256. ダグラス DC-3/C-47[U.S.A] / 零式輸送機[日本海軍]
   Douglas DC-3/C-47 Passenger/Transport plane
[U.S.A]

Type Zero Transport plane [Japan Navy]

 
全幅:29.00m、全長:19.80m、翼面積:91.7u、
発動機: ライト・サイクロン9気筒840馬力 (またはP&Wツインワスプ14気筒1,000馬力)×2、
総重量:10,880kg 最大、最大速度:340km/h、巡航速度:270km/h、
航続距離:1,550km (〜3,440km)、乗員:2名+乗客 21 (〜28)名、
初飛行:1936年
  
                                  イラストはDC-3派生改造型の日本海軍・零式輸送機(解説参照)
Illustrated by KOIKE, Shigeo , イラスト:小池繁夫氏   1984年カレンダー掲載 

 上のイラストのベースとなるDC-3は、アメリカの航空機メーカーであるダグラス社が1936年に開発した双発のプロペラ旅客機・輸送機の革命的な不朽のベストセラー機である。 生産は米国以外では日本と旧ソ連とでノックダウン生産が行われ、それらを含めた総生産機数は世界中で1万3千機を超え、輸送機としてこれを超えるものは先にも後にも無い傑作機である。

 1930年代当時の主要エアラインであるアメリカン航空は長距離長時間飛行でのサービス向上のため、DC-2をベースにした寝台旅客機のアイディアを考え、アメリカン航空の社長はダグラスの創始者ドナルド・ダグラス社長と2時間に渡って電話で説得したという。 

 その結果、僅か半年余りで急ピッチの開発・製作が進められ、DC-2の胴体を拡幅したDST(ダグラス・スリーパー・トランスポーテーション)が生まれ1935年12月17日に初飛行した。 DSTは14名分の寝台とキッチンを備え、途中1度の燃料補給のみで北米大陸を横断できる長距離快速機として、1936年に就航してアメリカン航空の看板旅客機となった。

  
 DSTの完成後すぐに派生型として、寝台の代わりに通常座席型バージョンが開発された。 これがDC-3で、DC-2では客室中央通路の両側に1列ずつ計2列しか座席を配置できなかったが、拡幅されたことで片側にもう1列増やした3列配置が可能となり乗客21人に増員できたのである。 
 
 DC-3はDST初飛行の翌年1936年中に就航することとなり、瞬く間に当時のベストセラー旅客機となった。 1939年までの3年で何と600機以上が製造された。 アメリカン航空、TWA、イースタン航空といった当時の一流航空会社がこぞって採用し、ヨーロッパでもルフトハンザなどに導入された。 (上の写真はDC-3初期型)

 DC-3は確固とした長所を多数備えていた。 快速で安定した飛行特性だけではなく、信頼性が高く、運用がしやすかった。 エンジンは僅か2時間以内に交換が出来た。 そして舗装した空港のみならず、土や草の滑走路でも運用できる堅牢さを備えていた。 しかし最も偉大であったのは乗客収容力が大幅に向上したことで、アメリカン航空の社長C.R.スミスいわく「それは客を運ぶだけで、儲けられるようになった初めての飛行機」ということだった。 自らの運賃収入だけでコストをペイでき、「飛ばせば儲かる飛行機」の出現は、航空輸送の発展における重要なエポックであった。(それまでの航空会社は郵便輸送などで巨額の政府補助金を得ることで、やっと経営を凌いでいた)

 

 このDC-3の出現に期をあわせ、計器飛行や無線航法が飛躍的に進歩し、フライトスケジュールのキャンセルは稀なことになり定時運行が浸透して、エアライン事業は大きく成長した。

 夜間飛行もごく普通のこととなって稼働率が飛躍的に向上し、航空運賃も引き下げられて、一般市民の「快」足となったのである。、1930年代の末には米国の航空会社は既に何と年間300万人もの乗客を運んでいた。 (上左の写真は日本でノックダウン生産した民間用DC-3旅客機 大日本航空で使用された「欅」号)

 

 1941年にはDC-3の軍用輸送機バージョンが正式に採用され、制式名称を「C-47」とし、「スカイトレイン」という呼称が与えられた。 以後戦時中を通じて全力で大量生産が行われ、1945年までに約1万機を生産した。 これらはイギリス空軍や南アフリカ軍にも供与され、「ダコタ」(Dakota)の呼称を与えられた。 派生型として兵員輸送に重点を置いた設計のC-53も生産された。 その用途は幅広く、兵器・食糧や兵員の輸送に用いられたほか、欧州戦線では空挺部隊のグライダー牽引機にも用いられたほどである。連合軍の主力輸送機として世界中の戦場を飛行し、戦闘による損失も多数生じた。

