ハハコグサとチチコグサ

ハハコグサ

ハハコグサは春の七草のオギョウ(ゴギョウ)の別称で、七草ガユに入れられ食用とされたが、草餅(くさもち)の材料としても名を成した花である。
古くはホウコグサと呼ばれ、800年代の歴史書 「文徳天皇実録」 に 「今年はホウコが生えないから、年中行事の草餅を作ることが出来ないとの噂が市中に広まった」 とあり、又、地方に残るモチバナ、モチグサの別称があるように、古くは、草もちと言えばハハコグサ(母子草)が使われ、ヨモギに取って代わられたのは比較的近代のことである。
茎や葉に白い産毛が密生しており、これが餅のつなぎに使われた。 ヨモギもお灸のモグサに使われたように白い毛が密生しており、やはり 「つなぎ」 として用いられた。
現代のもち米を知る我々にとっては何故つなぎがいるのか不思議であるが、おそらく昔の草餅の原料は粘りが少なく、粘り気を出す為につなぎが必要であったとものと思われる。
ヨモギが使われるようになって、その色合いや香りからヨモギの草餅が主流になり、ハハコグサが草餅の材料であった事を知る人は少ない。 又薬草としても広く用いられた。
名の由来は諸説あり、ホウコグサの転化説や、茎や葉の白い産毛から、母が子をくるんでいる様に見えるとも、あるいは、花が母子の人形(ひとがた)に見える事でこの名がついたとも、白い毛の付いた種子がほうけ立つ様からホウケグサがなまったとも、はたまた、草餅に使われていたので、 「葉っ子」 がなまった等いろいろである。 別称のオギョウ(ゴギョウ)は御形と書き、人形(ひとがた)の事で、厄除け等に母子の人形が用いられた事から母子草になったとも言われる。
史前帰化植物で、一説には万葉集の和草(ニコグサ)がこれにあたると言う説があり、次の一首がある。 「葦垣の 中の和草(ニコグサ) にこやかに 我と笑(え)まして 人に知らゆな」(垣根越しに、にっこり微笑んだりして…私達の仲を人に知られるとまずいよ!)。 ニコグサは現代のハコネシダであるとする説も有力で、真偽の程は不明である。

近代になると、高浜虚子が 「老いてなお 懐かしい名の 母子草」 と詠んでいる。

ハハコグサ

一方、同じ属にチチコグサがあって、ハハコグサに対比して名が付けられたようであるが、花は貧弱でさえない。
しかも散歩道には、古くから日本に生育しているチチコグサよりタチチチコグサ、ウラジロチチコグサ、チチコグサモドキ等のアメリカ大陸からの帰化種が繁茂している。

チチコグサ

  タチチチコグサ    ウラジロチチコグサ    チチコグサモドキ

ハハコグサは野の花としての風情があるが、チチコグサ類を野の花として取り上げるにはいささか抵抗がある。

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