(調査資料1−2)

アルファルファの「中苜一号」など10品種の適応性試験

庄子一成1) 小樋正清2) 前原泰徳2) 王益清3) 劉振鋒3)
李桂栄4) 孔徳平4) 閻旭東4)
1)沖縄県畜産試験場(現 沖縄県乳用牛育成センター)
2)家畜改良センター熊本牧場
3)中国河北省滄州市畜牧水産局飼草飼料站
4)中国河北省滄州市農林科学院牧草研究中心

要 約

アルファルファ10品種について、中国河北省滄州市の自然環境に対する適応性を検討するため、滄州市農林科学院と土壌の塩類濃度が高い南皮県李皋家村の圃場の2か所で、1996年から1999年まで適応性試験をのべ3回実施したところ、1999年の結果と4年間の結論は次のとおりであった。

試験1で利用3年目の年間収量が最も高かったのは安斯塔で、次いで滄州苜蓿、キタワカバであったが、その他の品種とも有意な差はなかった。試験2で利用2年目の年間収量が最も高かったのは中苜一号で、その他の草種に対し有意な差があった。次いでキタワカバ、安斯塔であった。

これらのことから、安斯塔、キタワカバ、中苜一号が適品種と判断された。特に前2者は当地の半乾燥という気象条件下でも比較的高い収量が得られ、維持年限も長いものである。また中苜一号は塩類濃度の高い土壌では他品種より高収量が期待できるものと判断された。

緒 言

畜産業の発展には牧草類の導入が不可欠である。中国河北省滄州市には塩類土壌が広範囲に広がり、生産性が低いことから荒ぶ地化しているところも多い。当地域の農畜産業の発展のためにはこの土壌地帯の開発と有効利用が鍵となっており、市では大々的にこの土壌改良計画を推し進めており、この一環としてアルファルファの栽培を奨励している。また近年の干ばつ傾向も相まって、他作物から干ばつに強いアルファルファへの転換を図る動きも多い。

このようななかで当地域に適したアルファルファの適正品種導入を目的とした適応性試験が1996年から滄州市内の農林科学院と南皮県の李皋家村で開始され、小樋ら1)による利用2年間の結果では、地元の滄州苜蓿(苜蓿はアルファルファの意)より、外国などから導入した品種が生産性に優れていることが確認された。

今回、上記試験の利用3年目の結果と4年間の結論を報告するとともに、中国農林科学院で耐塩性を目標として育成された中苜一号2)に若干の新たな品種を加え、1997年から李皋家村で塩類土壌に適応性の高い品種の選定を試みたので、その利用2年目の結果を併せて報告する。

材料及び方法

牧草・飼料作物系統適応性検定試験実施要領(改訂2版)3)に従い以下のとおり実施した。

1.試験地及び試験期間

試験地は中国河北省滄州市内に位置する農林科学院と、南皮県李皋家村(滄州市から南へ直線距離で36km)に所在するアルファルファ草地の一角に設置された試験圃場の2か所で実施した。

試験1:農林科学院と李皋家村。1996年6月から1999年10月。

試験2:李皋家村。1997年8月から1999年10月。

2.供試圃場の土壌条件

土壌は黄土が堆積したもので礫が全くなく、有機物に乏しく塩類が多量に含まれているアルカリ土壌である。固相が多く液相が少ないことも特徴である。農林科学院の圃場と李皋家村のそれとでは土壌がやや異なり、李皋家村の土壌の方が塩類濃度が高く、経験的に作物の栽培には条件が悪いことがわかっている。

表層から10cmの土壌の理化学的特性はおおむね次のとおりである。

 pHEC(mS/m)三相分布(%)透水性
ms-1 k(22)
固相液相気相
農林科学院 8.3〜8.7 19.2〜70.4       1.4×10-3
李皋家村 8.3〜8.8 20.5〜164.1 55 13 32 8.4×10-5
孔店村 8.3〜8.5 26.0〜341.0 56 20 24 1.6×10-4

