欧州企業監視所(CEO)2024年5月20日
危険な輸出
化学業界は、EU が禁止した最も危険な化学物質であっても
輸出し続けることができるよう働きかけている

情報源:Corporate Europe Observatory (CEO), May 20, 2024
DEADLY EXPORTS
The chemical industry lobbies to keep exporting
even the most dangerous, EU-banned chemicals
Industry is fighting to weaken new tool aimed at
protecting health and ecosystems
https://corporateeurope.org/en/2024/05/deadly-exports

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年5月30日
更新日:2024年6月 6日 追加
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/
kaigai_24/240520_CEO_deadly_exports.html

 欧州委員会は、EU 内で最も非倫理的な取引慣行のひとつである禁止化学物質の第三国への輸出に対処することを約束した。 我々の新しい報告書は、この危険な貿易の流れを維持し、禁止されている化学物質の輸出を禁止する提案を阻止するために、化学物質/農薬業界のロビー団体が提起した主な主張を概説する。
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 サマリー
 2020年、欧州委員会は、人間の健康と生態系に重大なリスクをもたらす禁止された農薬や化学物質を非 EU 市場に輸出するという法外な行為に対処することを約束した。 この約束にもかかわらず、具体的な提案は示されておらず、EU は依然として毎年数万トンのこれらの有害物質を輸出している。

 この報告書は、EU の輸出禁止に対する業界の主張を精査し、ロビイストや業界が一般的に使用する 6 つの主要な主張を明らかにしている。

■経済的懸念
 産業界は、輸出禁止は経済的損失と雇用削減をもたらすと主張している。 しかし、研究によると、禁止されている農薬は輸出総額のほんの一部に過ぎず、新たな規制による技術革新には実際の恩恵があり、雇用と金銭的利益への影響は最小限であることを示唆している。

■生産の外部委託
 産業界は、輸出禁止は単に生産を他国に移転するだけであると示唆している。外部委託は可能であるが、特に有害性の低い代替品が利用可能であり、推進されている場合には、それは企業が決定することであり、禁止の必然的な結果ではないことを証拠が示している。

■グローバル・サウスの農業への影響
 産業界は、輸出禁止は グローバル・サウス諸国の農業生産者に損害を与えると主張している。 しかし、証拠はこれに矛盾しており、域外諸国での禁止措置が農業に悪影響を与えることなく命を救っていることを示している。

■ WTO 協定との不整合
 WTO 協定との整合性に関して懸念が生じている。 法的意見は、公衆の健康と自然保全に関連する例外との整合性を考慮すると、WTO 規制の範囲内で輸出禁止を制定することができることを示唆している。

■ EU 禁止に対する地球規模のアプローチ
 産業界は、改革されたロッテルダム条約を通じて地球規模のアプローチを提案している。 しかし、この条約の効果のなさと業界の影響は、新たな規制から注目を集めることを目指すこの議論を台無しにしている。

■偽造のリスク
 産業界は、輸出が禁止されれば違法な農薬の使用が増えると警告している。 批評家らは、これは EU 域内における既存の違法農薬使用や偽造品を見落としていると主張し、包括的な規制措置を主張している。

 この有害な貿易を終わらせる緊急性は依然として残っている。 欧州議会選挙後もこの緊急の問題を EU の政治課題の上位に置き、業界の利益よりも公衆の健康と環境保護を優先する政治行動を達成するには、有害なロビー活動戦術を暴露し、最小限に抑える必要がある。 この報告書は、ヨーロッパやその他の地域において、産業の利益よりも人々と環境の保護を可能にする、有害性のない政治、有害な産業分野の影響を受けない政治環境を求めている。


イントロダクション

 3年前、欧州委員会は、欧州で最も非倫理的な貿易慣行のひとつである大量の有害な農薬や化学物質類の第三国へ輸出をやめるという政策提案をするという”厳粛な約束”を行った。 これらの製品は人間や生態系に悪影響を与えるため、EU では禁止されている。 しかし、それらは依然として他の多くの諸国に販売されており、他の場所での影響は考慮されていない。 それだけでなく、これら他国に輸出された製品が、禁止されている残留農薬を含む食品輸入品としてブーメランとして EU に戻ってくる可能性がある。

 EU は現在、これらの物質を毎年数万トン、海外に輸出している。 これにより、毎年推定 3億8,500 万件の農薬による急性中毒が、主に神経学的レベルで発生しており、場合によっては死亡や長期にわたる身体障害につながる場合もある。

 この報告書で我々は、 EU のコミュニケーション(政策文書)類と、他国に対する無謀で人種差別的な二重基準というあからさまな事例に対処するという EU の計画を脱線させることにこれまで成功を収めてきたロビー活動を分析する。 これらはすべて、人々の命や生態系全体の健全性の犠牲にもかかわらず、農業関連産業(アグリビジネス)の利益を維持するという名目で行われる。

