模型車輌の製作は、造形として見てもなかなか奥が深く、楽しいものです。「関心はあるが、どうも難しそうで…」と言う向きの刺激になればと、店主が恥も省みず作例をご披露いたします。案ずるより生むが安し、どうぞ挑戦してみて下さい。


§1・既製品の改造…気軽にオリジナル車輌を手にしよう

ちょっとした工作で好みの車輌がモノにできる、既製品の改造は、初心の方はもとより、腕に覚えのある向きでも、自作とはまた違った楽しさが味わえる模型の遊び方として、古くから盛んに行われてきました。
日本型の製品が少なかった時代、外国製パーツや完成品を応用して作った作品が、各ゲージの黎明期に模型雑誌のページを飾ったことが思い出されます。
わが国の三線式Oゲージは、そのような時期を迎える前に、商品としての寿命が来てしまいましたが、まったくの無の状態を経験したのですから、昨今の米国型とはいえ、タネ車となる既製品があるということは、実に幸せな時代になったと言っても言い過ぎではありますまい。
自作は少々荷が重いと言われる方でも、目の前にある完成品にちょっと手を加えるくらいでしたら、ヨシ僕も…となるのではないでしょうか。
まずは既製車輌を観察することから始めてみては如何でしょう。「この電車は○○に似ているな」「窓を一個減らすと、××型に近くなるな…」考えるだけでも、あなたのオリジナル車輌に一歩近づきます。

ここで、比較的気軽にできる、アメリカ型→日本型(モドキ)改造の例として、恥ずかしながら店主の駄作をお目にかけます。
ライオネルより、数10年に渡って発売されているロングセラー、60ft短縮タイプのマジソンカーを、戦前国鉄タイプの特急型客車に化けさせたシロモノです。運転会などで、愛好家の皆さんがお持ちになる、国産旧製品の蒸機や電機に牽いてもらうために作りました。
上が原型、下が改造後の姿です。塗装を変えただけでもそれらしく見えそうな造作ですが、折角だからと欲が出て、何ヶ所か手を入れてみることにしました。
←改造箇所は、種車と改造後を比較していただければお解りかと思います。
(運転会などでさんざん走らせましたので、金属部分の塗装がはげてお見苦しいですが、お許し下さい…)
展望デッキの囲いとステップ、妻板の窓、側板の窓、そして反対側のデッキの扉窓・ステップと、わずかな箇所をいじるだけでだいぶ和風味になりました。もちろん塗装を国鉄風にしたのが、最も効果的だったかもしれません。
妻と側板の窓は、もとからのリベットの列と矛盾を生じないように注意しつつ、ケガいたあとヤスリで広げました。せめて展望室くらいは窓が大きくないと、やはりらしくありません。
展望デッキは、プラ製の囲いをダボ(穴にはまる突起)の出ている基部だけ残して切り取り、その上に、真鍮板から新たに作った囲いを、ピッタリ嵌るように作ってはめ込みました。少し凝ったなと思われるかもしれませんが、ほかにそれらしく作る方法が思いつかなかったのです。
デッキのステップは下の段を糸ノコで切って1段としました。扉はタテに桟が入っていたので、桟を切りとってから、ボール紙で作った横桟の窓枠を裏から貼っただけです。
なお塗装は、原型にあるレタリングを、耐水ペーパーで水をつ
けながらこすり落とした後、分解してざっと洗って乾燥させただけで、すぐ塗装にかかりました。塗料は市販の鉄道用缶スプレー(プラ用塗料)です。
展望車を分解してみたところです。側板・屋根はプラ製で一体構造、デッキ周りはダイカスト、床板は黒染め鉄板です。デッキの扉は鉄板プレス製のスプリングドアで、指で開閉することができます。
もとの電灯は3Wの豆球が床から立ちあがっていたのですが、窓ガラスを透明プラ板にしたので、真鍮丸棒で取りつけ座を作り、天井近くで白熱球が光るようにしました。電球を取りつけ座にハンダ付けしてしまったのは失敗でした。電球が切れても交換が容易にできないからです。室内も早く作ってやらなければいけませんね。
コーチも2輌改造して、展望車と合わせて3輌編成になるようにしました。こちらの改造箇所はデッキ周りだけで、展望車と同様ステップを1段にし、扉窓を横桟にしただけです。
写真の1輌は、試験的に冷陰極管(蛍光灯)を取りつけてみましたが、やはりリベットだらけのオールドタイマーには似合わないようで、いずれ白熱灯に換えようと思っています。


