国際環境法センター(CIEL) 2024年4月25日
プラスチック条約交渉では化石燃料ロビイストの数が
各国代表団、科学者、先住民族を上回っている

Center for International Environmental Law
CIEL April 25, 2024
Fossil Fuel Lobbyists Outnumber National Delegations, Scientists,
and Indigenous Peoples at Plastics Treaty Negotiations
https://www.ciel.org/news/fossil-fuel-and-chemical-industry-influence-inc4/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
更新 2024年5月2日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC4/CIEL_240425_
Fossil_Fuel_Lobbyists_Outnumber_National_Delegations.html

【オタワ、2024年4月25日】 化石燃料および化学業界のロビイスト 196 名が、世界的なプラスチック条約を推進するための重要な政府間交渉委員会の第4回会合 (INC-4) に登録した。

 国際環境法センター(CIEL)が、先住民族幹部会(Indigenous Peoples Caucus)、グリーンピース、脱プラスチック運動(Break Free From Plastic movement)、国際汚染物質廃絶ネットワーク(IPEN)、焼却炉代替世界同盟(GAIA)、環境調査エージェンシー(EIA)、タバコ規制グッドガバナンス世界センター (GGTC)、および効果的なプラスチック条約を求める科学者連合と協力して行った新たな分析は、国連環境計画 (UNEP) の INC-4 参加者の暫定リストに基づいている。

 プラスチックの 99% は化石燃料由来であり、化石燃料産業はプラスチックと石油化学製品を命綱として握り続けている。ロビイストが INC-3 より 37%増加したということは、プラスチック生産に対処するための条約を求める声が交渉内及び交渉外で高まる中、業界ロビイストの影響力が次第に増加していることを示している。

 分析の結果、以下のことが分かった。
  • 化石燃料と化学産業のロビイスト 196人がプラスチック条約交渉に登録したが、これは INC-3 に登録したロビイスト143人から37%増加した。
  • 化石燃料と化学業界のロビイストの数は、欧州連合代表団の代表者合計180人を上回っている。
  • 登録されている化石燃料および化学産業のロビイストの総数は、効果的なプラスチック条約を求める科学者連合の独立した科学者 58人の 3倍、先住民族幹部会の代表 28人の 7倍である。
  • 化石燃料・化学産業のロビイスト 16人が 9が国の代表団に登録しており、その内訳はマレーシア 4人、タイ 3人、イランとドミニカ共和国 2人、中国、カザフスタン、クウェート、トルコ、ウガンダに各1人である。
  • 化石燃料と化学産業は、最小の87か国の代表団を合わせたよりも多くの代表者を登録した。
  • 太平洋小島嶼開発途上国(PSIDS)は合わせて 73名の代表者を登録しているが、これは化石燃料や化学産業のロビイストと比べて数が 2対1 以上多いことを意味している。
 認定された組織なら誰でも参加者を登録できるが、支持者ら(advocates)は業界のロビイストに有利な力の不均衡をすぐに指摘する。

 ”これらの協議の結果は世界中の国や地域社会にとって非常に重要であり、世界の公共の利益と根本的に矛盾する政策を掲げる企業の役割を暴露し、立ち向かうことが極めて重要である。交渉へのアクセスはパズルのひとつのピースにすぎない”と国際環境法センター(CIEL)のグローバル石油化学キャンペーン コーディネーターのデルフィーヌ・レヴィ・アルバレスは述べた。 ”誰もが平等にアクセスできると主張する人もいるかもしれないが、それはまったく真実ではない。ロビイストは各国代表団に参加し、密室でデリケートな議論が展開される加盟国限定の会合への特権的アクセスを獲得している。交渉には多数のロビイストが出席するが、交渉に先立つ数か月間は舞台裏で業界のロビー活動やイベントが世界中で行われている。”

 日曜日の UNEP 主催のオブザーバー会議で、インガー・アンダーソン事務局長は、プラスチック汚染の解決を求める地域社会の高まりが、そもそもの条約交渉への圧力を生み出すのに役立っていると強調した。そして、交渉の成功には最前線のコミュニティ、先住民族、独立した科学者、市民社会の経験が不可欠であるが、彼らの参加は大きな課題に直面している。産業界が交渉とその周辺環境へのアクセスを再び享受する一方、市民社会の代表者らは資金調達やビザの承認に苦労しており、たとえ交渉に参加できたとしても発言が保証されていない。

 国際環境法センター(CIEL)の環境健康活動家レイチェル・ラドヴァニーはさらに、”この危機を生み出した責任を負うべき関係者らがこの部屋にいるということが力の不均衡を生み出し、進歩を妨げている”と付け加えた。権利者や市民社会の代表者らは、このような事態が起きている間、黙って座っているわけにはいかないだろう。我々はここに参加できない地域社会や世界中の人々のニーズを代表している。我々はコーポレートキャプチャー(Corporate Capture)の停止を求めて声を上げ続けている。我々は、利益相反には機能するモデルがあることを知っている。我々は交渉を守り、先住民族、最前線のコミュニティ、独立した科学者、その他の権利保有者らの参加を優先する必要がある。我々の権利と将来の世代の権利はそれにかかっている。”