 輸出禁止措置により、欧州に生産拠点を持つ化学会社は、EU で禁止されている危険な化学物質を他の場所で製造したり販売したりすることが禁止される。 これは、ヨーロッパに本拠を置く製造業者が、低中所得諸国でのこれらの危険な禁止化学物質の販売から得た巨額の利益の一部を失うことを意味する。 これらの企業は、ヨーロッパおよび世界的なロビー活動組織であるクロップライフ・ヨーロッパ(EU機関へのロビー活動に2022年に約100万ユーロ(約 1億7,000万円)を費やした)及びクロップライフ・インターナショナルと協力しており、ヨーロッパの内外でこれらの製品を大量に生産している。農薬行動ネットワーク(Pesticide Action Network International) が書いているように、”クロップライフ の会員は、BASF、バイエル クロップ サイエンス、コルテバ アグリサイエンス、FMC、シンジェンタ/シノケムといった世界最大の農薬会社である”。彼らは、売上高の 3分の1 以上を人間の健康と環境に最も有害な農薬である高危険農薬(Highly Hazardous Pesticides)から得ている。

 この非倫理的なビジネスを禁止する法的提案は、数度の遅れを被り、未だに欧州委員会によって公表されていない。 環境対策に対する現在の攻撃と、住みやすい地球と人間の健康よりも業界の競争力と利益を優先するというフォンデアライエン率いる欧州委員会の決定的な方針転換により、その将来は決して確実なものではない。

 化学会社や農薬会社らは、ほぼ初めからそのような禁止に反対を表明してきた。 この報告書では、この醜聞的な取引慣行を存続させるために業界により提起されている主張を検証し、それらに対して反証する。 この報告書は、業界ロビー団体による公開協議(昨年7月31日に終了した輸出禁止に関する欧州委員会の public consultation)への提出物と、情報公開請求を通じて欧州企業監視所(CEO)が入手した文書、及び科学研究者や市民社会らの反対の意見に基づいている。

1. 有害物質取引とその二重基準

 EU 内で生産されているが、人間の健康と環境を保護するために域内での使用が禁止されている有害物質取引は、驚くほど回復力がある。 EU 外でのこれらの化学物質の生産と取引は、これまでと同様に安定している。

 範囲は広大である。 2018年だけでも、EU の農業分野での使用が禁止されている 41種類の有害化学物質を含む 8万1,000トン以上の農薬が、安全規制が緩い、あるいは厳格に施行されていないことが多い他国に輸出された。 これは、農家や農場労働者によるこれらの物質の使用方法がほとんど監視されておらず、その結果、生態系が非常に危険な化学製品にさらされていることを意味する。 農薬業界自体が”安全な使用”の主張を強化するために、特定の物質から保護するという考えを発明したという事実にもかかわらず、多くの人々は、自分たちが使用している製品の有害性について知らされておらず、その結果、無防備な方法で製品を使用している。

 2020年、英国グリーンピースの調査機関アンアースド(Unearthed)とスイスの NGOパブリックアイ(Public Eye)は、EU の偽善の程度を初めて明らかにした画期的な報告書を発表した。 EU は、自国の畑で禁止している農薬の大量の輸出を、主に低・中所得国向けに許可している。 シンジェンタ、コルテバ、バイエル、BASF、そして小規模なフィンチミカやアルツケムなどの企業が、この危険な取引において重要な役割を果たしている。 2018 年には合計 41 種類の禁止農薬が EU から輸出され、吸入による死亡、先天異常、生殖障害やホルモン障害、がん、飲料水源の汚染、生態系汚染などに関連した健康と環境のリスクを引き起こした。

 EU で最も一般的に禁止されており、現在も輸出されている農薬には、1,3 − ジクロロペン、アセトクロル、アトラジン、ピコキシストロビン、カルベンダジム、エトキシスルフロン、トリフルラリン、パラコート、フィノプリル、テプラロキシジムなどがある。 2018年、ベルギーは日本、ウクライナ、ホンジュラス、モロッコ、チリに禁止農薬を輸出し、フランスはアルゼンチン、ブラジル、米国に、ドイツはベトナム、ペルー、南アフリカに、イタリアはチリとベトナムに、スペインは主にモロッコに輸出した。 シンジェンタはパラコート、コルテバ 1,3 ジクロロプロペン、アセトクロル、ピコキシストロビンを、バイエルはアセトクロルとエトキシスルフロンを、BASF はフィノプリルとテプラロキシジムなどを輸出した。

 これらの禁止されている農薬は古くからある農薬であることが多い。 多くの場合、ヨーロッパで禁止されるまでに数十年かかり、第三国で禁止されるまでにはさらに長い期間がかかった。 今でも彼らはグローバル・サウス全域に大混乱を引き起こしている。

 輸出企業は自社製品は安全であり、リスク軽減に努めていると主張して、この貿易継続を正当化している。 彼らは次のように主張している。

  1. 事業を展開する国の法律を尊重する。
  2. 各国は、どの農薬が自国の農家のニーズに最も適しているかを決定する主権的権利を有する。
  3. 多くの農薬は海外で販売されているが、地域によって条件や農業ニーズが異なるため、ヨーロッパでは販売されていない。

 2022年11月、世界中の 300以上の団体が 禁止されている農薬やその他の危険化学物質の輸出を EU は停止するよう要求した。 彼らは二重基準の停止を求め、欧州委員会は模範を示すという約束を果たさなければならないと主張した。 これらの団体は、EU の特定の法律を提案するか、EU の PIC(事前通報・同意手続)規則を改正することによって輸出禁止を実施するよう求め、禁止はすべての国に適用されるべきだと述べた。

