ヤブジラミ

ヤブジラミ(藪虱)とは何とも嫌な名前を付けられた植物である。
セリ科特有の小さな花を付けるが、拡大して見るとなかなか可憐な花で、花に言わせれば 「藪に生える虱」 等と名前を付けられる所以はないと怒るかもしれない。
名前の由来は花ではなく、果実からきている。  果実に棘毛がびっしり付いて、動物や人の衣服に付いて生育範囲を広げる、いわゆる 「ひっつき虫」 の一つで、人に引っ付いたり、又、その果実の形から、動物や人間に引っ付いて血を吸うシラミ(虱)を連想させてヤブジラミとなった。( 「引っ付き虫いろいろ」 の項参照)

ヤブジラミの花       ヤブジラミの葉      ヤブジラミの実

もっとも、シラミと言っても分からない世代が増えており、現代ではほとんど見られなくなったが、「 夏衣(なつごろも) いまだシラミを 取り尽さず」 と芭蕉の句にもあるように、昔からノミ(蚤)と共に人にたかって血を吸う害虫で、特に戦後の不衛生な時代に日本中に大量発生しかけ、米軍(進駐軍)がDDTを撒いた経緯がある。 子供の頃、頭からDDTをかけられた経験のあるお年寄りも多いはずである。 ちなみに、DDTは人類が開発した最初の有機合成殺虫剤であり、この発明者はノーベル賞を受賞した。
現代では日本も衛生的になりほとんど見られなくなったが、近年、海外旅行に行く人が持って帰って増えているようであり、花の名前だけに留めておいてほしいものである。
それにしても、花の名前にシラミを付ける感性もなんともひどいものであるが、ヤブジラミの果実は蛇床子(じゃそうし)と呼ばれる漢方薬で、塗ると皮膚の痒みをとる薬となり、逆にシラミ対策になりそうである。
近縁にオヤブジラミ(雄ヤブジラミ)と呼ばれる花があり、実(み)が大きいのでオヤブジラミ(雄ヤブジラミ)と呼ばれるが、花期が一ヶ月以上早く、晩春に咲き、花の色も少し赤味がかる。( 「オヤブジラミとヤブニンジン」 の項参照)
ヤブジラミは梅雨の頃から盛夏にかけて散歩道で良く目立ち、一瞬セリが咲いていると思ってしまうが、よく見れば、花も葉も異なる。 

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