(訳注:コーポレートキャプチャー(Corporate Capture)とは、経済エリートが国内外の意思決定者や公的機関に不当な影響力を行使することで、人権や環境の実現を損なう手段を指す(当会訳)。ESCR-Net

 INC-4の焦点は、11月に予定されている最終会合(INC-5)に向けて準備が整う条約文を進めることである。これを達成するために、交渉者らは条項の潜在的な選択肢を絞り込み、重要な問題について決定を下す必要がある。我々が三重惑星の危機(訳注:「気候変動による危機」「生物多様性の減少」そして「汚染・廃棄物」)に立ち向かいたいのであれば、条約が生産から始まるプラスチックのライフサイクル全体に取り組むことが重要である。

 CIEL の環境健康活動家デルフィーヌ・レヴィ・アルバレスは続けて、”もしプラスチックロビー活動を通常通り継続させる条約が締結されるとしたら、それは彼らの影響から交渉を守ることができなかったからであろう。 UNEP とINC 事務局の不作為により、企業の影響力がすでに不公平な代表をさらに傾かせる条件が生み出されている。"


権利者および推奨団体からの専門家らのコメント


キーパーズ・オブ・ザ・ウォーターのコミュニケーションマネージャーであり、先住民族幹部会メンバーであるトリ・クレス
 ”ここINC-4では、プラスチック危機の影響を最も受けている地域社会が自分たちの声を届けるのに苦労している一方で、業界のロビイストらは国の代表団の議席を享受している。我々の周囲には業界が支援するプラスチック推進の広告があふれているが、先住民族の代表者らはアクセスが不足しており、発言する時間が非常に限られており、先住民族のテーブルでも認識が不十分である。プラスチックは我々の水を汚染しており、水に起こることは人々にも起こる。これらのプラスチックとその有害な影響は、今後何世代にもわたって我々に影響を与えるであろう。プラスチックはアメリカヘラジカ(moose)、ヨーロッパヘラジカ(elk)、シカ、魚、アヒル、ガチョウ、植物、医薬品、そして我々の体の中にも発見されており、我々はプラスチックの有害な循環をリアルタイムで目撃している。もう十分だ。”

グリーンピース国際プラスチック条約交渉代表団長、グラハム・フォーブス
 ”化石燃料や石油化学産業の影響力や存在感の増大は、人々が望むものでも、気候が必要とするものでもない。これは 5回の会合のうち 4回目だが、化石燃料ロビーはプラスチック危機に終止符を打つ条約の交渉を妨げている。国連加盟国は、プラスチック生産を削減し、使い捨てプラスチックを廃止する世界プラスチック条約を締結するために、さらに強化しなければならない。”

パメラ・ミラー、IPEN グローバル共同議長
 ”プラスチックとそれに関連する化学物質は、北極の先住民族の健康、土地、文化を脅かしている。参加者は、プラスチックから利益を得ている業界ではなく、北極や有害プラスチックの影響を最も受けている他の地域の人々の声に耳を傾けるべきである。業界は解決策の開発に不当な影響を与えるのではなく、プラスチック危機のコストに対して責任を負うべきである。”

フォン・ヘルナンデス、脱プラスチック運動グローバルコーディネーター
 ”廃棄物管理と効果のない対策に重点を置いた条約により、プラスチック推進団体は歯止めなくプラスチック生産を拡大し続けることができる。生産者らは、現状を維持し、生産をテーブルの外で解決する措置を講じることに既得の経済的利益を持っている。しかし、世界にはプラスチックを生産し続ける余裕はない。先週、現在のペースでは、以前の推定を上回って、プラスチック生産だけで残りの炭素収支のほぼ 20% を占める可能性があることが分かった。このまま生産を放置することは、気候、環境、健康、人権、そして環境にとって間違っている。”

アナ・ロシャ - 焼却炉代替グローバル アライアンス (GAIA) グローバル プラスチック プログラム ディレクター
 ”国連環境計画は化石燃料企業をプラスチック条約交渉に両手を広げて歓迎しているが、先住民コミュニティの指導者ら、廃棄物収集者ら、最前線の労働者ら、その他プラスチック危機の影響を最も受けている人々はよそよそしい態度を取っている。プラスチック条約交渉で意見を聞くべき人々は、その利害関係が真実と基本的人権の保護である人々であり、プラスチック緊急事態から利益を得ている業界ではない。”

ジェイコブ・キーン・ハマーソン、環境調査エージェンシー(EIA)の海洋活動家
 ”プラスチック汚染と気候変動緊急事態の二重の影響で最も大きな影響を受けている国々の一部である太平洋の小島嶼開発途上国の数より直接被害をもたらしている企業の代表者の数が大幅に上回っているのは皮肉なことだ。この矛盾は、業界ロビイストの存在が交渉に影を落とし、アクセスが公平でも平等でもないことを示している。”

