牧草及び飼料作物の草種・品種選定試験はこれまで15草種53品種実施した。ここにはそのうち95年に播種したが、盗難などでデータが得られなかった分を除く、多年生のマメ科牧草とイネ科牧草及び長大作物のうちトウモロコシの試験結果について記載した。 |
牧草及び飼料作物の現地適応性確認のために12草種・47品種を供試し、有望な2草種4品種を選定した。
具体的にはアルファルファのキタワカバ、安斯塔、中苜一号及びトウモロコシの掖単19である。特に前2者は、当地の半乾燥という気象条件下でも高収量が得られ、維持年限も長いものである。また中苜1号は、塩類濃度の比較的高い土壌では、他品種より高収量が期待できるものと判断された。トウモロコシの掖単19号は、乾物茎葉重、乾物雌穂重が多く、推定TDN収量も多い。但し、黒穂病の罹病率が高いため改良が望まれる。多年生のイネ科牧草については、トールフェスクとスムーズブロームグラスが生育が良かったが、利用2年目の秋から翌年の春にかけての強度の干ばつにより、全供試品種とも枯死したため、今回供試した草種については維持年限が短いことから、当地での栽培は期待できないものと判断された。
中国河北省滄州市における畜産業の発展には、牧草及び飼料作物の導入が不可欠である。当地域は塩類土壌が広範囲に広がり、生産性が低いことから、耐塩性の牧草又は飼料作物の導入による、粗飼料生産の増大や輪作による土壌改良が考えられている。また本地域は降雨量が極端に少ない半乾燥地域であることも相まって、地域の農業発展を阻害している。
そこで草種・品種選定試験を実施し、当地域の気象や土壌環境に適した適正品種導入に資する。
牧草・飼料作物系統適応性検定試験実施要領(改訂2版、農林水産省草地試験場、平成2年)に従い以下のとおり実施した。
1995年6月から1999年10月
多年生マメ科牧草とイネ科牧草の試験は、滄州市内に位置する農林科学院と、南皮県李皋家村(滄州市から南へ直線距離で36km)の2か所で実施した。トウモロコシは農林科学院で実施した。
土壌は黄土が堆積したもので礫が全くなく、有機物に乏しく塩類が多量に含まれているアルカリ土壌である。農林科学院の圃場と李皋家村のそれとでは土壌がやや異なり、李皋家村の土壌の方が塩類濃度が高く、経験的に作物の栽培には条件が悪いことが知られている。表層から10cmの土壌の理化学的特性はおおむね次のとおりである。
pH | EC mS/m | 三相分布 (%) | 透水性 ms-1k(22) |
|||
固相 | 液相 | 気相 | ||||
李皋家村 | 8.7 | 48.7〜164.1 | 55 | 13 | 32 | 8.4×10-5 |
農林科学院 | 8.5 | 27.4〜41.6 | 1.4×10-3 |
それぞれの試験で供試した草種及び品種は次のとおりである。
1)多年生マメ科牧草草種名 | 品種名 |
アルファルファ | 安斯塔、キタワカバ、タチワカバ、甘農一号 和田苜蓿、滄州苜蓿 中苜一号、草原二号、準格爾、敖漢 |
バーズフットトレフォイル | エンパイア |
草種名 | 品種名 |
トールフェスク | 薩夫、法恩、法雷傑、ヤマナミ、ホクリョウ |
スムーズブロームグラス | 貝康無芒雀麦草、蘭州系、アイカップ |
リードカナリーグラス | パラトン |
メドウフェスク | 蘭州系、トモサカエ |
ペレニアルライグラス | ヤツガネ、キヨサト |
オーチャードグラス | 80−41、キタミドリ、アオナミ |
ホイートグラス | 西伯利亜氷草、扁穂氷草 |
チモシー | ノサップ |
野麦 | 俄羅斯野麦草 |
草種名 | 品種名 |
トウモロコシ | 掖単19、掖単12、掖単52、掖単51 唐抗5、農大60、忻黄62、墨白、翼単24 西玉4、西玉3、滄単6 |
1996年播種の多年生マメ科牧草とイネ科牧草は1区 1.2m×5.0m=6m2、4反復、乱塊法で配置した。1997年播種のアルファルファは3反復で同様に配置した。
トウモロコシは1区 2.4m×5.0m=12m2、3反復、乱塊法で配置した。
牧草については、播種量は1a当たり(以下同じ)150gで、発芽率により播種量を調整し、農林科学院ではマメ科牧草は1996年6月15日に、イネ科牧草は同年6月20日に、また李皋家村では同年7月8日にイネ科牧草を、同年7月14日にマメ科牧草を畝幅30cmで条播した。また李皋家村における1997年8月19日のアルファルファも前述の試験と同様に実施した。
トウモロコシについては、1995年から3年間、毎年6月に実施した。畝幅60cm株間25cmで点播した。
