最判昭和52年10月13日(民集31巻6号805頁(昭和49年(行ツ)第107号))

(原審:東京高判昭和49年9月18日(昭和48年(行ケ)第91号)

<事案の概要>
 X(原告,被上告人)は,昭和39年11月9日,名称を「薬物製品」とする発明につき,Xが,1963年12月9日及び1964年2月10日,アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,特許出願をしたところ,昭和41年6月22日,拒絶査定を受けた。Xは昭和41年11月9日,これに対する審判を請求し,昭和41年審判第7699号事件として審理されたが,昭和47年11月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決がなされた。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和49年9月18日(昭和48年(行ケ)第91号))は,審決を取り消した。
 Y(特許庁長官。被告,上告人)上告。

<判決>
 破棄差戻。
「上告代理人城下武文,同佐々木俊哲,同戸引正雄,同小花弘路の上告理由第一点,第二点について
 特許法(以下「法」という。)2条1項は,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,「発明」は技術的思想,すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが,特許制度の趣旨に照らして考えれば,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり,技術内容が右の程度にまで構成されていないものは,発明として未完成のものであつて,法2条1項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない(当裁判所昭和39年(行ツ)第92号同44年1月28日第三小法廷判決・民集23巻1号54頁参照)。ところで,法49条1号は,特許出願にかかる発明(以下「出願の発明」という。)が法29条の規定により特許をすることができないものであることを特許出願の拒絶理由とし,法29条は,その1項柱書において,出願の発明が「産業上利用することができる発明」であることを特許要件の一つとしているが,そこにいう「発明」は法2条1項にいう「発明」の意義に理解すべきものであるから,出願の発明が発明として未完成のものである場合,法29条1項柱書にいう「発明」にあたらないことを理由として特許出願について拒絶をすることは,もとより,法の当然に予定し,また,要請するところというべきである。原判決が,発明の未完成を理由として特許出願について拒絶をすることは許されないとして,本件審決を取り消したのは,前記各法条の解釈適用を誤つたものであるといわなければならない。論旨は理由があり,右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,その他の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そうして,本件は,本願発明が本件審決のいうとおり発明として未完成のものであるかどうかを審理判断させるため,原審に差し戻す必要がある。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法407条1項に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」