の請求権が放棄されたと解釈するのはかなり無理があります。また,日中共同声明後も,中国政府が強制連行,慰安婦,毒ガス等を「遺留問題」として誠実に日本政府が対応することを求めていることからすれば,中国政府が中国人個人の賠償請求権の放棄を認めているといった主張は根拠がありません。

 したがって,日華平和条約,サンフランシスコ平和条約はもとより,日中共同声明によっても,中国人の個人賠償請求権が「放棄」されて無くなってしまっていると解釈することは,法的には全く根拠のないものだということになります。このことを裏付けるように,これまでに出された中国人戦後補償裁判の判決では,日華平和条約による請求権放棄説,日中共同声明による請求権放棄説,いずれも認められることはありませんでした。

 ところが,2005年3月18日,中国人元「慰安婦」二次訴訟で,東京高裁第1民事部(江見裁判長)は,「日華平和条約によって原告の請求権は放棄された」という初判断をしました。最高裁による西松建設事件の弁論再開と判決が,この東京高裁と同じ論理によるものなのか,それとも別の判断になるのか,現時点で予想することは困難です。しかし,いずれにしても,これまで述べてきたとおり,日華平和条約による請求権放棄説も,日中共同声明による請求権放棄説も,ともに法的根拠はありません。今回の西松建設事件による最高裁判決は,法解釈の常識をもねじ曲げた,極めて政治的な判断となる可能性があります。私たちは,いまこそ最高裁の動きを注視し,その姿勢を改めさせる必要があるのではないでしょうか。

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