ボックス 1 − 事前通報・同意手続規制

 PIC (Prior Informed Consent/事前通報・同意手続) 規制の目的は、”潜在的な危害から人間の健康と環境を守るために、有害化学物質の国際的な移動における責任の共有と協力的な取り組みを促進する”こと、そして”有害化学物質の環境に配慮した適切な使用に貢献する”ことである。 事前通報・同意とは基本的に、輸入国は EU 内で使用が禁止されている化学物質を EU 加盟国が輸出することに同意しなければならないことを意味する。 昨年 9月、35 種類の有害化学物質が、有害化学物質の輸出入に関する EU の事前通報・同意規制 (PIC 規則 649/2012) に追加された。これは国際ロッテルダム条約を欧州が法的に置き換えた(国内法化した)ものである。 この国際協定は、有害化学物質の国際取引に安全上の措置を講じることを目的としている。 欧州 PIC 規制は、EU 内で禁止または厳しく制限されている有害化学物質の取引を管理し、これらの化学物質を非 EU 諸国に輸出または EU に輸入する企業に義務を課す。 企業に課せられる主な義務は、輸出された物質に関する情報を提供することである。

 2023年、ドイツの NGO ”BUND fur Umwelt und Naturschutz Deutschland(BUND)”は、EU からの膨大な量の化学物質の輸出を示す欧州化学物質庁(ECHA)の数字を引用し、EU 内で禁止または厳しく制限されている有害化学物質や農薬の輸出禁止を支持した。 危険な化学物質は農薬だけではない。 この取引は近年さらに増加している。 2022 年の欧州化学物質庁年次報告書によると、”EU で禁止または厳しく制限されている特定の有害化学物質の取引により、2021 年の EU からの輸出は 2020 年と比較して 19 % 増加した。全体で、791,576 トンの PIC 対象化学物質が年間を通じて輸出された”。 BUND は、これらの輸出は EU に拠点を置く 532社からのものであり、”そのうち工業用化学物質は 560,381トンを占め、その例としてはノニルフェノール類(NPs)とノニルフェノールエトキシレート類(NPEs)が挙げられる”と述べた。 EU は、NPs と NPEs が胚損傷を引き起こし、生殖能力に悪影響を与えるのではないかと疑っている。

 食糧への権利に関する国連特別報告者有害物質と人権に関する国連特別報告者のいくつかの報告書によると、これは深刻かつ広範な人権侵害をもたらし、永続させる二重基準である。 有害物質と人権に関する国連特別報告者のマルコス・オレラナは、2023年の南アフリカへの公式訪問の終わりに発表した声明の中で、禁止されている有害化学物質の輸出を”環境的人種差別(environmental racism)”と呼んだ。 ”私は、西ケープ州で日常的に危険な農薬にさらされ、地域社会に重大な健康への悪影響を与えていると非難する女性農場労働者たちがの声を聞いた”。 Le Basic(フランスのシンクタンク兼研究センター”市民情報の社会的影響評価局(Bureau for the Appraisal of Social Impacts for Citizen information)による最近の調査によると、例えば、南アフリカは EU からの禁止農薬の上位輸入国のリストで 5位にランクされている。 2018年には EU から世界中で輸入された農薬合計28トンのうち、南アフリカは 1,700キロを輸入した。

 国際環境法センター(CIEL)が 2023年にまとめた法的意見では、欧州連合諸国が自ら禁止している農薬の輸出は、以下のようないくつかの条約に基づく国際義務に違反しているとみなしている。
  • アフリカのバマコ条約[*]および中米協定[**]。
  • バーゼル条約[***]。
  • 輸出国の義務(アンゴラ、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、コスタリカ、コートジボワール、エジプト、エチオピア、グアテマラ、マリ、モロッコ、ニカラグア、パナマ、セネガル、スーダン、タンザニア、チュニジア、トーゴへの EU 輸出は 違法の可能性がある)。
  • 国際人権法に基づく義務( EU 加盟諸国は、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約、および経済的、社会的、文化的権利の分野における国家の域外義務に関するマーストリヒト原則に従い、その政策がその有害性を理由に欧州諸国から禁止または未承認の農薬を輸出することによって、アフリカおよびその他の国の住民の健康への権利の侵害につながらないことを保証しなければならない)。
源注* アフリカへの輸入禁止並びにアフリカ内の有害廃棄物の越境移動及び管理に関するバマコ条約は、あらゆる有害廃棄物の輸入を禁止するアフリカ12か国の条約である。

源注** 有害廃棄物の越境移動に関する中米地域協定により、中米 5か国での有害廃棄物の輸入が禁止される。

源注*** 有害廃棄物の国境を越えた移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約。有害廃棄物の国際取引を規制しており、53 か国が加盟している。

 これらの有害な化学物質は、EU 域外の人々や生態系に害を及ぼすだけでなく、輸入食品に残留する形でヨーロッパに戻ってくる。農薬行動ネットワーク ヨーロッパ(Pesticide Action Network Europe)による 2018年の”欧州食品における禁止農薬と有害農薬”報告書で説明されているように、最終的には自分たちに戻ってくる。 報告書は、EU内で禁止されている 74種類の農薬が、域内に輸入される食品の 6.2%にどのように含まれているかを詳述している。 懸念すべきことに、これら 74 種類の農薬のうち 41 種類が依然として EU 内で製造され、輸出されている。

