「はじめに」から引用する
この本は,こうして途方に暮れてしまった方や,これから途方に暮れようとしている人々(⁈)のためのベクトル解析お助け本である。
p.134 では、次のような記述がある。
波動関数を `Psi(bbr(r, theta, phi))` と球座標を使って書いた時に,`Psi` が `theta` や `phi` からも影響を受けるのだ。「丸くない波動関数」を扱うには, 精進して `Delta` を球座標でちゃんと書き表さなければならない。題して「ラプラシアンの精進料理」大計画。これは,なかなかトンデモナイ領の計算が必要だ55。(後略)
球座標のラプラシアン
`Delta = 1/r^2 del/(delr) (r^2del/(delr)) + 1/(r^2sintheta) del/(deltheta) (sin theta del/(deltheta) ) + 1/(r^2sintheta) del^2/(delphi^2)`
55だから,どの教科書を開いても計算の詳細が,どこか省略されている。
なっとくする演習・量子力学には、この導出がていねいに解説されている。
p.137 ではダランベルシアンについて説明されている。これを著者はダランベール星人と呼んで次のように続けている。
ラプラス星人から始まって,ガウス星人,ダランベール星人などが出てきた。 この手の怪獣の兄弟は,ほかにもヤコブ星人,ラグランジュ星人,ハミルトン星人,グラム星人,パッフ星人,ヤング星人... と数えだすとキリがない。 「数学・物理学怪獣辞典」でも出版すると売れるかもしれない。
「数学・物理学怪獣辞典」を書ける才人は、本書の著者の西野先生か柳田理科雄ぐらいではなかろうか。ラプラシアン、ガウシアン、ダランベルシアン、ヤコビアン、ラグランジアン、 ハミルトニアン、グラミアン、パフィアン、ヤンギアンはそれぞれ有名だ。ただ、ヤンギアンはそれほど有名ではないと思う(少なくとも私は本書を読むまで知らなかった)。 ヤンギアン(英:Yangian)は、Wikipedia 英語版の記述を借りれば、表現論におけるヤンギアンとは、量子群の一種である無限次元ホップ代数のことである、となる。この訳でいいのだろうか。 あと、ここに出ていない怪獣にロンスキー星人がいる。ロンスキアンは微分方程式の研究で用いられる行列式である。
p.165 には『もう一つの積分』というコラムがある。ここでは経路積分について簡単に述べられている。経路積分を使う例として、量子力学や拡散現象のほかに、 金融資産運用で有名なブラック・ショールズ方程式を挙げている。そのあとが著者おとくいの駄洒落である。
カタカナ言葉も漢語と同じく読み間違え易い。「ブルック・シールズ」などとウロ覚えしておくと,楽屋オチとして使えるかもしれない。
「さくいん」には、ブルック・シールズ方程式があったので笑った。「ブラック・ショールズ方程式」は「さくいん」にはなかった。ブラック・ショールズ方程式については、 なっとくする数理ファイナンスで学ぶことができる。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | ゼロから学ぶベクトル解析 |
著者 | 西野友年 |
発行日 | 2002 年 5 月 1 日(第1刷) |
発行元 | 講談社 |
定価 | 2500 円(本体) |
サイズ | 214p 21cm |
NDC | 414 |
ISBN | 4-06-154662-7 |
その他 | 川口市立図書館で借りて読む |
まりんきょ学問所 > 数学の部屋 > 数学の本 > 西野友年:ゼロから学ぶベクトル解析