 当時のソ連(ロシア)は、アメリカから700機のC-47の供与を受けたが、あわせてDC-3をもとに、ロシアの寒冷地・不整地向けに小改良を加え、ソ連製エンジンを搭載した輸送機「PS-84」が開発された。 この機体は1942年以降「Li-2」の名称で軍用輸送機として量産され、対ドイツ戦で用いられた。

 連合軍欧州総司令官であり、のちにアメリカ合衆国大統領となったドワイト・D・アイゼンハワーは、第二次世界大戦の連合軍勝利に著しく寄与したのは「C-47とジープとバズーカ砲である」とコメントしている。 戦後の冷戦期におけるベルリン大空輸作戦でもC-47は大活躍をした。

 
 
 戦後生き残ったC-47の多くは、民間向けに多数機が放出された。それらは旅客機・民間輸送機としての設備・装備を加える改造が施され、新たにDC-3へと生まれ変わったのである。
 
 その数、数千機がアメリカ国内のローカル航空会社はもとより、世界各国の航空会社に安く買い取られ、世界中にあまねく行き渡った。世界の航空輸送ビジネスは、この並外れて信頼性が高く、輸送能力と経済性に優れた機体によって、1940年代〜1950年代に著しい発展を遂げた。日本の民間航空会社でも1950年代〜1960年代中期にかけて、ローカル路線で用いられていた。 
 
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 左上の写真は、1951年占領軍総司令部GHQから民間航空会社の設立が許可され「日本航空」が運行を開始するが、その時フィリピン航空からDC-3を1機チャーターし、東京・大阪・福岡で披露飛行を行ったときの機体である。しかし、日航はDC-3を採用せず、これ以降マーチン202で営業を行った。 
 DC-3を積極的に大量に利用したのは全日空の前身である「日ペリ航空」で、定期航路では1964年まで、その後しばらく貨物輸送などに使われていた。 上右の写真は全日空の機体で場所は新潟空港である。
 
 私自身、子供のころ北海道のローカル線(東亜国内航空?)でDC-3に搭乗した事があるが、搭乗の嬉しさと同時に、日高山脈を越えるとき、与圧室でないだけに耳(鼓膜)の痛かったことが今なお鮮明に思い出される。
 
 1950年代に入るとアメリカでは旅客機の大型化が進んだため、DC-3は過去の機体となったが、その他の世界各国では1970年代に至ってもローカル航空路や不定期輸送用として広く用いられていた。多くの航空機メーカーが、「ポストDC-3」となる機体の開発に取り組んだが、その名に相応しい成功を収めた例はない。DC-3の完成度がいかに高かったかを如実に示している。 最初のDC-3が出現してから70年近くを経た21世紀初頭においても、数百機単位で現役稼動機が存在していると言われ、旅客輸送になおDC-3を用いている航空会社も少数ながら存在している。

   


 このページ・トップの小池さんのイラストは日本海軍が使用した制式名「零式輸送機二二型」である。

 日本海軍は1937年にダグラス社からDC-3製造権の買収を三井物産に委嘱し、取得後それを海軍が買い取った。 そして設立間もない昭和飛行機工業を育成指導する目的で、まず最初に5機分の半製品・エンジン・部品・材料を購入し技術提携の元に組み立て(ノックダウン)を行なわせた。 

 この5機の内、3機は大日本航空に引き渡され、民間旅客機として日華航路や日満航路で使用され、「桜・榊・梓・欅・・・」など樹木の名前がつけられ広く親しまれ、その後も何機かKD生産された。 残る2機は海軍で使用しD一輸送機(ダグラス輸送機)と呼ばれ、日本のパイロットにもたいへん好評であった。

 その後は国産化改造が進められ、三菱の発動機「金星」が搭載されD二輸送機として、中島飛行機で、それまでのDC-2ノックダウン生産に代わって70機が生産された。 その後1942年に「零式輸送機」として制式採用となり、改めて昭和飛行機に生産が移管された。 

 そして日本の軍用目的に合わせ、発動機出力の向上、重量増大に合わせた主翼構造の補強、装備品改修や主翼内燃料タンク増設、主扉の拡大、偵察窓設置など、種々の改造が順次行われた。 ここでもDC-3の優れた基本設計により終戦まで主力輸送機として活躍し、日本での生産機数は累計486機におよんだ。 そして終戦時には、なお38機が残存していた。

 

日本海軍 零式輸送機 二二型
全幅:28.96m、全長:19.70m、翼面積:91.7u、
発動機:三菱「金星」星型空冷14気筒  1,300馬力×2、
総重量:12,500kg最大、最大速度:393km/h、巡航速度:278km/h、
航続距離:3,270km、乗員:5名+21名、
初飛行:1940年

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