(調査資料2−1)

トウモロコシの播種深さが発芽に及ぼす影響調査

吉田信威1) 王慶雷2) 趙花其2)
1)農林水産省草地試験場
(当時 中国河北省飼料作物生産利用技術向上計画長期専門家)
2)滄州市農林科学院

1.目的

中国華北平原においては、トウモロコシの播種時期においては降雨が少なく、その発芽には土壌水分の多寡が大きく影響する。降水が少ない条件においては、種子が深い位置にあれば水分条件は良い反面、芽が地表に出るまでの距離が長くなり、発芽するまでの間に栄養分の消耗も大きくなるという不利な面がある。

トウモロコシの播種深さについては、滄州市農林科学院では5cm、孔店村では10cmとしていた。この試験においては、どちらがより適しているかを見極めるとともに、滄州地域の土壌条件において適正な播種深さを求めることを目的とする。

2.調査方法

(1) 供試したトウモロコシ種子

トウモロコシ種子は当年(1998年)において孔店村において播種した種子を用いた。これは交雑種で穀実を食用として利用する品種である。実験室内での発芽率は95%以上であった。

(2) 調査区の設定と播種

播種は1998年4月27日に行った。場所は農林科学院の品種比較栽培圃場の一角を用い、予め約30cmの深さに耕した。施肥は行わなかった。砕土・均平の後各設定した深さの溝を掘り、トウモロコシの種子を10粒づつ約3cmおきに置いて覆土した。

設定した播種深さはそれぞれ2.5cm、5cm、7.5cm、10cm、15cm、20cmの6段階とした。またそれぞれ3反復とした。

なお、後記するように播種後潅水により土壌表面が固結したため、3反復のうち2反復分については発芽した芽を傷つけないように気をつけながら表層を砕土した。

(3) 播種後の管理

播種後に十分な潅水を行った。これは土壌水分不足ないし試験区間の水分条件のばらつきのため発芽が不揃いにならないようにするためである。しかしこの潅水により土壌表面が固結した。なお、その後は晴天が続いたが潅水は行わなかった。

なお、播種後の潅水により土壌表面が固結し、発芽に支障をきたす可能性がでてきたため、3反復のうち2反復分については芽に損傷をあたえないように注意しながら表面2p程の土を鎌の先で砕いた。このため、砕土しなかった1反復分をを「無砕土区」、砕土した2反復分を「表層砕土区1」、「表層砕土区2」とした。

(4) 発芽数の調査

発芽数の調査は芽が出そろった2週間(14日)後の5月11日に行い、地表に芽が出ている数を数えた。なお、その後における新たな発芽は観察されなかった。

3.試験結果

(1) 播種深さ別発芽数

表.区分別発芽数
(各10粒播種したうちの発芽した数)
播種深さ
区分(cm)
無砕土表層砕土全平均
  1    2  平均
2.59  9  9  9.09.0
5  8  8  10  9.08.7
7.57  8  8  8.07.7
10  6  9  7  8.07.3
15  1  2  1  1.51.3
20  0  0  1  0.50.3
平均5.26  6  6.05.7

表層砕土の有無にかかわらず、調査した範囲(2.5〜20cm)においては播種する深さが深くなる程、発芽率は低下したが、表層砕土深さ10cmまでの発芽率の値は土壌表層が固結しない限り、実用面で支障のないものと思われる。播種深さ10cmと15cmの発芽率の差は大きく、播種深さが15cmより深い場合には実用的な発芽率ではなかった。

なお、無砕土で播種深さが15cmの試験区における発芽個体は土壌が乾燥した時に形成された割れ目の中から発芽しており、表層砕土区の15cm及び20cmの試験区での発芽個体についても表層を砕土する以前に形成された割れ目に沿って発芽したものと思われる。

(2) 表層砕土の効果

播種深さが5cmまでは表層砕土区及び無砕土区とでは明らかな違いはなく、表層砕土を行った効果は明らかではなかったが、播種深さが7.5cm及び10cmでは表層砕土を行った試験区が無砕土区より発芽率が高かった。

4.考察

(1) 播種深さ

当発芽試験は播種後潅水を行ったために、水分条件は播種深さが浅い場合においても水分不足が支障となることはなかった。このため、播種深さが浅い程発芽率が高くなった。しかしながら華北平原におけるトウモロコシ栽培においては、春播きは4〜5月、夏播き(小麦の後作)は6月となり、いずれも寡雨で土壌が乾燥しやすい時期であり、特に灌漑を行わない場合は浅播きは水分不足による発芽不良の可能性が高くなる。寡雨時の安全性からすれば深播きの方が良いが、本試験では深さ10cmまでは発芽率は実用的な範囲であることがわかった。

慣行的な播種深さが滄州市農林科学院においては5cm、孔店村では7.5cmであったということは、それぞれ平時の発芽率と降雨の多寡による発芽の安定性を考慮し、どちらにより重点を置くかという違いから来るものであると思われるが、いずれも発芽率の観点からすれば適正な範囲にあるものと思われる。

しかし本試験においても播種深さが15cmを超えると急激に発芽率が低下したことから、播種機の調整において播種深さを10cmと設定した場合は、作業時のばらつきにより10cmを超える深播きとなった部分は発芽率が急激に低下する可能性があるので留意する必要がある。

(2) 播種後の潅水

本試験で7.5〜10cmという深めの播種を行った試験区では表層砕土を行うことにより発芽率が若干向上した。このことは播種後の潅水による表層土壌の固結が発芽した芽が地表に伸張してくることを阻害し、かつ発芽後の芽が伸びるに従い固結した土壌を突き破って伸びる能力が低下することを伺わせる。

従来中国(河北省)では潅水した後に耕起・整地を行い播種するという手順をとっている。これは播種後に潅水は行わない。播種後の潅水が種子の上を覆っている土壌を固結させ、発芽に支障を及ぼすことを避けるためであり、くしくも当試験でこのことが証明されることになった。当地の土壌は水を含んだ後に乾燥する段階で固結する性質が強いため、播種後の潅水は避け、土壌の水分不足が発芽〜初期生育に支障を及ぼすと見られる場合は播種前に予め潅水を行い、土壌に十分な水分を含ませておくようにする。


本文:「(2)飼料作物栽培管理」
関連事項である「ウの(オ)播種」

調査資料一覧
(調査資料1−1)
牧草及び飼料作物の適応性試験結果報告書

(調査資料1−2)
アルファルファの「中苜一号」など10品種の適応性試験

(調査資料2)
トウモロコシの播種深さが発芽に及ぼす影響調査

(調査資料3)
粗蛋白質分析マニュアル
(MY式窒素分解・蒸留装置を使用する場合の専用分析マニュアル)

(調査資料4)
孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析