雪・節・切
松尾敏彦静かに降り続く雪の中であなたは何を考えていらっしゃるのでしょうか?
くつくつという土鍋、そこから立ち昇る蒸気とそれに含まれる出汁の良い香りが、
豊かなような心を演出しているかのように思わせます。
音のない雪の世界に雪の音を感じながら、冷酒のグラスを口に運ぶわたくし。
考えるでもなく、ぼんやりするでもなく、
たわいないことが走馬灯のように回り続けているうちに、ふっと思い出したのです。
あなたはどうしていらっしゃるのでしょう。
きっと私のことなど記憶の片隅にも残っていないと思うのに、
あなたは、今、何をされていらっしゃるのでしょう。
「良い人なんだけど、私それだけじゃ踏み出せないの、ごめんね」
然り気なく言われた言葉が氷のヤイバとして心のどこかに刺さっています。
そういうあなたを恨むでもなく憎むでもなく、
どこかで愛し続けている私が見え隠れするのを楽しむところがあります。
そう、氷のヤイバが溶けてしまって無くなることが恐くて心も凍らせているのです。
ヤイバだけがあなたとの共通点だから大切にしています。
そして、私は今だに何も変わることなく良い人だけのままです。
いつのまにか土鍋を熱していた燃料もなくなり、静寂に包まれています。
口当たりの良い冷酒も残り少なくなってきました。
静かに降り続く雪を感じながら私は……。
静かに降り続く雪を感じながらあなたは……。
























