ナズナ

「良く見れば なずな花咲く 垣根かな」・・・・芭蕉

ナズナは早春の土手や田の畦を覆い、一面に咲くと遠目には白いジュウタンを敷いたようになる。
しかし、個々の花は小さく、お世辞にも綺麗とは言い難いが、芭蕉の句にあるように、かっては可愛い花とされ、名の由来も愛(め)でるという意味の撫菜(ナズナ)から来ているとする説が有力である。
平安時代の歌に 「御園生の ナズナの茎も 立ちにけり けふの朝菜に なにを摘まし」 と詠われたように、古くから食用とされ、春の七草のひとつとして室町時代にはすでに七草粥(ガユ)に入れられていた記述がある。
別名ペンペングサで、右下の写真の様に実の形が三味線のバチに似ていてその擬音からぺんぺん草となった。 三味線草とも呼ばれ、蕪村に次の一句がある。 「妹が垣根 三味線草の 花咲きぬ」。

ナズナの花と実

蕪村や芭蕉も詠んだように、かわいい花とされていたナズナも時代を経ると、廃屋のわら屋根や庭に良く生える理由で、貧乏の象徴とされるようになり、 「おまえの家にペンペングサをはやしてやる」 と言えば 「お前を没落させてやる」 という恐ろしいタンカとなった。
ナズナも時代によって毀誉褒貶を受けてきたが、現代では雑草として、歌に詠まれる事も無く、同じ七草のスズナ、スズシロの様に野菜になることも無く、全く顧みられる事の無い花になってしまった。( 「スズシロとノダイコン」「スズナは菜の花の祖先」 の項参照)
ナズナと名の付く花には食用にならない為イヌの名が冠された黄色い花を付けるイヌナズナや果実の形が行司の軍配に似て、古代に欧州から帰化したグンバイナズナ、明治に北アメリカから帰化したマメグンバイナズナがあり、又、ニワナズナと呼ばれる欧州からの園芸種も道端に逃げ出しているが、いずれも四花弁の小さなアブラナ科の花である。

  イヌナズナ         イヌナズナ        グンバイナズナ

マメグンバイナズナ       ニワナズナ         ニワナズナ 

ナズナは古くは可愛い花とされ、現代では貧乏を代表する花となり、時代によって毀誉褒貶を受けてきたが、群生すると白い絨毯を引いたようになり、又、ところどころにぽつんと咲いている姿もそれなりに可憐な花である。

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