(上記のデータは土壌分野担当ののC/Pである劉春田氏が分析した結果4)から、表層から10cmのデータを集め編集し直したものである。)

孔店村は参考として掲げた。(滄州市から西へ直線距離で30kmの黄驊市に位置し、そこには塩類アルカリ土壌のため荒ぶ地が広範囲に広がっている。今後飼料作物の栽培が拡大すると見られる地域は、そのような塩類が多く含まれていて他作物が栽培し難い、例えば李皋家村や孔店村の土壌のような地域である。)


3.供試品種

それぞれの試験で供試した品種は次のとおりである。

試験1試験2
供試品種導入先供試品種導入先
安斯塔アメリカ中苜一号中国
和田苜蓿中国安斯塔アメリカ
甘農一号中国甘農一号中国
キタワカバ日本キタワカバ日本
タチワカバ日本タチワカバ日本
滄州苜蓿中国敖漢中国
  草原二号中国
  準格爾中国

4.1区面積及び区制

試験1:1区 1.2m×5.0m=6m2、4反復、乱塊法で配置した。

試験2:1区 1.2m×5.0m=6m2、3反復、乱塊法で配置した。

5.耕種概要

1)播種期及び播種法

試験1:播種量はa当たり(以下同じ)150gで、発芽率により播種量を調整し、農林科学院では1996年6月15日に畝幅30cmで条播した。李皋家村では同年7月14日に同様に実施した。

試験2:1997年8月19日に試験1と同様に実施した。

2)施肥量及び施肥法

基肥はN、P2O5それぞれ1、0.9kgを施肥した。追肥は李皋家村では刈取り毎にNを0.24kg、P2O5を0.63kg、農林科学院ではNは刈取り毎に0.24kg、P2O5は最終刈り後に0.63kg施肥した。肥料は尿素と過燐酸石灰を使用した。K2Oは施肥しなかった。

6.調査項目及び方法

1)調査項目:草丈、倒伏程度、再生草勢、病虫害程度、雑草程度、欠株率、生草収量、乾物率、乾物収量。
2)調査方法:最も早い品種が草高60cm又は開花期のいずれかに達したときに、中央2列(面積は3m2)を地際から高さ7cmで刈り取り、常法で乾燥した。

結果及び考察

1.試験期間中の気象と経過の概況

(李皋家村の結果。以下特に断りのない場合は李皋家村での結果である。)
1996年:試験1の播種後降雨があり順調に生育した。
1997年:試験1の1番草は収量が高かった。その後大干ばつとなり、夏季の猛暑とも相まって収量は低くなった。また1997年播種の試験2も干ばつと虫害の影響を受け、発芽の良否は全品種ともほぼ「中」程度で、定着時草勢も「中」程度となった。同年の年間降水量は346mmで、平年の600mmの58%であった。
1998年:前年の秋から引き続き春も降雨は少なく、その影響で試験1の1番草の収量は低収となった。その後平年並みの降雨があったが逆に雑草が繁茂し、アルファルファの生育を阻害した。
1999年:1年中干ばつが続き、年間の降水量は126mmと平年の21%と極端に少なく、農作物に影響が出るほどであった。春から夏にかけて気温が2℃ほど高く推移したこともあって、アルファルファの生育は不良で、刈り取り回数が3回に減少し、年間収量は低下し、初年目のそれの20%前後になった。

なお、試験1の2番草調査時(9月7日)に害虫による喫食害が見られたが、品種間に差はなく、その程度は「少」であった。再生草勢は品種間による差異は認められなかった。また倒伏は見られなかった。

2.調査結果

1)草丈

試験1の刈り取り時の草丈を表1−1に示した。

表1−1 1999年の刈り取り時の草丈(試験1)    (cm)
品種名李皋家村農林科学院
1番草
(5/21)
2番草
(7/13)
3番草
(9/7)
1番草
(5/12)
2番草
(7/2)
3番草
(8/18)
安斯塔 59 58 48 81 77 83
滄州苜蓿 51 51 37 73 64 67
キタワカバ 54 53 42 78 72 82
和田苜蓿 57 65 43 78 78 84
甘農一号 54 57 42 84 81 86
タチワカバ 51 58 48 86 85 92

