オオイヌノフグリとイヌノフグリ各種

「犬ふぐり 星のまたたく ごとくなり」・・・・高浜虚子

虚子の句にもある様に星をちりばめたような可憐な花で土手や田の畦を瑠璃(るり)色に染め、春が来た事を実感させる花であるが、この花ほど改名が論議された花も珍しい。
ヨーロッパ原産で明治時代に渡来したゴマノハグサ科の帰化植物で、古来から日本にあるイヌノフグリと同種で花も実も大きいのでオオイヌノフグリと名付けられた。
フグリは古語で男性の生殖器を意味し、果実の形が犬のそれに似ているので、地方によってはそのままイヌノキンタマと呼ぶところも有り、果実の形が名の由来である。

オオイヌノフグリの果実

可憐な花に似つかわしくないという事で 「ルリクワガタ(瑠璃鍬形)」 等、種々の名前が候補に挙がり、何度も改名が試みられたが、結局、未だにこの名で通っている。 星の瞳と呼ぶ地方もあり、外国ではその瑠璃色にちなんでバーズアイ(鳥の目)やキャツアイ(猫の目)と呼ばれたり、キリストが十字架にかけられる前にハンカチを差し出した娘、ヴェロニカにちなんで 「聖女ヴェロニカの花」 と呼ばれたりする。 どれも清楚で可憐な花に似つかわしい名前で、オオイヌノフグリよりはよほど良いが、いったん付いた名の改名となるとなかなか難しいらしい。
帰化植物ではあるが、名前の論争が起こるほど日本に溶け込み、日本の春には無くてはならない花となった。
ヨ−ロッパから帰化したこの仲間にはタチイヌノフグリやフラサバソウもあるが、花がオオイヌノフグリよりずっと小さいので、余り目立たない。

オオイヌノフグリ

タチイヌノフグリ

フラサバソウ(楕円形の葉は子葉)

タチイヌノフグリは茎が立つのでタチイヌノフグリの名がある。 花の大きさはオオイヌノフグリの半分以下で、気をつけて探さないと見えないもののあちこちで繁茂している。
フラサバソウは最初、フランシェ、サバチェの両氏によって長崎で採取され確認されたことから両氏の名前をとってフラサバソウと命名された。 タチイヌノフグリよりは少し花が大きいが、オオイヌノフグリよりはかなり小さく、色も薄く、おまけに、この地方では数も少ない。 毛深いことと、花が咲く時期になっても子葉(双葉)が残る特徴がある。

一方、在来種であるイヌノフグリは外来種のオオイヌノフグリやタチイヌノフグリ、フラサバソウに押され、見る事も難しくなった。

イヌノフグリ

国や埼玉県の絶滅危惧種に登録されており、上の写真も一株だけ生育している石垣を教えてもらってやっと撮った貴重な写真である。
オオイヌノフグリに比べ花も小さく、淡いピンクに紅紫色のすじが入る。

外来種が在来種を押しのけて繁茂するのはタンポポ(西洋タンポポ)、ミミナグサ(オランダミミナグサ)、フウロソウ(アメリカフウロ)、チチコグサ(ウラジロチチコグサ)等等、多くの例が見られる。( 「タンポポ今昔」 「枕草子のミミナグサ」 「アメリカフウロと風露草」 「ハハコグサとチチコグサ」 の項参照)
ただ、外来種であろうが無かろうがオオイヌノフグリは改名が議論される程、日本の自然にすっかり溶け込んだ目立って可愛い花である。

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