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4.プロジェクトの成果

(1)飼料作物適正品種の導入

滄州市農林科学院2名と滄州市畜牧水産局2名、計4名のカウンターパートを対象に実施した技術指導の概要とその達成度は次のとおりである。

ア.飼料作物の比較試験(現地適応性試験)手法

 (ア)飼料作物種子の収集及び分類

日本及び中国国内から飼料作物の種子を収集するとともに、分類・管理について講義及び実習を行った。

具体的には、草種の分類については参考図書「Forages(Robert F. Barnes et al, 1995, Iowa State University Press)」を基に講義し、イネ科牧草の圃場で観察と判定の実習を行うとともに、種子サンプル作りの実習をとおして、種子の形状からの草種の判別について指導した。

種子の管理と保存方法については、日本のジーンバンクシステムを参考にして、jicaプロジェクトの開始後収集されたマメ科牧草とイネ科牧草について次のとおり指導した。遺伝資源の管理については、リストにID番号、種名、導入年、導入機関名及び特記事項を加え、Lotusソフトで管理するシステムを構築した。

また種子の保存方法については、これまでのポリエチレン袋による保存から、ペットボトル(600ml)による保存に変更した。マメ科牧草種子は500g、イネ科牧草種子は250gを密閉状態で保存することが可能となった。現在日本及び中国国内から収集した牧草種子は分類し、冷凍庫及び冷蔵庫で保存している。

1999年3月までに国内外から導入した草種・品種の数は、イネ科牧草16草種60品種、マメ科牧草10草種40品種、青刈作物類3草種22品種で、合計で29草種122品種である。そのうちイネ科牧草とマメ科牧草26草種100品種について、種子を保存している。

特に当地に適した牧草として有望とされているアルファルファについては、中国国内品種を中心に28品種(系統)の種子を収集保存している。

なお、海外の育種資源を導入するためのOECDリスト及びその他の諸外国の育種資源リストによる導入手だてを併せて指導した。

カウンターパートは、草種の基本的特性について幅広い知識を得、牧草とその種子について草種を判定できるようになるとともに、今後導入が予想される新草種を判別しうる能力を高めた。また種子等の保存システムの改善すべき点を理解し、各種飼料作物の国内外からの飼料作物種子の幅広い収集や合理的な分類、保存の実施にかかる技術を修得した。

 (イ)種子検査

国際種子検査規定(農林水産省長野牧場、昭和61年)に基づく種子の発芽試験、純度検査について技術移転を行った。

中国国内で購入できる種子は一般的に夾雑物が多く、発芽率も保証されていないものが多い。導入後の種子検査は重要である。

発芽試験は、アルファルファを主体にイネ科牧草についても実施した。1997年播種のアルファルファ比較試験で供試した中国国内品種の種子の発芽率は、採種後3年以内のものであるが56〜85%で、日本の品種77〜92%、アメリカの品種75〜95%に比較して極めて低かった。

農家が採種した種子について石炭の粉と擦り合わせる硬実処理の有無が発芽に及ぼす効果について調査した。その結果、無処理区は発芽率が34%で低く、硬実が59%もあったのに対し、処理区は85%が発芽した。中国産品種の硬実率が外国産種子に比べ高いと言われており、これが発芽率の低下の要因のひとつと推定されている。カウンターパートは硬実処理の必要性について研修した。

種子の純度については、農家が採種したアルファルファ種子を用いて実施した結果、純種子率は84.6%、夾雑物他15.4%、1000粒重2.22gでやや軽かった。その原因は夾雑物の外未熟粒種子や小粒種子を含んでいたためであった。このように夾雑物等が多いのは、採種用の機械や精選機がないうえ、精選技術も未熟なためである。優良種子の安定供給が十分でない現在、農家が自家採種に対し積極的であることから、種子品質の改善策についてカウンターパートの意欲的な活動が望まれる。

蛍光反応試験(幼根に紫外線を照射した場合の蛍光反応の違いにより種子の判別を行う)については、保存しているイタリアンライグラスとペレニアルライグラスを供試し実習した。ワセユタカ(イタリアンライグラス)とキヨサト(ペレニアルライグラス)で実施した場合では、それぞれ97.7%、0%で、明確に判別でき、種子の形態が似通った1年生のイタリアンライグラスと多年生のペレニアルライグラスの分別も容易であることを研修した。