干ばつの影響を受け、草丈は全品種とも短くなった。李皋家村ではそのなかでは安斯塔と和田苜蓿が長く、滄州苜蓿が短かった。農林科学院ではタチワカバと甘農一号が長く、滄州苜蓿が短かった。

試験2の刈り取り時の草丈を表1−2に示した。

表1−2 1999年の 刈り取り時の草丈(試験2)        (cm)
品種名1番草(5/14)2番草(7/6)3番草(8/31)
中苜一号 68 58 44
キタワカバ 50 42 39
安斯塔 53 51 40
敖漢 43 42 35
甘農一号 53 50 41
タチワカバ 49 45 42
草原二号 48 41 33
準格爾 34 37 31

試験1と同様全品種とも短かった。そのなかでも中苜一号は最も長かった。

2)雑草程度

試験1の刈り取り時の雑草程度を表2−1に示した。

表2−1 1999年の刈り取り時の雑草程度(試験1)
品種名1番草(5/21)2番草(7/13)3番草(9/7)
安斯塔 2 3 5
滄州苜蓿 2 2 4
キタワカバ 2 2 4
和田苜蓿 1 3 5
甘農一号 2 2 4
タチワカバ 2 3 6
(雑草程度 極少=1〜極多=9)

雑草は全品種とも刈り取り回次の進展とともに多くなった。これは利用3年目は無除草が原則となっているためであろう。タチワカバと和田苜蓿が多いように見受けられるが、その差は小さかった。

試験2の刈り取り時の雑草程度を表2−2に示した。

表2−2 1999年の 刈り取り時の雑草程度(試験2)
品種名1番草(5/14)2番草(7/6)3番草(8/31)
中苜一号 2 1 2
キタワカバ 2 1 2
安斯塔 3 2 4
敖漢 1 1 6
甘農1号 4 2 6
タチワカバ 2 1 3
草原二号 1 1 4
準格爾 3 6 6

除草を実施したので試験1のようには明確な傾向は見られないが、収量が下位の品種に雑草が多い傾向があった。

3)欠株率

年次ごとの最終刈り後の欠株率を試験1を表3−1に、 試験2を表3−2に示した。

表3−1 年次ごとの最終刈り後の欠株率(試験1)(%)
品種名 1996 1997 1998* 1999
安斯塔 10 10 16 52
滄州苜蓿 39 43 35 56
キタワカバ 10 13 15 65
和田苜蓿 14 18 15 73
甘農一号 18 19 16 64
タチワカバ 12 11 17 75
* 春の欠株率

表3−2 年次ごとの最終刈り後の欠株率(試験2)
品種名 1997 1999
中苜一号 36 40
キタワカバ 52 55
安斯塔 69 73
敖漢 53 57
甘農1号 59 66
タチワカバ 66 73
草原二号 61 65
準格爾 73 81

試験1の急激な欠株率の増加は、1999年の干ばつの外、1998年の雑草の繁茂による生育阻害が原因と見られる。欠株率の増加が著しいのはタチワカバと和田苜蓿と見られるが、その他の品種との差は小さかった。試験2では年次が経過するに従い、各品種とも欠株率が増加しているように見えるが、その増加程度は小さい。試験1でタチワカバと和田苜蓿の欠株率の増加と雑草程度の増加が軌を一にしており、維持年限に問題があるように思われるが、試験2ではタチワカバにそのような傾向が見られないので、この両品種が維持年限に問題があるとは必ずしも言えない。

4)生草収量

試験1の刈り取りごとの乾物収量と年間収量を李皋家村は表4−1に、農林科学院は表4−2示した。

表4−1 1999年の生草収量(試験1)(kg/a、%)
品種名 1番草
(5/21)
2番草
(7/13)
3番草
(9/7)
合計 対滄州苜蓿比 対キタワカバ比
安斯塔 37 48 30 115 96 129
滄州苜蓿 51 43 26 120 100 135
キタワカバ 33 36 20 89 74 100
和田苜蓿 21 28 9 58 48 65
甘農一号 20 31 12 63 53 71
タチワカバ 12 16 11 39 33 44