2)施肥量及び施肥法施肥量 (kg/a) | 施肥法 | ||||
N | P2O5 | K2O | |||
マメ科牧草 | 基肥 | 1.0 | 0.9 | 0.0 | 尿素、過燐酸石灰使用 |
追肥 | 0.2 | 0.63 | 0.0 | Nは刈取り毎、('97、'98は4回、'99は3回) P2O5は李皋家村では刈取り毎、農林科学院では最終刈取り後のみ |
|
イネ科牧草 | 基肥 | 1.0 | 0.9 | 0.0 | |
追肥 | 0.7 | 0.0 | 0.0 | Nは刈り取り毎(年間4回) | |
トウモロコシ | 基肥 | 1.28 | 1.22 | 0.0 | 初年目は195kg/aの堆肥を投入 |
追肥 |
牧草 | : | 生草収量、乾物率、乾物収量、草丈、倒伏程度、再生草勢、欠株率、病虫害 | |
トウモロコシ | : | 乾物茎葉重、乾物雌穂重、総乾物重、推定TDN収量、雄穂抽出期、絹糸抽出期、収穫時の熟度、桿長、倒伏程度、病虫害 |
マメ科牧草:1997年、1998年は1番草は開花期、2番草以降は6週間毎に、1999年は最も早い品種が草高60cm又は開花期のいずれか早い時期に達したとき、中央2列(面積は3m2)を地際から高さ7cmで刈り取り、常法で乾燥した。
イネ科牧草:いずれか早い草種が出穂期に達したとき、マメ科牧草と同様に実施した。
トウモロコシ:それぞれの品種が黄熟期に達したとき、中央2列(面積は6m2)を地際から高さ5cmで刈り取り、常法で乾燥した。
1995年にトウモロコシの品種選定試験を実施したが、適度の降雨があり順調に生育した。1996年はイネ科牧草とマメ科牧草の播種後は降雨があり、翌年の1997年の1番草は収量が高かった。その後50年に1度の大干ばつとなり、夏季の猛暑も相まって収量は低くなった。年間降水量は346mmで、平年の600mmの58%であった。1997年播種のアルファルファも干ばつや虫害の影響を受け、発芽良否と定着時草勢は中程度にとどまった。その年の秋に引き続き1998年の春も降雨は少なく、その影響でアルファルファの1998年の1番草の収量は低収となった。またトウモロコシの試験では発芽がそろわず、生育に著しく差が生じたため、収量調査は実施できなかった。当年の秋から翌年(1999年)の秋まで干ばつが続き、1999年の1月から9月までの降水量は126mmと極端な干ばつで、他の農作物にも影響がでるほどであった。アルファルファも生育が不良で、刈取り回数も例年の4回に対し1回減の3回となった。そのためアルファルファの利用3年目の年間収量はさらに低下し、利用初年目の収量に比べると農林科学院では60%前後、李皋家村では19%前後になった。また多年生のイネ科牧草は全品種とも利用3年目(1999年)の春には萌芽せず、干ばつで枯死したものと判断された。
品種名 | 皋家村 1999年(利用2年目) | |
草丈(cm) | 乾物収量(kg/a) | |
中苜一号 | 68 | 45 |
安斯塔 | 53 | 22 |
キタワカバ | 50 | 23 |
敖漢 | 43 | 19 |
甘農一号 | 53 | 18 |
草原二号 | 48 | 14 |
タチワカバ | 49 | 17 |
準格爾 | 34 | 7 |
収量が安定して多い。維持年限も長い。塩類の多い土壌でも比較的収量が多かった。
(キタワカバ)収量が多い。特に降雨が多い条件下では収量が多い。維持年限も長い。塩類の多い土壌でも比較的収量が多かった。
(中苜一号)塩類の多い土壌では他の品種に比較し最も高い収量をあげた。
(甘農一号、和田苜蓿、タチワカバ)塩類が少ない土壌の場合は収量が多いが、塩類の多い土壌では収量が低下した。
(滄州苜蓿)上記品種より収量が少ないが、塩類の多い土壌ではその差は減少した。また維持年限も長い。
(敖漢、草原2号、準格爾)塩類の多い土壌では収量が低かった。
2)バーズフットトレフォイル品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | ||||
草丈(cm) | 乾物収量(kg/a) | 草丈(cm) | 乾物収量(kg/a) | |||
1997 | 1998 | 1997 | 1998 | |||
エンパイア | 61 | 85 | 91 | 37 | 31 | 11* |
観察では生育は普通だった。しかし利用2年目の秋から翌年の春にかけての干ばつにより枯死した。