カウンターパートは、各種飼料作物の国内外から導入した種子の種子検査の実施にかかる検査手法を修得した。

 (ウ)試験手法

実験計画、圃場試験法、試験設計の作成及び結果のまとめ方について、講義と実習をとおして技術移転を行った。

a.圃場試験を行う上での留意事項

精度の高い試験を行うためには実験計画や圃場設計が重要である。圃場での試験に際しては下記に留意する必要がある。

b.データのとりまとめ方

また、今回の圃場試験の調査で得られたデータを基に、まとめ方を以下により指導した。

データはコンピュータでで処理した。ソフトウェアとしてはマイクロソフトエクセル及びアドインソフトである「EXCEL統計3)」を利用した。手法としては分散分析を行い、その結果品種間に有意差が認められれば、Duncanの多重検定を行い品種間差異を明らかにした。これら一連の手だてをコンピュータ上でデモを行い指導した。また統計処理をわかりやすく理解させるため、参考図書として「生物統計学入門(朝倉書店)」を使用した。

c.栽培試験の成果

牧草及び飼料作物の栽培試験の細目に関しては、牧草・飼料作物系統適応性検定試験実施要領(農林水産省草地試験場、平成2年、改訂2版)に基づき、現地適応性試験を実施し、マメ科牧草類、イネ科牧草類及び青刈作物類(とうもろこし、ソルガム)の比較試験手法について技術移転を行った。

牧草、飼料作物の現地適応性試験の経過と概況は次のとおりである。また、その試験結果については「(調査資料1)牧草及び飼料作物の適応性試験結果報告書」のとおりである。

カウンターパートは、各種飼料作物の現地適応性確認のために必要な試験手法、すなわち試験設計書の作成・調査・成績とりまとめの基本的な技術について理解を深め、データの処理と統計処理の一連の技術について修得した。

 (a)マメ科牧草類

1995年に農林科学院に試験地を設置し、試験を開始した。しかし、作物の盗難等で十分な試験が実施できなかったことから、1996年に農林科学院内の別の圃場に試験地を移した。また、塩分濃度の高く土壌条件の悪い李皋家村にも同様に同試験地を設置し、試験を開始した。1996年に供試した草種・品種は2草種7品種で、これらについては継続的にデータを収集した。しかし李皋家村の試験地は集落からも遠いため十分に目が届かず、1998年は盗難の多発によりデータの欠損が多かった。また、1997年に李皋家村にアルファルファの供試品種を増やし新たに試験を開始したが、干ばつや虫害の影響で一部の品種は定着せず、データをとることができなかった。また、1998年に同様に農林科学院にアルファルファ18品種を播種したが、干ばつや虫害の影響で調査を実施することが困難な状況になったことから、1999年に追播したところである。

1995年播種の試験では、アルファルファ4品種、アカクローバ2品種を供試し、試験を実施した。アルファルファの生育は良好であったが、アカクローバは越冬しなかった。

1996年播種の試験では、アルファルファ6品種、バーズフットトレフォイル1品種を供試した。アルファルファは滄州地域で利用されている在来の滄州苜蓿(苜蓿はアルファルファの意)に比べ外国や中国の滄州地域外から導入した品種(安斯塔、タチワカバ、キタワカバ、甘農1号、和田苜蓿)の生育が良好で、収量は滄州苜蓿より高かった。農林科学院と李皋家村の両試験とも同じ傾向にあり、外国などから導入した品種はおおむね同等の生産力を有し、維持年限も長く、滄州苜蓿より収量が高かった。また全供試品種とも、李皋家村での収量は農業科学院のそれの65%程度となっており、干ばつ時にはさらにこの傾向が助長された。適正品種として具体的には日本の品種キタワカバとアメリカの品種安斯塔が選抜された。両品種とも当地の半乾燥という気象条件下でも高収量が得られ、維持年限も長いものである。

バーズフットトレフォイルは生育は良かったが、利用2年目の秋から冬にかけての干ばつにより枯死した。また収量もアルファルファにはるかに及ばなかった。このことから当該草種は当地域への適応性は低いと考えられた。

1997年播種の試験では、供試したアルファルファ品種のうち、定着し調査可能だったのは8品種のみであった。利用2年目の収量では中国の新品種中苜1号が他の供試品種(安斯塔、キタワカバ、タチワカバ、和田苜蓿、甘農1号、敖漢、草原2号、準格爾)に比較し生育が良好で、日本で一般的なキタワカバの収量を100とした場合の比が190と高かった。塩類濃度の比較的高い土壌では他品種より高収量が期待できるものと判断された。