生草収量が最も高かったのは滄州苜蓿で、次いで安斯塔、キタワカバの順であった。

表4−2 1999年の生草収量(試験1 農林科学院)     (kg/a、%)
品種名 1番草
(5/12)
2番草
(7/2)
3番草
(8/18)
合計 対滄州苜蓿比 対キタワカバ比
安斯塔 157 134 120 411 113 93
滄州苜蓿 152 103 108 363 100 83
キタワカバ 152 133 154 439 121 100
和田苜蓿 173 120 114 407 112 93
甘農一号 164 169 149 482 133 110
タチワカバ 179 156 148 483 133 110

生草収量が最も高かったのはタチワカバと甘農一号で、次いでキタワカバの順であった。滄州苜蓿は最も低かった。

試験2の刈り取りごとの生草収量と年間収量を表4−3に示した。

表4−3 1999年の生草収量(試験2)          (kg/a)
品種名 1番草
(5/14)
2番草
(7/6)
3番草
(8/31)
合計 対キタワカバ比
中苜一号 70 53 50 173 194
キタワカバ 37 27 25 89 100
安斯塔 34 27 27 99 101
敖漢 37 21 19 77 87
甘農一号 30 25 14 69 78
タチワカバ 22 19 22 63 71
草原二号 28 19 9 56 63
準格爾 12 8 9 29 33

生草収量が最も高かったのは中苜一号であった。次いでキタワカバ、安斯塔であったが、その他の草種も含め収量は低かった。

5)乾物率

試験1の各刈取り時の乾物率を表5−1に示した。

表5−1 1999年の各刈り取り時の乾物率(試験1)    (%)
品種名李皋家村農林科学院
1番草
(5/21)
2番草
(7/13)
3番草
(9/7)
1番草
(5/12)
2番草
(7/2)
3番草
(8/18)
安斯塔 28.1 26.8 26.9 24.8 29.4 26.9
滄州苜蓿 28.0 24.8 23.2 23.3 28.6 25.0
キタワカバ 30.2 27.6 27.8 26.3 28.3 26.9
和田苜蓿 29.4 26.6 26.8 23.7 28.1 25.9
甘農一号 28.9 26.1 26.0 24.9 28.6 26.1
タチワカバ 29.6 26.7 27.1 23.1 28.2 26.2

李皋家村では乾物率は干ばつの影響を受けているとみられ、全品種全刈り取り時期とも高かった。そのなかでもキタワカバは常に高く、滄州苜蓿が低かったが、その他の品種間との差は小さかった。

試験2の各刈り取り時の乾物率を表5−2に示した。

表5−2 1999年の各刈取り時の乾物率(試験2)   (%)
品種名1番草(5/14)2番草(7/6)3番草(8/31)
中苜一号 27.7 25.7 24.0
キタワカバ 28.3 26.3 24.3
安斯塔 27.0 25.1 23.8
敖漢 27.5 23.6 21.6
甘農一号 29.5 25.5 22.2
タチワカバ 28.2 25.2 26.0
草原二号 27.6 24.1 24.0
準格爾 27.4 22.4 21.1

試験1と同様キタワカバが高い傾向にあったが、その他の品種間との差は小さかった。

6)乾物収量

試験1の刈り取り毎の乾物収量と年間収量を李皋家村は表6−1に、農林科学院は表6−2示した。

表6−1 1999年の乾物収量(試験1)           (kg/a、%)
品種名 1番草
(5/21)
2番草
(7/13)
3番草
(9/7)
合計 対滄州苜蓿比 対キタワカバ比
安斯塔 10.1 13.1 8.0 31.1 105 122
滄州苜蓿 14.3 10.7 4.7 29.7 100 117
キタワカバ 9.9 10.0 5.5 25.4 86 100
和田苜蓿 6.0 7.5 3.1 16.5 56 65
甘農一号 5.5 7.8 3.1 16.4 55 65
タチワカバ 3.7 4.4 2.8 10.8 36 43

