おろろおろろ

                    佐伯徹夫

 

つよくない人間もいるのだ。

自分の弱さに 泣いている人間もいるのだ。

戦争に行ったら

多分 真っ先に逃げ出し、

どこかのトイレの片隅にでも

坐り込み

しょんべんをべちょべちょ垂れ流し

恐怖で縮こまり

そのまま気を失い

気がついたら

軍の留置場に入れられており

そこでもまたぐしゃぐしゃめそめそ泣きながら

拷問を受け

イタイイタイと叫びつつ

結局 最前線へと送り出され

機関銃弾か砲弾か地雷か何か知らないが

肉体がみじん切りにされるのがオチの

弱い弱い人間もいるのだ。

そんなことを空想するだけで

走ってくる電車にでも飛び込みたくなるような

弱い弱い人間は

五十五年間

戦争をさせなかった

憲法の条文と平和勢力の力を

一番身にしみて

ありがたいありがたいと 陰で思い 感じ

人を殺すよりは自分が殺された方がまだいい などと

殊勝なことを 時には思い

でもやっぱり やだと

思わずもおろおろとしてしまい

平和な世界の中の隅の方にと

自分の居場所をやっと

みつけている そんな

弱い弱い人間もいるのだ。

 

この日本にはたくさん。



生年 1950年

在住都道府県名 神奈川県

所属詩誌(団体・グループ) 詩人会議

代表詩集(著作) 『やさしさその他』『佐伯徹夫詩集』


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