2. EU の輸出禁止提案の簡単な歴史: 悪例を示す(misleading by example)?

 2020年10月、フォンデアライエンの欧州委員会は、持続可能性のための化学物質戦略(CSS)の一環として、この二重基準を廃止するという政治的公約を発表した。 欧州委員会は、EU は”持続可能なコーポレートガバナンスに関する今後の取り組みの中で、化学物質の生産と使用に対する適正評価手続きを促進するという国際公約に沿って、模範を示す(lead by example)”と述べた。

 同年12月、欧州委員会は、EU内で禁止されていた有害化学物質の輸出を阻止するために 2023年に計画されている”法改正を含め、この目的を実施するためのさまざまな選択肢を現在検討している”ことを確認した

 当時、禁止されている化学物質や農薬の EU 輸出禁止に対する国民と政治の圧倒的な支持があった。 欧州委員会の取り組みは、数十の市民社会組織が公開書簡で歓迎した。70人近くの議員らも委員長に書簡を送り、この約束を歓迎する一方、”具体的な行動が早急に必要である”と強調した。

 一方、より強力な規制を弱体化させようとする企業キャンペーンのリーダーであるクロップライフ・ヨーロッパは、商業的利益を守るために非常に皮肉な議論を行った。 例えば、欧州委員会に”提案を行う前に徹底的な影響評価を行うこと”を勧めた。 これは EU 域外からの情報、例えば、特定の国でその物質が必要な理由、安全性を確保するために講じられている対策、輸入国で影響を受けるであろう貿易の流れ、などが不可欠な複雑な作業である。まるで欧州委員会はすでに影響評価を実施する義務があることをよく分かっていないかのようだ。 しかし、いかなる評価も日の目を見ることはなく、輸出禁止案は最終的には廃案となった。

 2021年3月、欧州理事会は、”欧州連合で許可されていない有害な化学物質の輸出のための生産”に対処するための新しい化学物質戦略のイニシアチブを”明示的に歓迎する”と述べた。 フランスとベルギーでも、国境内で生産された禁止化学物質の輸出を阻止するための国家的禁止措置の策定が進められている。

 しかし、大きな進展がないまま何年も経過し、この欧州委員会から法案は公表されなかった。

 2022年までに、化学業界とその政治的同盟者らは、新型コロナウイルス感染症の流行とウクライナ戦争を利用して政治力学を変え、グリーンディールの目標を損なうよう懸命に取り組んできた。 一方、世界中の 326 の市民社会組織、機関、労働組合は、ブリュッセルでの高レベル会合で輸出禁止を要求する共同声明を発表した。 さらに、26万7,000人が輸出禁止を支持する請願書に署名し、2023年に環境総局(DG ENV)が主催する公開協議を通じて数千人の EU市民が支持を表明した。

 欧州委員会は何度か、輸出禁止の法的提案が遅れると発表した。 最終的に、それが欧州委員会の 2024年の作業計画に記載されなかったとき、世界中の市民社会組織が公開書簡で応じ、禁止化学物質の輸出を停止するという約束を堅持するよう欧州委員会に求めた。 しかし、同委員会からは何の返答もなかった。

 それでは、化学業界は開発中の輸出禁止にどう対応したのであろうか?

 CEFIC(欧州化学工業連盟)やクロップライフなどの EU の化学ロビー団体は当初、これらの禁止農薬の国際取引に問題があることを否定しなかった。 CEFIC はまず、”この行動の背後にある理由と意図”を理解していると述べた。 同報告書は、”最も効果的な政策手段”を使用する必要性を強調した。 ”我々は、世界的に平等な競争条件を確保しながら、特に第三国における健康と環境の保護の両方に実質的に貢献する方法でこの行動が実施されることを求める”。

 これは、ビジネスに最も影響を与える EU グリーンディールの部分、つまり持続可能性のための化学戦略 (CSS) とファーム・トゥ・フォーク戦略に対する化学業界の標準的な初期対応を反映していた。(訳注:Farm to Fork(F2F)とは?:欧州委員会が2020年、持続可能な食料システムを目指して新たに掲げた「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略。F2Fと省略される)」。農家・企業・消費者・自然環境が一体となり、共に公平で健康な食料システムを構築する戦略だ。同時に発表された「EU生物多様性戦略2030(Biodiversity Strategy for 2030)」と同様、欧州グリーンディールの中核をなすものとして位置づけられる。IDEAS FOR GOOD)。最初、CEFIC はそれらを受け入れるが、時間が経つにつれてそれらを妨害し、脱線させる。 例えば、2022年に CEFIC が委託した調査は、CSS が ”EUグリーンディールの目的に沿って、化学物質政策に新たな長期戦略を提供する方法であると認めた。 CSS は、現在および将来において、化学物質の社会的貢献を最大限に高めながら、環境や人間に害を及ぼすことを回避する方法で化学物質が製造および使用される、有害物質のない環境を目指している。”

 しかし実際には、時間が経つにつれて、この反応は、最も危険な化学物質の輸出に対する EU の禁止を狂わせ、破壊することを目的とした農業関連産業(アグリビジネス)とそのロビー活動による大規模なキャンペーンに続いた。

