点字の世界

近藤貞二

先日のREMの例会で、文字の大きさや代表的な書体を3種類立体コピーしていただき、それを触って書体の違いを知ることができました。その立体コピーされた文字に触れながら、私は点字のことを思い出していました。

点字は1825年にフランスのルイ・ブライユによって考案され、日本では1890年に石川倉次氏によって日本語の点字表記が作られたことは多くの人がご存じだと思います。

平成17年度障害者白書(2000年から2002年の調査)によれば、日本の視覚障害者数は306000人で、障害者全体の9.2%だそうです。
 そのうち点字の読み書きができる視覚障害者は32000人で、10.6%になるそうです。
 しかしこれは弱視の方も含まれていますので、点字が必要と思われる1級・2級の重度視覚障害者数179000人でみると、点字の読み書きができる視覚障害者は31000人となり、17.3%になるそうです。
 1級・2級の重度視覚障害者だけで見れば点字使用者のパーセンテージは増えますが、いずれにしても、点字の読み書きができる視覚障害者が少ないことには違いはありませんね。

一方、一般の家庭の中や街でも点字はよく見かけるようになりました。
また私自身も、小・中学校の福祉実践教室や総合学習の時間で、点字を通して視覚障害者の理解を深めていただけるよう、お手伝いの活動をさせていただいております。

余談ではありますが、小学校の点字の実践教室では、最後に1分間に“め”の字をいくつ書けるかという「め書き競争」をゲーム的に行うようにしていますが、これが子どもたちには一番盛り上がります。もちろん、私だって子どもたちに負けるわけにはいきませんので必死です。

そのようなことから、私が子どもだった頃には、点字に関わっている人がいない家庭ではまず見かけることのなかったはずの点字も、現在では珍しくなくなり市民権を得てきたといえるのではないでしょうか。
けれど、点字の読み書きができない視覚障害者が多いことは皮肉な話ですね。

点字の読み書きができない視覚障害者が多い原因は、高齢になっての途中失明者が多く触読によるマスターが難しいことと、音声パソコンの普及による点字離れも大きいのではないかと考えます。

原因は原因として、私は小学6年生から点字を使用しており、パソコンが使えるようになった現在でも点字を読んだり書いたりしない日はほとんどありませんが、しかし、その点字の世界、私は大いに不満があるのです。

それは、墨字(点字に対して普通の文字)はレイアウトは自由だし、縦書きでも横書きでも自由です。文字の大きさだって自由だし、句読点の位置だってほとんど書き手の個性です。筆をかえれば色だって自由に変えられます。

もっと言うなら、若い人に多い「丸文字」だって年配の人の「達筆」と言われるような文字も、その人の個性であり筆跡を見ただけで誰の字であるか分かると言います。

それに比べて点字はどうでしょう。
 点字の大きさは点字機によって多少は違うものの、書く方向はもちろん、書き始めの位置や分かち書きなど、表記法が細かく決められています。本当に本当に細かくまで決められており、毎日使用している私などでも訳が分かりません。
 その約束事から外れた点字は「点字の書き方をもっと勉強しなさい」と、しかられてしまいます。

一例を挙げれば、日本の点字はひらがなとカタカナの区別もない表音文字ですので、ずらずらと書かれていてはどこで切っていいのか分からず文章として理解できません。
そのために文節ごとにますを空けながら分かち書きをするのですが、この分かち書きのルールがやっかいなのです。

例えば、
車いす」は「くるま いす
海水浴場」は「かいすい よくじょー」と空けて書くのです。

また、「松並木」は五拍なので続けて「まつなみき」、
桜並木」は六拍なので「さくら なみき」と空けることになっているそうです。

また、こんなのもあります。
 「塩ラーメン」や「紙テープ」は和語なので続けて「しおらーめん」 「かみてーぷ」となり、
味噌ラーメン」や「磁気テープ」は漢語なのでそれぞれ「みそ らーめん」 「じき てーぷ」と空けるそうです。
塩ラーメン」も「味噌ラーメン」も六拍で「磁気テープ」も「紙テープ」も五拍ではないか!!訳が分かりませんね。
塩ラーメンも味噌ラーメンも私は好きですけど、これじゃあおいしくなくなっちゃいますよ。

これを墨字に当てはめれば、「ここは漢字でなければならない」とか「ここは点を入れなければならない」とか「ここはこの書体でなければならない」……となるのでしょうか。
 出版社や新聞社などは独自でルールを決めているとか聞きますが、それとて著者によっては「ここはこの漢字で」とか「ここはひらがなで」と、意識的に使い分けることで、書き手の個性を出したり表現を豊かにしているのではないでしょうか。

点字にも漢字があるのに、いまだに正式な点字として認められていないため、いつになっても表音文字としての点字である以上、分かち書きをしないと読みにくくて仕方がありません。
だから不特定多数の人が読むような本は決められたルールできちんと書かれていないと混乱するでしょう。
しかし、それほどの厳格なルールが必要なのでしょうか?正直なところ、「くるまいす」と続けて書こうが「くるま いす」と空けて書こうがどっちでもいいのにと私などは思ってしまいます。というより、「くるま いす」と空けて書かれたのを見たときは、読みにくくて何のこったか意味が分かりませんでした。
 小難しい表記法も必要かもしれませんが、それよりもひらがなとカタカナの区別ぐらい作っていただきたいものです。

それに、見えないとはいえ、点字用紙の色だってもっといろいろあれば楽しいのではないでしょうか。
 考えてもみてください、若い人たちが恋人にラブレターを書くとき、そんなやぼったい便せんなんか使いませんよ(もっとも、最近の若い人は手紙なんて書かないかもしれませんけど!!)。
 日本点字図書館の用具事業課には、ピンクとか水色の点字用紙もあるにはあるようですが、点字用紙だけのために遠方の日本点字図書館というのはやはり躊躇します。

さらに私は本気で思っているのですが、どうして縦書き用の点字機が無いのでしょうか?点字は縦書きではだめなのでしょうか?
 また、点字の大きさが自由に変えられるような点字機はなぜ無いのでしょうか?
ここは大きな点字にしたい」と思うことがよくあります。そのような点字はナンセンスな発想なのでしょうか?

縦書き用の点字機や自由に文字の大きさが変えられるような点字機がもしあれば、使いたいと思う点字使用者は私だけでしょうか。

しかしそのような点字機、作るのに技術的に難しいのでしょう。技術的に難しい以前に、そのような点字は読めないと皆さん思い込んでいるのでしょうね。そのようなナンセンスなことを考える人もいないのかもしれませんね。
 だって、がんじがらめに細かく決められた点字のルールですもの、そんなこと提案しようものならバカにされて取り合ってもらえないでしょう。

たしかに点字は「触読」という制限はありますが、「だれにでも読んでもらいたい」と思えば、そのように厳格に書けばいいだけの話で、点字の世界にも、もっと遊び心があってもいいのではないでしょうか。
 そうでなければ、点字が読めなくてもそんなに不自由が無くなった現在、点字使用者の点字離れも増えるのではないでしょうか。

いずれにしても、点字の世界にも墨字に近いくらいの柔軟性がほしいものだと私は思います。

私は本気で、縦書き用の点字機や文字の大きさが変えられるような点字機があればいいのにと思っています。
もしそれが無理なら、せめて模様や図形が簡単に描ける手軽な点字機ぐらいはぜひほしいものです。