3)スムーズブロームグラス(注:これ以下の各多年生イネ科牧草についての文章は、李皋家村での圃場試験結果を主に記載している。)
品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
貝康無芒雀麦草 | 103 | 166 | 126 | 56 | 33 | 6 | 14 | 3 | 12 |
蘭州系 | 105 | 165 | 105 | 57 | 117 | 13 | 13 | 40 | 54 |
アイカップ | 92 | 130 | 90 |
発芽期は7/15、発芽はやや不良だった。定着時草勢も不良で、秋期の被度も低かった。越冬性は中で、翌年の萌芽期は3/17、早春の緑度は緑で、早春の草勢は不良、病虫害は微、出穂は5/6であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は極良、出穂は4/29であった。
(蘭州系)発芽期は7/15、発芽はやや不良だった。定着時草勢も不良で、秋期の被度は中だった。越冬性やや良かった。翌年の萌芽は3/17、早春の緑度はやや鮮緑で、早春の草勢は不良、病虫害は微、出穂は5/6であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は良、出穂はやや遅く5/2であった。
(アイカップ)発芽は中程度で定着も中程度だった。越冬性は良かった。早春の草勢は良かった。病虫害は微、出穂は早かった。2年目も同様だった。
4)トールフェスク品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
ヤマナミ | 97 | 143 | 102 | 69 | 188 | 11 | 16 | 82 | 78 |
法恩 | 98 | 132 | 92 | 73 | 227 | 20 | 19 | 70 | 67 |
法雷傑 | 85 | 136 | 84 | 47 | 124 | 7 | 27 | 62 | 62 |
薩夫 | 94 | 128 | 72 | 63 | 154 | 8 | 19 | 70 | 69 |
ホクリョウ | 64 | 20 | 25 |
発芽期は7/15、発芽は中だったが、定着時草勢は不良だった。秋期の被度は高かった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期は3/17、早春の草勢は不良だったが、早春の緑度はやや鮮緑で、病虫害は微で、出穂は5/6であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢はやや良、出穂は4/30であった。
(法恩)発芽期は7/15、発芽はやや良く、定着時草勢もやや良く、秋期の被度もやや高かった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期は3/17、早春の草勢は不良だったが、早春の緑度はやや鮮緑で、病虫害は微で、出穂は5/6であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は良、出穂は4/28であった。
(法雷傑)発芽期は7/15、発芽は中で、定着時草勢はやや不良であったが、秋期の被度はやや高かった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期は3/17、早春の草勢は不良だったが、早春の緑度は緑で、病虫害は微で、出穂はやや遅く5/16であった。利用2年目の萌芽期はやや遅く3/17、早春の草勢はやや良、出穂は遅く5/11であった。
(薩夫)発芽期は7/15、発芽は良く定着時草勢も良く、秋期の被度も高かった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期は3/17、早春の草勢は不良だったが、早春の緑度は緑で、病虫害は微で、出穂は5/6であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢はやや良、出穂は4/29であった。
(ホクリョウ)発芽不良で、定着も不良だった。被度は低かった。越冬性は良かった。出穂は遅かった。2年目も同様であった。
5)リードカナリーグラス品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | ||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | ||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