ボックス 2 − 歴史的な判決: ネオニコチノイドで処理された種子に対する例外はない

 その後に起こった特定の出来事は、欧州の輸出禁止の必要性をさらに示した。 2023年1月、欧州司法裁判所(ECJ)は歴史的な判決で、EU法により”明示的に禁止された”植物保護製品(農薬)で処理された種子の使用を一時的に許可する例外を EU 加盟国が認めることは今後許されないことを確認した。 裁判所は、加盟国は”可能な限り非化学的方法を優先し、低農薬害虫管理(low pesticide-input pest management)を促進するために必要なあらゆる措置を講じる”べきであり、”植物の生産性を向上させるという目的を超えて、人間と動物の健康と環境を保護するという目的が『優先』されるべきである”との判決を下した。 禁止されている農薬の輸出とは直接関係していないが、この判決は、多くの企業や加盟国が EU 内であっても特定の危険な農薬、この場合はネオニコチノイドの禁止を回避している抜け穴を直接標的とした。

 ベルギー政府は、輸出禁止が”最も有望な選択肢であると思われる”という市民社会の立場を共有している。 しかし、次のように付け加えている。”EU 内での市場投入や使用が承認されていない、または禁止されている有害な化学物質の製造禁止を導入することは、より安全で持続可能な代替品の開発に確実に貢献し、 グリーン経済への世界的な移行においてEUの産業に競争上の優位性を与える”。

 2023年5月、欧州委員会は、有害な特性や人間の健康や環境に対する容認できないリスクを理由に EU で禁止されている特定の化学物質の輸出目的での製造を禁止する規制を準備するため、12週間の公開協議プロセスを開始した。 この公開協議には 2,668 件の回答があった。 これらの回答の一部は我々の研究に使用された。公開協議の最終結果は昨秋に公表されることになっていたが、まだ公表されていない。

ボックス 3. パラコート モデル: 古くからある農薬、規制の遅れ、果てしなく続く利益

 パラコート - 少量でも急性中毒を引き起こす非常に有害な古くからある除草剤 - は 1961 年に初めて商品化された。この化学物質はパーキンソン病を誘発し、DNA 損傷を引き起こし、急性呼吸窮迫症候群、腎不全、肝毒性、特発性肺線維症などの一連の合併症を引き起こす。 1980年代にスウェーデンとフィンランドで非合法化され、1990年代にさらに多くの EU 諸国で非合法化され、最終的に2007年に EU でも禁止された。その後、アジアやラテンアメリカの国々もパラコートを禁止し始めた。ブラジルはスウェーデンから40年後、2021年になってやっとこの毒性の高い農薬を禁止した。 この 40 年間の遅れ、病気、そして死亡は、業界が巨額の利益のほんの一部であっても手放す気がなかったためにもたらされた。

 このパラコートに関する記事は、シンジェンタとその前身の企業が、シンジェンタのパラコートベースの製品であるグラモキソン(Gramoxone)の製剤に対して自社の科学者によって提案された変更を長年拒否してきたことを示した。 安全性への懸念よりも、利益を守りたいという欲求が重要であった。 2018年時点でも、シンジェンタは英国からインド、コロンビア、インドネシア、南アフリカ、米国、グアテマラなどの国々に2万8千トンのパラコートを輸出していた。

 非常に有害であることが示されているにもかかわらず、同様の”古い農薬”の多くが数十年にわたって市場に出回っている。 EU の禁止によって影響を受ける主な農薬には下記製品が含まれる。パラコート (グラモキソン)、プロピソクロル (プロポニット)、エタルフルラリン (ソナラン)、エトキシスルフロン (サンライス、ライスガード、ヒーロー)、トリフルラリン (クリサリン、エランコラン、トラスト)、1,3-ジクロロプロペン (Telone)、テプラロキシジム (Aramo)、塩素酸塩 (Atlacide、Defol、Leafex)、アセトクロル (Harness、Keystone、Warrant)、アトラジン (Aatrex、Fezprim、Maizine)、カルベンダジム (Bavistin、Benguard、yamato)、およびチアメトキサムなどのネオニコチノイド ( アクタラ、タンデム、キャラバン、レイド)またはイミダクロプリド(コンフィドール、アドマイヤ、ウィナー)。

 バイエル、BASF、シンジェンタ、コルテバなどの企業が、非常に古い物質を含んで、最も危険な化学物質や農薬でさえも利益と市場を守るために懸命に戦っているという事実は、彼らが自身を描写したがる持続可能な経済と農業に貢献する革新的な産業であるという彼等の主張を揺るがすものである。

 何十年にもわたってパラコートを禁止する国が増え続けた後、この化学物質はついにロッテルダム条約の議題となり、附属書 III リストに加えられる可能性がある。 これは、有害製品の貿易を規制する国際プロセスがいかに遅く、緩慢であるかを示している(これについては下記を参照)。


 しかし最近、2024年4月に EU 議長国のベルギーが主催した”明日の化学物質政策”と題したイベントで、環境総局(DG ENV)国際化学物質政策チームリーダーのユルゲン・ヘルビッヒにより、輸出禁止に関する画期的な宣言が行われた。 ”我々は、まず国内で措置を講じるよう求められており、これは輸出向けの生産を禁止することになるであろう”。 このような措置は重要な進歩であり、提案されている輸出禁止の目的を簡素化かつ客観的に達成することになるだろう。

