世界とくにアジアの国々に第9条はどのように受けとめられているのでしょうか
まず指摘しておきたいことは、第9条についての受けとめ方には、欧米諸国とアジア諸国との間ではかなり温度差があるのではないか、ということです。欧州の人たちが神経をとがらせているのは、ネオ・ナチ、ルペンその他の極右勢力の動向です。その欧州諸国は、日本国内の右傾化傾向にはまったく無頓着だといっていいいでしょう。アメリカについては、すでにふれましたので、ここでは繰り返しません。
それでは、私たちが重視するべきは、欧米諸国の受けとめ方でしょうか、それともアジア諸国の受けとめ方でしょうか。二度と戦争を起こさないという反省のたった第9条の制定の意味からいっても、また、アメリカの先制攻撃戦略の矛先の重要な部分がアジアに向けられていることからいっても、答えは明らかです。
もちろん、だからといって、欧米諸国が日本の右傾化に正確な認識をもつように働きかけなくてもよい、ということにはなりません。
第9条を変えようとする動きについて、欧米諸国(特にアメリカ)はどのように見ているのかといえば、残念ながら、第9条に対する関心そのものが低いといっていいでしょう。日本とドイツとの違いすら認識していない欧米諸国は、基本的に「力による」平和の考え方が圧倒的に強いこともあって、日本が「戦争する国」になるのは当然という受けとめ方です。
ですから私たちとしては、「戦争する国」を目指す改憲勢力が、同時に欧米諸国の重視する人権・民主主義を踏みにじることを狙っていることを、欧米諸国の人々に認識させる努力が重要です。
アジア諸国は、日本をどのように見ているのでしょうか。小泉首相の靖国参拝、歴史教科書問題などをみて、日本が過去を清算していない国だという印象を強めています。
とくに特に中国では、右傾化する日本、傲慢な日本が第9条を変えることに対しては、それが台湾を横目でにらんだ日米軍事同盟の強化とつながるだけに、きわめて深刻に受けとめています。
この点について、私もいろいろなところに伺ってよく聞く反応ですが、第9条改憲反対の人々の中にも、中国に対しては違和感を持っている人が多いことに気づかされます。違和感のいちばん大きな原因になっているのは台湾問題、それから2番目が天安門問題だと思います。
台湾問題に対する多くの日本人の反応は、台湾はあれだけ民主化されているのだから、台湾が独立するというなら認めるべきではないかということです。これは、憲法を守るべきだという人たちの間でもかなりスッと入っていく議論なのです。その裏にあるのは、もう一つの要素である天安門事件を引き起こした中国はとても人権・民主主義の国家とはいえない、という判断があるわけです。
しかし、ここで私が申し上げたいことは、台湾が独立するかしないかは、優れて中国と台湾の間で決めるべきことであるということです。いま中国がもっとも恐れ、警戒していることは、台湾が独立宣言して、それに対してアメリカと日本の議会や国会が台湾独立を承認すべきだという決議をすることです。
そうなると、中国政府はこれに対抗せざるをえないわけです。中国は台湾を取り返すために武力に訴えることを辞さないと公言していますから、必ず米中戦争になってしまうのです。だれも望まない戦争がそこで起こるということなのです。実はアメリカと日本の政治をやっている人たちは、そういうことを現実に起こりうる可能性として考えています。
そのことを表したのが、2004年12月の新防衛計画大綱(「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」)です。そこでは直接的に中国の脅威とはいいませんけれども、初めて中国の軍事力が不安定要因になっていると書いています。ここではじめて、日本の防衛政策において中国を対象にしているということを明らかにしました。
そして、2005年2月19日に行われた日米安全保障協議委員会、日米の外務・防衛両大臣の2+2会議でも台湾海峡問題を公然ととりあげました。そして、台湾海峡の平和的解決は、日米共同の戦略目標であると述べたのです。
果たせるかな、中国はものすごく反発しています。中国の内政問題に対して、日米両国の外務・防衛担当者が、しかも首脳がどうしてそのような発言をするのか、完全な内政干渉だといっているわけです。
