最判平成元年11月10日(民集43巻10号1116頁(昭和61年(行ツ)第160号))

(原審:東京高判昭和61年5月29日(昭和59年(行ケ)第285号)

<事案の概要>
 X(原告)は,昭和51年1月1日,名称を「第三級環式アミン」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許法第30条第1項の適用を受けることを申立てて特許出願(昭和51年特許願第525号)をし,同月31日本願発明が同条同項に規定する発明であることを証する書面として,原告を出願人とする,本願発明と同一の発明についての特許出願に係る特開昭50-142558号公開特許公報(以下「引用例」という。),オランダ国特許出願第7504653号公開公報及びドイツ連邦共和国特許出願P24 19 970.0号公開公報を提出したところ,昭和58年10月5日拒絶査定を受けた。Xは,昭和59年2月20日審判を請求し,昭和59年審判第2600号事件として審理された結果,同年8月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決があった。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和61年5月29日(昭和59年(行ケ)第285号))は,Xの請求を棄却した。
 X上告。

<判決>
 上告棄却。
「特許を受ける権利を有する者が,特定の発明について特許出願した結果,その発明が公開特許公報に掲載されることは,特許法30条1項にいう「刊行物に発表」することには該当しないものと解するのが相当である。けだし,同法29条1項のいわゆる新規性喪失に関する規定の例外規定である同法30条1項にいう「刊行物に発表」するとは,特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合を指称するものというべきところ,公開特許公報は,特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたことにより,特許庁長官が手続の一環として同法65条の2の規定に基づき出願にかかる発明を掲載して刊行するものであるから,これによって特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に当該発明を刊行物に発表したものということができないからである。そして,この理は,外国における公開特許公報であっても異なるところはない。
 したがって,原判決は結論において是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
 よって,行政事件訴訟法7条,民訴法401条95条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」