以下追加 (24/06/06) new_3.gif(121 byte)
3. ブーメラン − 禁止化学物質の残留物が国内に戻る

 EU が国内での使用や消費を禁止している化学物質を輸出し続ける限り、保護すべき環境や人々をその影響にさらし続けることになる。さらに、EU 内の食品には絶えず残留物が見つかっている。食品安全措置の一環として、EU 食品及び飼料緊急警報システム(EU Rapid Alert System for Food and Feed / RASFF)が確立された。これは、農薬残留物など、食品連鎖に起因する公衆衛生へのリスクが発生した場合に、EU 諸国間で情報交換を行い、食品安全当局が迅速に対応できるようにすることを目的としている。このデータベースを簡単に検索すると、禁止物質の残留物が第三国から EU に輸入される野菜や果物に非常に多く見られることがわかる。過去 3 年間で、無許可のフィプロニルが 23 回報告され、禁止されているネオニコチノイドが数十回 (多くの場合、併用) 報告され、さらに、ヨーロッパで生産され、ヨーロッパから輸出された他の禁止物質と混合されたクロルピリホスの残留物に関する通知はわずか数年で数百件あった。欧州委員会は、こうした発見を「重大(serious)」または「潜在的に重大(potentially serious)」と称することが多い。EU で生産され、食卓に戻ってきた禁止農薬の最も重大な残留物は、カルベンダジム、クロルフェナピル、塩素酸塩、フェンプロパトリン、フェンブタチンオキシド、トリシクラゾール、プロパルギット、カルボフラン、シフルトリン、ダイアジノン、フルフェノクスロンである。

 生産物からの漏洩に関する業界の主張は、禁止農薬を使用して栽培された食品の輸入に対して EU が措置を講じることで積極的に阻止されるべきというものである。例えば、2023年初頭、欧州委員会はネオニコチノイド系農薬の最小許容残留限度を引き下げる新しい規則を発表した。したがって、企業が禁止農薬の生産を EU 外に移転することを決定した場合、それらの農薬は EU に輸出される農産食品には使用できなくなる。重要なのは、EU が世界最大の農産食品輸入国の1つであることだ。

 2017年、食料への権利(the right to food )に関する国連特別報告官は、”残留農薬は植物と動物の両方の食物源に一般的に存在し、消費者に重大な暴露リスクをもたらす。研究によると、食品には複数の残留物が含まれることが多く、その結果、農薬の「カクテル」を摂取することになる。農薬混合物の有害な影響はまだ完全には解明されていないが、場合によっては相乗作用が発生し、毒性レベルが上昇することがわかっている。消費者の農薬への累積暴露が高いことは特に懸念される”と警告した。

 EUの規則には、発がん性物質や内分泌かく乱物質など、農薬に含まれる特に危険な物質の禁止が含まれている。これらの物質は非常に危険であるため、EU の規制当局は、他の化学物質とは異なり、これらの物質への暴露に安全なレベルはないと考えている。しかし、バイエル、BASF、シンジェンタなどの農薬製造業者、および米国やカナダなどの第三国は、EU の農薬規則に必死に抵抗し、ある程度の成功を収めている。これらの規制が国際貿易に及ぼす悪影響は、いわゆるハザードベース基準に基づいて策定された EU の製品禁止計画に対抗するためにロビイストによって利用されている。これらの基準は、発がん性物質や内分泌かく乱物質など、特に危険な物質が、最終的に食物連鎖に流れ込む可能性のある農薬に含まれることを禁止することを目的としている。

 文書によると、企業は残留基準(Maximum Residue Levels / MRLs)の強化に反対して激しくロビー活動を行った。2022年7月の書簡(訳注:リンク切れ)で、クロップライフ・ヨーロッパ、欧州コーヒー連盟、ティー&ハーブインフュージョン・ヨーロッパは、当時の欧州委員会副委員長フラン・ティメルマンス、並びにキリアキデス委員(保健・食品安全担当)及びシンケビチュス委員(環境・海洋・漁業担当)に宛てて、EUですでに禁止されているすべての物質を含む残留基準輸入制限に関する欧州委員会の計画が、2021年1月に以前示されたものよりはるかに広範囲であると不満を述べた。

 クロップライフは、EU の最大残留基準政策は”EU法および国際ルールに反する可能性が高い”というおなじみの議論を加えた。彼らは、これが”貿易の混乱、法的紛争、および他国からの相互市場アクセス措置”を生み出す可能性があり、ひいては”EU の農産物輸入と高付加価値食品および飲料の輸出、世界中の農業開発、および消費者の選択(および価格)の両方に悪影響を及ぼす可能性がある”と主張した。農薬ロビー団体は、作物や気候が異なる国では EU に登録されていない農薬が必要になるかもしれないと結論づけている。危険な農薬や化学物質による国民の健康と環境への脅威は、EU 内だけでなく他の地域や国でも同様に大きいため、これらの企業がこれらの輸出を続けてもよいと考えるのは理解しがたい。

 欧州委員会が、欧州で禁止されている農薬の残留物が輸入される食品や飼料に含まれることを禁止する計画を立てたとき、これは世界貿易機関(WTO)の規則に違反すると主張する化学業界のロビイストらから際限のない攻撃を受け、米国、カナダ、その他の国々からも WTO への苦情や脅迫を申し立てられた。わずか1年後、欧州委員会は屈し、計画を中止した。CEO の2020年レポート「 裏口からの残留物(Residues through the backdoor)」は、この冷笑的なロビー活動の詳細な証拠を提供している。この議論は再び浮上し、今度は輸出禁止を狙っている。

