「多摩川の 土手にタンポポ 咲く頃は 我にも思う 人のあれかし」・・・・若山牧水
タンポポは春の野の花の中でも特によく目立ち、羽化したばかりのモンシロチョウやシジミ蝶が花から花へ蜜を求めて飛びかう様子は春の代表的な風物詩であり、又、綿毛(ワタゲ)をいっぱい付けた様子もなかなか風情があって、上記の牧水の歌のように和歌や俳句にもよく詠まれてきた。
この春を代表するタンポポに近年異変が起こっている。 春ばかりでなく、夏にも冬にも咲いているのが見られ、「帰り花」 と思ってしまうが、そうではない。
冬などに小春日和が続く時、季節外れの花が咲く事を 「帰り花」 と呼び、俳句の季語にもなっており、かってはタンポポも帰り花として俳句に詠まれる事もあったが、現在では一年中常時咲いるのが見られ、そういう風情は無くなってしまった。 外来種のタンポポのせいである。
日本に古くから自生しているニホンタンポポはカントウタンポポ、カンサイタンポポ、エゾタンポポ等、地域によって細分され、又、白い花のタンポポもあるが、腐葉土の多い多湿弱酸性の土質を好む為、都市化によって生育地が次第に狭められている。
一方、明治時代に食用として入って来たセイヨウタンポポ、あるいは近年入ってきたアカミタンポポ等の外来種は乾燥した土質やアルカリ性土質にも強く、又、花粉やそれを運ぶ昆虫なしでも生殖出来る単為生殖と言う和種には無い能力を有して一年中花を咲かせることが可能である。
和種のタンポポは主に春に咲くが、外来種は一年中花を咲かせ、しかも、近年では、外来種とニホンタンポポの交配種が席巻しつつあり、タンポポの世界も様変わりの様相を見せている。
関東地方での調査によると、タンポポの総数の内、外来種と雑種が6割、在来種が4割との結果が出ており、 しかも、全体の4割が雑種で同じ遺伝子を持ったクローンとの事である。
こうしてみると、在来種の絶滅が心配されるが、ニホンタンポポにもセイヨウタンポポに無い強力な武器がある。 草に覆われて太陽が届かない条件下でも地下茎でしぶとく生き残る事が可能であるが、セイヨウタンポポは地下茎だけでは生き残れない。 当分、ニホンタンポポ、外来種、雑種のせめぎあいが続きそうである。
外来種や雑種は下の写真に見る様に外総抱片が反り返っているので区別はつくが、花は一見しては分からない。
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