パラトン | 81 | 86 | 78 | 57 | 40 | 13 | 69 | 17 |
発芽期は7/15、発芽はやや不良で定着時草勢も不良であったが、秋期の被度は中だった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期は4/1で他の草種より遅く、早春の緑度はやや緑で、早春の草勢は良く、病虫害は微で、出穂は認められなかった。利用2年目の萌芽期はやや遅く3/18、早春の草勢は中、出穂始めは5/8であった。
6)オーチャードグラス品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
80−41 | 83 | 89 | 42 | 39 | 0 | 0 | 2 | 38 | 1 |
キタミドリ | 77 | 55 | 61 | 33 | 0 | 0 | 1 | 4 | 3 |
アオナミ | 83 | 36 | 37 |
発芽期は遅く7/19、発芽は不良で、定着時草勢も不良で、秋期の被度もやや不良であった。越冬性は不良だった。翌年の萌芽期は遅く4/1、早春の葉度はやや緑で、早春の草勢は中だったが、病虫害は微で、出穂は遅く6/3であった。収量はごく少なかった。利用2年目は被度が低く調査できなかった。出穂期は5/10だった。
(キタミドリ)発芽期は遅く7/19、発芽は不良で、定着時草勢も不良で、秋期の被度も低かった。そのため翌年は調査できなかった。利用2年目も被度が低いため調査できなかった。出穂期は5/7だった。
(アオナミ)発芽不良で、定着も不良だった。被度は低かった。越冬性は良かった。出穂は遅かった。2年目も同じだった。
7)メドウフェスク品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
蘭州系 | 73 | 75 | 39 | 42 | 33 | 8 | 8 | 55 | 38 |
トモサカエ | 65 | 55 | 45 | 28* | 5 | 0 | 9 | 87 | 36 |
発芽期は7/15、発芽はやや良かったが、定着時草勢は不良であった。しかし秋期の被度はやや高かった。越冬性は中で、翌年の萌芽期は3/17で、早春の緑度は淡緑色で、早春の草勢は不良であった。病虫害は微、出穂は遅く5/23であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は中、出穂は5/7であった。被度はやや低かった。
(トモサカエ)発芽期は7/15、発芽は良く、定着時草勢はやや良かった。秋期の被度も高かった。越冬性は中で、翌年の萌芽期は3/17で、早春の緑度は淡緑色、早春の草勢はやや不良であった。病虫害は微、出穂期はやや遅く6/9であった。利用2年目の萌芽期は3/21、早春の草勢はやや不良、出穂は5/11であった。被度はやや低かった。
8)ホイートグラス品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
西伯利亜 | 41 | 7 | 24 | 43* | 5 | 0 | 1 | 5 | 23 |
扁穂氷草 | 53 | 53 | 59 | 28 | 16 | 3 | 4 | 3 | 53 |
発芽期は7/15、発芽は不良で、定着時草勢も不良であった。秋期の被度も低くほとんどなかった。越冬性は良好で、翌年の萌芽期は4/2でやや遅く、早春の緑度はやや緑、早春の草勢は中であった。病虫害は微、出穂期は遅く6/4であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は中、出穂は5/11であった。被度は2年目に高くなった。
(扁穂氷草)発芽期は7/15、発芽はやや不良で、定着時草勢は不良であった。秋期の被度も低かった。越冬性はやや良好で、翌年の萌芽期は3/17でやや早く、早春の緑度はやや緑、早春の草勢はやや不良であった。越冬性はやや良好で、病虫害は微、出穂期はシベリア西より早く5/9であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢は中、出穂は5/7であった。被度は2年目に高くなった。
9)ペレニアルライグラス品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
ヤツガネ | 44 | 48 | 36 | 26* | 0 | 0 | 4 | 79 | 12 |