 輸出禁止は、EU に輸入される食品やその他の製品から有害な残留物が完全になくなることを保証するものではないかもしれないが、これらの製品の世界市場での入手可能性を減らすことで確実に影響を与えるだろう。完全に効果を上げるには、これらの禁止物質の残留物を含む食品や飼料の輸入を適切に禁止する必要がある。さらに、ヨーロッパで禁止されている農薬の輸入と生産を禁止すれば、この有害な国際貿易を厳しく制限し、前述のブーメラン効果を防ぐのに役立つだろう。

4. 業界は、禁止化学物質の輸出からの利益を守るためにロビー活動を行っている

 提案が始まって以来、化学業界は、EU および各国の規制当局に禁止を進めないよう圧力をかけるために、さまざまな主張を展開してきた。いかなる形であれ禁止を実施することについて、欧州委員会に対してさまざまな主張が提起されているが、我々の分析では、最も頻繁に使用される (そして多くの場合、欧州委員会と EU 加盟国によって採用される) 主張に焦点を当てている。これらの主張は、委員会とのやり取り、パブリック コンサルテーション、業界とそのロビイストによる公のコミュニケーションで頻繁に使用されている。

 業界のロビー団体の主張は:
  1. EU の輸出禁止は経済的損失と雇用喪失につながる
  2. EU がこれらの輸出を禁止した場合、第三国は他国から調達することになる
  3. 第三国の農業生産者に損害を与える
  4. EU の輸出禁止は、WTO が定める国際貿易ルールと矛盾する
  5. 法的拘束力のある EU の輸出禁止よりも、世界的ななアプローチのほうが優れている - 「改正されたロッテルダム条約の方が効果的」
  6. EU からの化学品輸出を禁止すると、違法な農薬や偽造農薬が使用されるリスクが高まる
 この主張を展開するために、化学企業は、特に農薬ロビー団体の Croplife (ヨーロッパおよび国際)、CEFIC (ヨーロッパの化学産業の包括的なロビー団体)、種子ロビー団体の Euroseeds および ECCA (欧州作物ケア協会、ジェネリック農薬生産者のロビー団体) などのロビー団体、および同じ組織の地域および国内支部を通じてロビー活動を行った。

 さまざまな問題を扱うこれらの統括組織(農業ではクロップライフ、化学品では CEFIC、種子生産ではユーロシードと ECCA)は、BASF、バイエル、コルテバ、FMC、住友化学、シンジェンタなどの会員の利益を代表している。国レベルでは、ベルプラント(ベルギー)、フェデルキミカ(イタリア)、ANIPLA(現在はクロップライフ ポルトガル)などの農薬ロビー団体(クロップライフ ヨーロッパのメンバー)や、ケミアンテオリスース(フィンランド)(CEFICのメンバー)による取り組みが目立っていた。大手ロビー団体である CEFICクロップライフの主張は、国のメンバー レベルで再現された。

ボックス 4: 化学ロビーの破壊力

 化学業界は、ロビー活動を行うために膨大な資金を利用できる。CEO が LobbyFacts データに基づいて EU ロビー活動に最も多く支出している上位 50 社を調査したところ、大手化学業界のロビー活動の主体である Big Toxics(大手有害物質企業)の EU ロビー活動への支出は、現在 Big Tech(大手 IT 企業)を上回っていることがわかった。さらに、ロビー活動への支出に関する情報の提出は義務ではなく、必ずしも正確でないため、この数字は過小評価されており、支出額は大幅にこれより高い可能性が高い。

(訳注:LobbyFacts は Corporate Europe Observatory と LobbyControl の共同プロジェクトであり、ヨーロッパの機関におけるロビー活動を公開している。LobbyFacts を使用すると、ジャーナリスト、活動家、研究者は、公式の EU 透明性登録簿からのデータを検索、分類、フィルタリング、分析ができ、ロビイストとその EU レベルでの影響力を長期にわたって追跡できる。LobbyFacts.eu

 EU 機関へのロビー活動に最も多く支出している上位 50 社には、7つの化学企業とロビー団体が含まれ、4 つの企業 (バイエル、エクソンモービル石油化学、ダウ ヨーロッパ、および BASF) と 3 つのロビー団体 (CEFIC、ドイツの化学業界ロビー団体 Verband der Chemischen Industrie、および Plastics Europe) である。直近の1年間で、これらの企業は EU 機関へのロビー活動に 3,350万ユーロ(約57億円)を支出したと発表しており、これは上位 50社の大手IT企業(Big Tech)や大手エネルギー企業(Big Energy)のいずれよりも高額である。

 これら 7社の大手有害物質企業は、過去10年間で合計約 2億9,300万ユーロ(約500億円)のロビー活動支出を表明している。また、2014年12月以降、欧州議会の入場パスを 495枚取得し、欧州委員会の最高レベルのスタッフと 249回の会議を行っている。

 本日の登録簿に掲載されている最も支出額の多いロビイスト 50社のうち、21社が化学物質政策に関する企業に有利な議題を積極的に推進しており、その中には上記 7社の大手有害物質企業(Big Toxics)、12社のロビー活動コンサルタント、および 2つのより広範な業界ロビー団体が含まれる。これらの数字以外にも、バイエルなどの企業が最近公開した文書によると、ロビー活動にさらに多くの資金が費やされた可能性が高いことが示されている。世界レベルで4,900万ユーロ(約84億円)(EUで 660万ユーロ、ドイツで 300万ユーロを含む)、業界団体の会費として2,630万ユーロ(約45億円)(EUで 400万ユーロ、ドイツで 550万ユーロを含む)が費やされている。