§2・「ペーパー車体」を気軽なものに…既製品下周りを使って、B凸型電気機関車をやさしく作る

車体を自作する際の素材としては、真鍮など金属板やプラ板等のほか、ボール紙やケント紙で車体を作る「ペーパー車体」も、昔からの技法として愛好家に親しまれてきました。
といっても紙100%ではなく、補強の角材や、屋根板などの曲面に木材が併用されますが、専門店に出かけなくとも入手できる身近な素材で、軽い車体が作れ、強度は申し分なく、工具・素材ともに廉価に済むという魅力がうけて、今でも根強い人気があります。
反面、金属製に近い平滑さを出したり、継ぎ目を美しく仕上げるために、ラッカーパテやサフェーサーなどの目留め剤を塗り重ねたのち、乾燥後耐水サンドペーパーを水につけつつ表面を研磨する、「水研ぎ」の工程を繰り返さな

ければならないこと、塗装のやり直しが効かないなど、決していいことづくめではない部分もあるわけです。
特に、有機溶剤(シンナー)を含む目留め剤を何回も塗装・乾燥させる下地作りは、周囲に気を遣うという意味では、金属工作となんら変わりありません。一般の住環境を考えますと、「気軽に」工作できるものではないのです。
本当の意味で気軽に工作を楽しんでいただくには、ご家族など周囲に迷惑がかかるような工程が、極力少なめであることこそ肝要と考えました。
そこで今回は、あえて表面処理をせず、むしろ紙の質感をある程度生かしたやり方をご紹介しようと思います。
タイトル横の画像にある2輌の貨車は、表面処理をしないやり方で作った最初のものです。
このように屋根以外曲面のない、切妻の車輌でしたら、丁寧に作ればそれなりに「見られる」仕上りに持っていくことは、さほど難しいことではありません。
……とまあ、エラそうな理屈をこねておりますが、要は、それなりに不精をしつつ気楽に工作しても、まとまる題材があるので、ひとつ作ってみませんか、と言いたいだけです。ハイ。


今回使った主な工具を並べてみました。
使うたびに説明しますので、ここでは言及しませんが、定規、スコヤー、ノギスだけは正確なものを選んで下さい。車体を作る工程のほとんどは、カッターナイフ・定規類とサンドペーパーで済みます。ヤスリは細目のものが大小3種ほどあれば充分、サンドペーパーは40〜50番の荒目のものと、500〜800番程度の細かいものが一枚づつあるとよろしいです。



自作に挑戦しようとなさっている、お客様のお話を伺っていると、理想をいっぺんに実現しようと、あれこれ悩み過ぎて、結局完成に至らない、という例が多いように思われます。
今回ご紹介するB凸は、細かいディテールを一切廃した、人によっては「なあんだ」と言われるような単純な造作ですが、その分工作に不慣れな方でも、短時間で気軽に完成できるように考えたものです。
「こことここは僕の好みにアレンジして…」などと色気を(失礼!)出さずに、まずはこのまま作って、とにかく完成させてみて下さい。1輌完成させて呼吸をつかめば、あとの工作はグッと楽になること請け合いです。(ホントか?)
先にも記した通り、家族やご近所から苦情の来かねないシンナー臭を発散させることは、最終工程の塗装以外ありませんし、なにより、面倒な動力装置や下周りは、信頼性の高い既製品をそっくり利用するのですから、当たり前ですが堅牢さは保証済み、不安なくドシドシ走らせて遊べます。
次のページよりその工程の概略をご覧に入れます。
「やさしくB凸を作る1」
「やさしくB凸を作る2」
「やさしくB凸を作る3」
「やさしくB凸を作る4」
「やさしくB凸を作る5」



ウォームギヤーの間に戻る



最初のページに戻る