乾物収量が最も高かったのは安斯塔で、次いで滄州苜蓿、キタワカバの順であったが、その他の品種とも有意な差はなかった。滄州苜蓿は生草収量は高かったが、乾物率が低いため乾物収量は安斯塔より低くなった。また1997年の収量に比較して、1999年の収量が極端に減少したのは、区ごとのバラツキが大きいことからすると、上述した干ばつによるものの外、1998年の雑草の繁茂による生育阻害や、株の減少によるものも考えられる。

表6−2 1999年の乾物収量(試験1 農林科学院)     (kg/a、%)
品種名 1番草
(5/12)
2番草
(7/2)
3番草
(8/18)
合計 対滄州苜蓿比 対キタワカバ比
安斯塔 38.8 39.6 32.1 110.5ab 120 93
滄州苜蓿 35.3 29.5 27.1 91.9b 100 77
キタワカバ 40.0 37.6 41.6 119.2a 130 100
和田苜蓿 40.9 38.1 29.5 108.5ab 118 91
甘農一号 40.6 48.5 38.8 127.9a 139 107
タチワカバ 41.4 44.1 38.8 124.3a 135 104
(異文字の肩文字を持つ平均値間に5%水準で有意差有り)

乾物収量が最も高かったのは甘農一号で、次いでタチワカバ、の順であったが、滄州苜蓿を除くその他の品種とは有意な差はなかった。

試験2の刈り取り毎の乾物収量と年間収量を表6−3に示した。

表6−3 1999年の乾物収量(試験2)          (kg/a)
品種名 1番草
(5/14)
2番草
(7/6)
3番草
(8/31)
合計 対キタワカバ比
中苜一号 19.1a 13.5a 12.0a 44.6a 191
キタワカバ 10.5b 7.0b 5.8b 23.4b 100
安斯塔 9.1bc 6.9b 6.1b 22.1b 90
敖漢 10.0bc 5.0b 4.1b 19.1b 82
甘農一号 8.8bc 6.5b 3.1b 18.4b 79
タチワカバ 6.0cd 4.7b 5.8b 16.6b 71
草原二号 7.8bc 4.5b 2.1bc 14.4bc 62
準格爾 3.3cde 1.9c 1.4cd 6.6c 28
注)異文字の肩文字を持つ平均値間に5%水準で有意差有り。

乾物収量が最も高かったのは中苜一号で、その他の草種に対し有意な差があった。次いでキタワカバ、安斯塔であったが、準格爾を除けばその他の草種とは有意な差はなかった。

7)利用3年間の乾物収量

試験1の利用3年間の乾物収量を表7に示した。供試したアルファルファについては生産量、維持年限ともに良く、外国などから導入した品種はおおむね同等の生産力を有し、地元の滄州苜蓿に比べ約10%収量が高いことが再確認された。李皋家村と農林科学院の収量を比較すると、施肥条件がほぼ同じだったにもかかわらず、やはり土壌の違いによるものと思われるが、李皋家村での収量は農林科学院のそれの60%前後となっており、干ばつ時にはこの傾向がさらに助長された。

今後の滄州市でのアルファルファの栽培が、これら塩類濃度の高い未利用・低利用地で拡大されることを想定し、適応性試験の本来の趣旨、すなわち「当該地域の気象や土壌及び利用環境で栽培し適応性を検証する」ということからすると、これらの土壌に比較的近似している李皋家村での試験結果を重視するのが妥当であろう。このような観点から、以下のように検討を加えた。