キヨサト | 54 | 16 | 48 | 31 | 18 | 4 | 6 | 78 | 23 |
発芽期は7/15、発芽は良く、(定着も)定着時草勢もやや良く、秋期の被度も高かった。越冬性は良かった。翌年の萌芽期は遅く4/1で、早春の緑度は緑で、早春の草勢は良かった。病虫害は微、出穂が見られなかったので、収量調査をしなかった。利用2年目は萌芽期がやや遅く3/27で、早春の草勢も不良で被度が低く、出穂も見られず収量もなかった。そのため越冬性不良と判断した。
(キヨサト)発芽期は7/15、発芽は良く、(定着も)定着時草勢もやや良かった。秋期の被度も高かった。越冬性はやや良かった。翌年の萌芽期はヤツガネよりもやや早く3/29で、早春の緑度は緑で、早春の草勢は良かった。病虫害は微、出穂は5/23。利用2年目は萌芽期がやや遅く3/25で、早春の草勢も不良、出穂は5/10で被度が低く、越冬性は低いと判断した。
11)野麦品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
俄羅斯野麦草 | 67 | 30 | 49 | 38 | 75 | 6 | 17 | 37 | 68 |
発芽期は7/15、発芽はやや不良で、定着時草勢も不良だった。秋期の被度はやや不良であった。越冬性は中で、翌年の萌芽期は3/17で、早春の緑度はやや緑で、早春の草勢は不良だった。病虫害は微、出穂は5/23であった。利用2年目の萌芽期は3/13、早春の草勢はやや良、出穂は4/21で早かった。被度は2年目から高くなった。
12)チモシー品種 | 農林科学院 | 李皋家村 | |||||||
草丈(cm) | 収量(kg/a) | 草丈(cm) | 収量(kg/a) | 被度(%) | |||||
1年目 1番草 | 1997 乾物 | 1998 乾物 | 1年目 1番草 | 1997 生草 | (1番草) 乾物 | 1998 2番草乾物 | 播種当 年秋 | 利用2 年目春 |
|
ノサップ | 62 | 23 | 23 | 55 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
発芽期は7/15、発芽は不良で、定着も不良だった。秋期の被度は低かった。そのため翌年以降は調査不能だった。
13)トウモロコシ品種 | 年度別乾物収量 (kg/a) | ||
1995 | 1996 | 1997 | |
P3358 | 156 | 192 | - |
G4742 | 155 | 190 | - |
頂白 | 173 | - | 191 |
唐抗5 | 146 | 174 | 149 |
翼単24 | 135 | 153 | 167 |
掖単52 | 132 | - | - |
西玉3 | 134 | 175 | 201 |
滄単6 | 129 | - | - |
P3470 | 133 | 180 | - |
掖単51 | 117 | - | - |
掖単19 | - | 230 | 256 |
掖単12 | - | 181 | 199 |
農大60 | - | 168 | - |
忻黄62 | - | - | 198 |
墨白 | - | - | 195 |
西玉4 | - | - | 181 |
中生の品種で供試品種中、乾物茎葉重、乾物雌穂重が最も多く、推定TDN収量も多かった。但し黒穂病に罹病し易いためその改良が望まれる。この品種は食用の品種では あるが、次に記述したP3358よりも収量が多かったため、現時点では最も飼料用と して適当な品種である。
(P3358)日本では飼料用として代表的な品種であり、当地でも収量が多く適した品種である。しかしながら種子の入手がときには難しいことがあり、普及用としては選定できなかった。
(唐抗5)収量が比較的多く、供試した中国産のトウモロコシでは有望な品種である。しかし掖単19にはおよばなかった。
(その他の品種)頂白と墨白は飼料用で、晩生の品種である。茎葉が多く収量は多いが、倒伏に弱い。そのため機械化体系の導入が難しい。
頂白と墨白を除くその他の品種は早生から中生に属する食用の品種である。そのため概して茎葉収量は低かった。
多年生マメ科牧草ではアルファルファとバーズフットトレフォイルを供試した。うちアルファルファについては生産量、維持年限ともに良く、外国などから導入した品種はおおむね同等の生産力を有し、地元の滄州苜蓿(苜蓿はアルファルファの意)に比べ収量が多いことが判明した。