ローラ・サルガド、タバコ規制におけるグッドガバナンスのためのグローバルセンター(GGTC)のキャンペーンおよびパートナーシップ責任者、タバコ汚染阻止アライアンス(STPA)のメンバー
 ”タバコ規制に関する世界保健機関枠組条約 (WHO FCTC) の第 5.3 条は、政府、国連機関、タバコ産業の間の利益相反を回避するための措置を含む既存の基本原則である。政府や国連環境計画(UNEP)などの国連機関は、ロビイストを含んでタバコ産業の妨害を防ぐ措置を直ちに講じるべきである。これらの取り組みは、政府間交渉委員会 (INC) が、業界関係者の不当な影響を軽減するために、様々な業界関係者に適した政策を確立するのに役立つ。簡単な調査に基づけば、約 5人の NGO オブザーバーがタバコ会社と関係があることが判明したが、タバコ会社は、世界中で大量にポイ捨てされているプラスチック製のタバコの吸い殻に責任がある。 WHO FCTC の第10回締約国会議(COP10)で採択された、政府に対しタバコ関連の環境政策をタバコ業界の商業的および既得権益から保護するよう求めた決定を想起し、これらの参加者らは直ちに交渉から排除されるべきである。”

(訳注:知られざる環境汚染源「タバコの吸い殻」は「マイクロプラスチック」である。・・・スペインの研究グループによる推計では、タバコの吸い殻によるマイクロファイバーは年間約30万トンになるという。 Yahoo!ニュース/石田雅彦 科学ジャーナリスト 2024/02/22

ベサニー・カーニー・アルムロス、ヨーテボリ大学生態毒性学教授、効果的なプラスチック条約を求める科学者連合のメンバー
 ”科学者連合は、今日発表された具体的な分析についてコメントすることはできないが、我々が言えることは、プラスチック汚染を首尾よく終わらせるためには、この条約が確固たる独立した科学に基づいている必要があることは明らかである。これまでの政策設定フォーラムでは、タバコ産業や石油産業などの利益相反を抱える関係者が、誤解を招く研究や虚偽の物語を生み出すなど、政策措置を遅らせたり阻止したりする一連の戦術を数十年にわたって使用してきた。彼らはまた、学術科学や個々の科学者の信頼性を損なうことにも取り組んだ。これらのプラスチック条約交渉中に、明らかな利益相反を伴うさまざまな利害関係者によって同様の戦術が使用されているのを我々は目にしている。独立した科学的証拠は非常に明確である。我々はプラスチックを主な原因とする三重地球規模の危機に直面しており、現在のプラスチック生産レベルは持続可能ではない。我々科学者らは、交渉担当者が堅牢で独立した科学を利用して、将来の世界的なプラスチック条約における野心的かつ効果的な義務の採択を支援できるよう、INC 会議に参加している。科学はまた、清潔で健康的で持続可能な環境に対する人権を最大限に保護するための道筋を見つけるのにも役立つ。”

方法論に関するメモ

 この分析のために、UNEP が今週発表した INC-4 の参加者の暫定リストを使用し、一行ずつ収集して分析した。

 CIELの推計は控えめになる可能性が高い。なぜなら、この方法論は、化石燃料や化学産業の利益との関係を交渉参加者に明らかにすることを前提にしており、一部のロビイストはこの関係を隠蔽することを選択する可能性があるからである。

 我々は、化石燃料または化学業界のロビイストとは、化石燃料会社、化学会社、およびその株主の利益を代表する人物であると考えた。これには、化石燃料や化学産業を代表する組織や業界団体、あるいはそれらの業界から多大な支援を受けている団体、非営利団体、シンクタンクを含む組織、あるいはガバナンスに業界の人物が含まれているか、あるいは、化石燃料業界や化学業界からの支持を求めるロビー活動の実績がある団体が含まれる。業界の立場。 INC-4 のすべての代表者は、何らかの方法で交渉に影響を与えようとしていると想定される。

 INC-4の代表者らは、各国代表団、政府間組織、市民社会組織を含む代表団との交渉に出席するために登録する。企業は参加のために直接登録することを許可されていないため、多くの場合、業界団体の代表団や国の代表団に同行して出席する。代表者は登録時に、別の会社や組織での役割や役職などの詳細情報を提供する場合がある。企業や組織は、Web サイト、ロビー活動データベース、信頼できるレポートなどのオープンソースを使用して調査された。

 代表者と化石燃料または化学産業との関係を確立するために、我々は、代表団と代表者が明らかにしたさらなる所属の両方を含む、UNEP の暫定参加者リストで提供された情報のみに依存した。これは、一部の参加者が業界との関係を明らかにしないことを選択する可能性があるため、我々の推定が控え目になる可能性が高いことを意味する。

Media Contact:
Cate Bonacini, press@ciel.org, +1-202-742-5847 (desk), +1-510-520-9109 (WhatsApp)

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