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争点の解説

3 国の不法行為責任と国家無答責

 国家無用責の原則とは、権力作用に起因する損害に民法の適用を否定し、国家の責任を認めないという考えをいいます。従来の判決は、この原則を無条件に認め、国を被告とする戦後補償裁判でことごとく被害者の請求を否定してきました。
しかし、二〇〇三年(平成一五年)以降,戦後補償裁判においてその適用を否定した判決が相次いで出されることになっています。判決の理由は、それぞれ特徴があります。
 一つは、保護すべき公務か否かという視点で,京都地裁大江山判決は,当該強制連行強制労働が,本来私経済政策である労働政策の一つとして移入政策が立案,実行されたものであるにもかかわらず,日本政府がその実効性を確保するために,優越的地位に基づいた権力作用(公務遂行作用)を発動して強制連行ができる制度がないのに,・・・強制力をなんらの法的根拠もないまま組織的に行使して実施したものであるとして,そのような行為は,「保護すべき(公務としての)権力作用」にはあたらないと判断して,国家無答責を排除しました。
 二つ目は、訴訟法上の理由から考える視点です。
東京高裁アジア太平洋戦争韓国人補償判決は,戦前における判例・学説が民法の不法行為規定が公務員の権力作用には適用されないと解釈していた根拠が必ずしも明らかではないとし,結局,国家無答責の原則というのは,司法裁判所においては民事裁判事項と認めず行政裁判所においても行政裁判事項として認めず,共にその訴訟を受理しなかったため賠償請求を法的に実現する方法が閉ざされていただけのことであり,行政裁判所が廃止され,公法,私法関係の訴訟を司法裁判所において審理されることが認められる現行憲法及び裁判所法の下においては国家無答責の原則に正当性ないし合理性を見出し難いとして排除しました。
 三つ目は、同原則は法令の解釈の所産だとして、本件に適用することを排斥する視点です。
東京地裁第2次判決は,戦前における判例・通説が,民法の不法行為に関する規定は公務員の権力作用には適用がないとの解釈を採っていた根拠が必ずしも明らかではないとして,現時点においては,裁判所が国家賠償法が施行される以前の法体系の下における民法の不法行為の規定の解釈を行うに当たり,不文の原則によって拘束を受けなければならない理由はないとし,他方で,国の権力作用に起因する損害賠償責任に民法715条が適用され得ると判断して,国家無答責の原則の適用を否定しました。
 判決は、同法理が法律に根拠をもつものではなく、判例による法令の解釈の所産であることを認め、そのような解釈を、本件事件に適用することの適否、また、日本国憲法下の現在の法解釈として、戦前の判例法理をそのまま適用することの可否を検討して、同原則の適用を否定しています。

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