表7 試験1の年間乾物収量、3年間の合計乾物収量及び対滄州苜蓿比 (kg/a)
品種李皋家村農林科学院
1997 1998 1999 合計 対滄州苜蓿比 1997 1998 1999 合計 対滄州苜蓿比
安斯塔 140.1 43.0 31.1 214.2 136 204.7 201.0 110.5 516.2 129
滄州苜蓿 94.4 33.9 29.7 158.0 100 150.4 156.5 91.9 398.9 100
キタワカバ 104.4 37.1 25.4 166.9 106 159.4 241.2 119.2 519.8 130
和田苜蓿 143.3 43.7 16.5 203.5 129 216.8 191.8 108.5 517.1 130
甘農1号 142.3 45.3 16.4 204.0 129 219.2 188.6 127.9 535.7 134
タチワカバ 100.7 32.6 10.8 144.1 91 195.7 194.9 124.3 514.9 129
注)李皋家村の1998年の値は1番草のみ。

農林科学院ではキタワカバとタチワカバの収量は、その他の導入品種の収量と同程度だったのに対し、李皋家村では当該両品種の収量は、その他の導入品種の収量よりも低く、滄州苜蓿と同程度だった。李皋家村の収量と農林科学院のそれとが異なるのは、塩類濃度の高い土壌又はその土壌における干ばつに対する品種の差異と思われるが、その差を明らかにするため、次のようにした。農林科学院の収量からすると、供試品種はその能力をほぼ発揮できていると考えられるので、これに対する李皋家村での収量の比を検討する。そこで農林科学院の収量を100とした場合の李皋家村のそれを品種別年次別に図1に示した。これによれば滄州苜蓿と安斯塔の収量の低下が小さく、1999年ではキタワカバもやや小さかったのに対し、タチワカバは干ばつがひどかった1997年と1999年の収量の低下が大きかった。

農林科学院の収量を100とした時の李皋家村の収量割合

また、李皋家村での年次別の収量の推移を、利用1年目の収量に対する比で検討した。図2に李皋家村での利用1年目の収量を100とした場合の、利用2、3年目の比を品種毎に示した。安斯塔、キタワカバ、滄州苜蓿が利用3年目の収量の落ち方が少ないことがわかる。

李皋家村の'97の収量を100とした場合の各年比

上記の結果から、それぞれの品種の特長を以下に示すと次のようになる。

安斯塔生産が安定して高い。維持年限も長い。塩類の多い土壌でも比較的収量が多い。
キタワカバ塩類の少ない土壌では生産が高い。維持年限も長い。塩類の多い土壌でも比較的収量が多い。
中苜一号塩類の多い土壌では他の品種に比較し高い収量をあげる。
甘農一号
和田
タチワカバ
塩類の少ない土壌では生産が高いが、塩類の多い土壌では生産が低下する。
滄州苜蓿上記品種より収量が低いが、塩類の多い土壌ではその差は減少する。また維持年限も長い。
敖漢
草原2号
準格爾
利用2年目の収量からみると、塩類の多い土壌では収量が低い。

これらのことから、安斯塔、キタワカバ及び中苜一号を適品種と判断した。前2者は当地の半乾燥という気象条件下でも比較的高い収量が得られ、維持年限も長いことが確認されている。また中苜一号は利用2年目の結果のみではあるが、塩類濃度の高い土壌ではその他の品種より高収量が期待できるものと判断された。

引用文献
本文:「(1)飼料作物適正品種の導入」へ

調査資料一覧
(調査資料1−1)
牧草及び飼料作物の適応性試験結果報告書

(調査資料1−2)
アルファルファの「中苜一号」など10品種の適応性試験

(調査資料2)
トウモロコシの播種深さが発芽に及ぼす影響調査

(調査資料3)
粗蛋白質分析マニュアル
(MY式窒素分解・蒸留装置を使用する場合の専用分析マニュアル)

(調査資料4)
孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析

1)小樋正清ら、1999、マメ科牧草品種比較栽培調査、専門家業務報告書
2)中国農業科学院畜牧研究所、1998、中国苜蓿産業化戦略決策与総合技術検討会資料(中国語)
3)農林水産省草地試験場、平成2年、牧草・飼料作物系統適応性検定試験実施要領(改訂2版)
4)劉春田、滄州市の土壌の理化学性の概要、未発表資料