また、李皋家村の圃場試験と農林科学院のそれとでは施肥条件がほぼ同じだったにもかかわらず、李皋家村での収量は農林科学院のそれの65%前後となっており、干ばつ時にはこの傾向がさらに助長された。
今後の滄州市でのアルファルファの栽培が、塩類濃度の高い未利用・低利用地で拡大されることを想定すると、適応性試験の本来の趣旨、すなわち当地の気象や土壌及び利用環境で栽培し適応性を検証するということからすると、これらの土壌に近似している李皋家村での試験結果を重視するのが妥当であろう。
これらのことから、具体的には安斯塔、キタワカバ、中苜一号を適正品種と判断した。特に前2者は当地の半乾燥という気象条件下でも比較的高い収量が得られ、維持年限も長いことが確認されている。また中苜一号は利用2年目の結果のみではあるが、塩類濃度の高い土壌では他品種より高収量が期待できるものと判断された。
バーズフットトレフォイルは生育は良かったが、利用2年目の秋から翌年の春にかけての極端な干ばつにより枯死した。また収量もアルファルファにはるかに及ばなかった。このことから当該草種は当地域への適応性は低いと考えられた。多年生イネ科牧草はトールフェスク、スムーズブロームグラス、リードカナリー、メドウフェスク、ペレニアルライグラス、オーチャードグラス、ホイートグラス、チモシー、野麦を供試した。ホイートグラス、チモシー、野麦及びペレニアルライグラスを除くと生育は良かったが、当地の半乾燥という気象条件下では生産量が低かった。利用2年目の秋から翌年の春にかけて極端な干ばつが続き、利用3年目(1999年)は萌芽せず、干ばつで枯死したものと判断した。
3年間(播種当年と利用2年間)の生育では、スムーズブロームグラスが最も良く、越冬性、耐旱性も高かった。なかでも貝康無芒雀麦草、蘭州系が良く、日本のアイカップはやや低かった。次いで、トールフェスクが良く、なかでも薩夫、法恩、法雷傑、ヤマナミは生産量も高かったが、ホクリョウは越冬後の生育が不良だった。次いでリードカナリー、メドウフェスクがつづき、オーチャードグラスは夏の間は生育が良かったが、その他の草種とも生産量は低かった。
上記のとおり、今回供試した多年生のイネ科牧草については、利用2年目の干ばつにより枯死したため、維持年限が短いと判断されたことから、当地での栽培は期待できないものと判断された。
今回の干ばつは異常ともいえるものであるが、当地では近年小雨傾向が続いており、干ばつは常襲すると見なければならない。このことから、今後の適応性の草種・品種の選定に当たっては、世界の気象や土壌の相似性に着目し、例えばオーストラリアの塩・アルカリ土壌で選抜された草種や品種を導入するなどして、供試する草種や品種の範囲をもっと広げ、適応性調査を継続する必要がある。
トウモロコシ品種選定試験では種子の入手の関係から、同じ品種を3年間続けて供試することが難しかった。しかし中国国内育成品種の掖単19を選定することができた。掖単19は中生の品種で、供試品種中乾物茎葉重、乾物雌穂重が最も多く、推定TDN収量も多かった。当該品種は食用の品種ではあるが、前述したとおり収量が多かったことから、現時点では最も飼料用として適した品種である。但し黒穂病に罹病し易いためその改良が望まれる。
(参考)表層から10cmの土壌の理化学的特性はおおむね次のとおりである。
場所 | pH | EC mS/m |
三相分布 (%) | 透水性 ms-1k(22) |
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固相 | 液相 | 気相 | ||||
農林科学院 | 8.3〜8.7 | 19.2〜70.4 | 1.4×10-3 | |||
李皋家村 | 8.3〜8.8 | 20.5〜164.1 | 55 | 13 | 32 | 8.4×10-5 |
孔店村 | 8.3〜8.5 | 26.0〜341.0 | 56 | 20 | 24 | 1.6×10-4 |
土壌は黄土が堆積したもので礫が全くなく、有機物に乏しく塩類が多量に含まれているアルカリ土壌である。固相が多く液相が少ないことも特徴である。
試験地は中国河北省滄州市内の農林科学院と南皮県李皋家村に設置した。孔店村は参考として掲げた。
今後飼料作物の栽培が拡大すると見られる地域は、他作物が栽培し難い、塩類が多く含まれている、例えば李皋家村や孔店村の土壌のような地域である。
(上記のデータは土壌の改良分野を担当するC/Pの劉春田氏が分析した結果から、表層から10cmのデータを集め編集し直したものである。)