マムシグサ

埼玉県深谷市は群馬県と境を接し、東京に近い県人からは 「群玉」 と揶揄される地方で、関東平野の真っ只中にあり、山らしい山は無いが、平成の大合併により秩父山塊の端に位置する花園町が編入されて、標高330mの鐘撞堂山が最高峰となった。 鐘撞堂山は鉢形城の見張り台で、事が起こった時に鐘を鳴らして知らせた鐘撞堂があった為その名が有る小さな里山であるが、4月の終り頃、ここを散策すると、チゴユリが群生しており、そのチゴユリの次に目に付くのがこのマムシグサである。( 「チゴユリとその仲間」 の項参照)
登山道の入り口に 「マムシに注意」 の立て看板があり、マムシグサばかりでなく、本物のマムシも生息する。 花を包む仏炎包がいかにも蛇が鎌首を持ち上げた様子からその名が付いたと思ってしまうが、実際は、茎の褐紫色の模様がマムシの模様に似ている事から来ている。
花を包む仏炎包が緑のものをカントウマムシグサやアオマムシグサ、紫のものをムラサキマムシグサと呼んだり、地方変異が多い。

マムシグサの茎の模様と仏炎包

マムシグサの雌花から実へ

この花は雌雄異株で雄花を付けるものと雌花を付けるものがあり、この株が年によって性転換を行ったり、雄花と雌花で虫の出入りをコントロールする仕組みが違ったりと、きわめてユニ−クな生存戦略を持った植物である。
芽が出ても地下の球茎が一定の大きさになるまでは葉だけで、この場合、無性であるが、根茎が大きくなると雄花を咲かせ、栄養が十分取れて根茎(球茎)が太ると雌花となって種子を形成し、秋に赤い目だった実となるが、種子を形成する為栄養を使い果たすと再び雄花となる。 天候による栄養状態によっても変わるようである。( 「散歩道の赤い実」 の項参照)

又、この花は細長いので、受粉に訪れる虫が落ち込む事があって、上がろうとしても滑って外に出にくいが、雄花だけには下の方に虫の脱出口があり、雌花には無い。 受粉さえ済ませてしまえば虫が死んでも構わないと言う植物の知恵である。
この花の根茎や葉にはシュウ酸カルシュウムを多量に含み有毒で、食べると痺れたりするが、秋に球茎を採取して輪切りにして乾燥させると漢方薬の 「天南星(てんなんしょう)」となり、去痰、鎮痛に効果がある。 又、昔は根をおろして洗濯糊として使用された。
栄養状態によって性転換をするユニ−クな仕組みをもったサトイモ科の花である。

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