 (b)イネ科牧草類

1995年に農林科学院に試験地を設置し、試験を開始した。しかし、作物の盗難等で十分な試験が実施できなかったことから、1996年に農林科学院内の 別のほ場に試験地を移した。また、塩分濃度の高く土壌条件の悪い李皋家村にも同様に試験地を設置し、試験を実施した。

今回供試した多年生のイネ科牧草の中では、スムースブロムグラス、トールフェスクの生育が良好で、特にスムースブロムグラスの貝康無芒麦草、蘭州系の中国の2品種はイネ科牧草の中では収量は高かった。ペレニアルライグラス、オーチャードグラス、チモシー、メドウフェスク、ホイートグラス、野麦の生育が不良で、特にホイートグラス、チモシーの収量は低かった。

但し、利用2年目の秋から翌年の冬にかけての極端な干ばつのため、両試験地とも全供試品種が枯死した。このため今回供試した多年草のイネ科牧草については当地での栽培は期待できないものと判断された。今後は気象と土壌の類似している地域の育成品種、例えばオーストラリアの塩・アルカリ土壌で選抜された草種や、耐旱性の強い品種などを導入し、適応性の高い草種や品種の選定試験を継続的に実施する必要がある。

c.青刈作物類

1995年から農林科学院の試験地で4年間にわたり試験を実施した。4年目の1998年は干ばつにより発芽が揃わず、生育に著しく差が生じたため収量調査は実施できなかった。

ソルガムの比較試験手法の技術移転については1995年に中国の品種2品種を用いて実施した。1996年以降、試験地の移転と面積不足から、ソルガムについての品種の比較試験は実施していない。当地ではソルガムは一部酒の原料として契約栽培されているが、飼料としての栽培事例はなく,栽培面積も少ない。このような現状のため、農林科学院ではソルガムの研究は盛んではない。

とうもろこしの品種比較試験では、種子の入手の関係から、同じ品種を3年間続けて供試することが難しかった。そのなかでも中国の掖単19は中生の品種で、供試品種中乾物茎葉重、乾物雌穂重が最も高く、推定TDN収量も高かった。当該品種は食用の品種ではあるが、上述したことから現時点では最も飼料用として適当な品種である。但し黒穂病の罹病率が1996年、1997年の両年とも22%程度と高く、黒穂病に対する耐病性が低かった。今後耐病性の高い品種の育成が望まれる。

イ.飼料作物草種・品種の特性解明技術

この項目は、牧草栽培の経験のないカウンターパートが、牧草類の特性を理解するための一手法として、品種導入分野の中の一項目として取り上げたものである。

飼料作物草種・品種の特性解明技術については、oecd牧草種子品種証明制度の事後検定手法の一部「牧草品種証明業務手引き(農林水産省長野牧場、昭和63年)」を用いて、アルファルファおよびイネ科牧草の特性調査手法について技術移転を行った。

具体的には、カウンターパートが通常業務のなかで身につけておく必要のある、特性を把握するための草丈、開花期、病害程度等のポイントを中心にして、併せて育種や種子増殖を実施するに際して必要な特性解明技術について、特に重要と思われるアルファルファを主として、圃場での個体植えによる播種翌年の春の草丈、月間生長量、開花日、花色、小葉の長さや幅、草姿や病害などの特性調査手法や採種圃場における別の品種や異種の個体の混入割合などの検査手法に関し、講義及び実習を通じて技術移転を行った。

また病害サンプルの採種、標本作製及び草地試験場の牧草病害ホームページを利用しての同定法を指導した。

カウンターパートは、牧草類の形態や出穂・開花の早晩性及び成長速度などの生育特性等を理解するとともに、現地において特に有望な草種であるアルファルファについて、今後育種を行う場合の異個体の識別や品種の特性解明と現地での採種や種子増殖を実施できる技術水準に達している。

以上のとおり、飼料作物適正品種導入に関しては、自ら試験を実施して結果を評価する、継続した活動の実施のために必要な基礎的な技術移転が達成されたと認められる。


(調査資料1−1)牧草及び飼料作物の適応性試験結果報告書
(調査資料1−2)アルファルファの「中苜一号」など10品種の適応性試験

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