結論 − 有害なロビー活動と有害な政治に終止符を打つ時が来た

 EU が違法農薬の輸出を禁止することに対する圧倒的な政治的支持があるにもかかわらず、法案はまだ日の目を見ていない。

 これらの物質が EU 以外の市場に輸出されると、他の国の人々や環境に危険と害をもたらす。さらに、輸出された禁止農薬が、その農薬の残留物で汚染された食品の輸入を通じて、我々の食卓、環境、そして身体に戻ってくる。

 このレポートで、CEO は、毒性が高いために EU で禁止されている農薬の輸出を続けるために、農薬業界が欧州委員会のパブリック コンサルテーションに提出した彼等の主張を精査した。

 我々の結論は? 業界が提出した主張は、最小限の精査にも耐えられないほどに弱々しいが、化学業界のロビー活動予算を考えると、非常に誤解を招く主張でさえ主流の政治討論に持ち込まれる可能性がある。こうした欠陥のある議論で、企業は経済損失や雇用喪失について意思決定者を脅かし、EU の輸出禁止は効果がないと説得したり、議論を別の場所に移すことで混乱させようとしている。

 化学業界は、今度だけは有害物質の世界的取引に大きな問題があることを否定さえしていない。一方、既存のいくつかの国際的制度や行動規範は目的に適っていない。化学業界は、いつものように、古くて有害な農薬や物質から簡単に利益を得ることを人々や地球よりも優先している。

 近年の業界の議論はすべて、もっと簡単な方法で反論できる。これらの化学物質や農薬が EU での使用を禁止されるなら、最近提案されたように、EU から完全に禁止することもできる。輸出禁止の代わりに、生産と輸入を禁止し、人々と環境を保護するという目的を効果的に達成し、恥ずべき二重基準の有害物質取引をきっぱりと排除したらどうなるだろうか。これは明らかに、検討すべき別のシナリオである。

 化学業界は、この問題が主に古い農薬をできるだけ長く市場に残すことに関係していることをよく知っている。EU の輸出禁止は、人間の健康、生態系の保護、持続可能な農業の促進、全ての国におけるより”最新の”規制という文脈で、世界の他の地域にプラスの影響を与えるだろう。それは化学業界にこれらの古い有害化学物質から離れ、代わりに害の少ない解決策の開発に投資する動機を与えるだろう。そのような輸出禁止は、企業にとって大きな手間や大きな利益の損失さえも伴わないだろう。しかし、業界は方向転換を拒否し、禁止された化学物質の輸出を継続させるために無責任なロビー活動を行っている。

 欧州委員会は、委員長であり 24 年の EU 選挙の欧州人民党(EPP)のトップ候補であるウルズラ・フォン・デア・ライエンのリーダーシップの下、欧州グリーンディールのほぼすべてを放棄し、重要な進歩を覆い隠すことを狙った右派への日和見主義的な傾斜を示している。

 しかし、これらのとんでもない、そして困ったほど人種差別的な二重基準の影響を受けているヨーロッパの人々や世界中のコミュニティは反撃するだろう。企業とそのロビー団体は、これらの二重基準を終わらせる動きに反対している。一握りの多国籍企業が、政治や規制機関に対して容認できないほどの影響力を持ち続けることは許されない。

 したがって、今後の法案に関する政治的議論や交渉は、彼らの影響を受けないようにする必要がある。環境、人々、公衆衛生への前進を阻むロビイストに意思決定者がさらされない、有害物質のない政治の必要性は、これまで以上に明らかである。



訳注:下記の産業側の主張 Industry Argument (1-6) 及び Box (4-6) の日本語訳紹介は省略した。

■Industry Argument 1: An EU export ban would lead to economic and job losses
(EU の輸出禁止は経済的損出及び雇用喪失につながる)

■Industry Argument 2: If the EU bans these exports, third countries will source them from other countries
(EUがこれらの輸出を禁止した場合」第三国は他の国から調達することになる)

■Box 4: The historical benefit of chemical regulation
(化学物質規制の歴史的利点)

■Industry Argument 3: An EU export ban will harm agricultural producers in third countries
(EUの輸出禁止は第三国の農業生産者に損害を与える)

■Box 5. ECJ rules against dangerous seeds
(欧州司法裁判所(ECJ)は危険な種子に反対の判決を下す)

■Industry Argument 4: An EU export ban would not be compatible with international trade rules set by the WTO
(EUの輸出禁止は WTO が定める国際貿易ルールと矛盾する)

■Industry Argument 5: A global approach is better than an export ban - a reformed Rotterdam Convention
(輸出禁止よりも世界的なアプローチの方が優れている − 改正ロッテルダム条約)

■Box 6: Rotterdam - A paralysed convention?
(ロッテルダム条約 - 麻痺した条約?)

■Argument 6: Banning chemical exports from the EU would increase the risk of illegal and counterfeit pesticides being used
EUからの化学物質の輸出を禁止すると、違法な農薬や偽造農薬が使用されるリスクが高まる

訳注:当研究会が紹介した企業のロビーイング関連情報
化学物質問題市民研究会
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