ことほど左様に、アメリカも日本も、台湾が独立する可能性は頭に入っていて、台湾独立宣言があった場合には台湾の側に立って中国と戦争する可能性を考えているということなのです。
そのような事態になった場合に、「それはそれでいいではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、私があえて申し上げたいのは、米中軍事対決がいったん起こってしまった場合、最悪の場合はどうなるか、ということです。もっとぶっきらぼうにいえば、「中国のミサイルが日本に飛んでくるということを覚悟する気持ちがありますか」ということです。
中国のミサイルは、ほとんどが核弾頭を搭載することができます。私が問いたいのは、「台湾独立問題のために、日本の国土が荒廃するような危険を背負い込むこともほんとうに覚悟したうえで、台湾独立を支持すべきだというのですか」ということなのです。
私は、中国は日米が干渉しなければ軍事力を行使しないと確信しています。そして台湾は、日本とアメリカが支持しなければ独立を宣言するなどということはしないでしょう。日米が支持しているという気持ちがあるからこそ、陳水扁が暴走しようとしているのです。
私たちの取るべき立場は、とにかく中国と台湾で話し合ってくれということです。同時に、台湾問題について日米は首を突っ込まないことが大事だということです。私は、広島、長崎に投下された原爆を数倍しのぐ威力を持った中国の核ミサイルが日本に飛んでくることを覚悟してまで、この問題に深入りすべきではないということは言いたいし、皆さんにも真剣に考えていただきたいと思います。
まさかそこまで物事はいかないだろうと考えているのが、日本やアメリカの勇ましい人たちなのです。自民党でいえば安倍晋三氏みたいな人です。
しかし、中国のナショナリズムを侮ることはほんとうに危険です。現に日本は、その教訓を過去の日中戦争で肌身にしみて味わっているわけです。中国は泣き寝入りするだろう、とたかをくくっている人たちがいるということは、ほんとうに危ないと思うのです。
もちろん、中国が最初から核ミサイルを発射するとは思いません。しかし、戦争がエスカレートしても中国が戦争をやめなければ、アメリカもエスカレートしていくでしょう。そうすると、中国も初めは沖縄の南方諸島のほうにミサイルを撃ってけん制するとか、沖縄にミサイルを撃ち込んでけん制するとか、そういうような段階的なエスカレーションが起こってくるでしょう。
私が恐れる最悪のケースは、日本がかなりの被害を受けた段階で、アメリカが中国は本気だと思って戦争をやめることなのです。そうした場合には、いちばん割が合わない被害を受けるのは日本です。アメリカは、自国の本土が犠牲になる前に必ず手を引きます。これは間違いないことです。アメリカはそういう国です。日本が台湾の民主主義のためだといって犠牲になるのはほんとうに愚かなことだということだけは、みなさんに考えていただきたいと思います。
もう一つは、北朝鮮問題です。
アメリカが先制攻撃の戦争を北朝鮮に仕掛けたらとんでもないことになる、ということはみんな分かっています。ですから、不幸中の幸いといいましょうか、アメリカがイラク問題で手がいっぱいであるために、アメリカは北朝鮮に対して武力行使をすることができないでいるという奇妙な状況があります。仮に、アメリカがイラク問題から自由であったならば、北朝鮮問題というのはもっと深刻だと思います。いつ戦争が始まっても不思議はない状況になりかねないと思います。けれども、その余裕がないがために外交的解決を追求せざるをえない、というのがアメリカの苦しい本音でしょう。
私が申し上げたいことは、たしかに今の日本国内の北朝鮮に対する感情は非常に厳しいけれども、“窮鼠猫をかむ”というような状況に追い込むのがいちばんまずいということです。“窮鼠”にならないように、彼らがなんとかソフトランディング(軟着陸)するか、少なくともクラッシュしない方向にもっていくということを、万難を排してやらなければならないと考えます。戦争になっていちばん被害を受けるのは韓国、その次に日本なのです。北朝鮮の問題については、とにかく感情的にならないことが大事だということを申し上げておきたいと思います。
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