U:世の中の仕組みについて
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8:儲けはどこに行ってしまったの

記者:前回のお話で余分に働いているから利益が生まれることがわかりました。余分に働いていても、それが見えにくいわけもわかってきました。
 それでは剰余労働によって生産された剰余価値はどこへ流れていくのでしょうか。
3世:新しいテーマですね。説明しましょう。賃金以上に働いて生産された生産物はお金に換えられます。そして資本家の生活費、事業を拡大するための資金、財産として蓄積されたりします。労働者の生活はどれだけ向上しても、生活費は必要労働とみなされます。その分、資本家の利益は減りますが。

やっぱり社会全体で考える

3世:資本主義社会は他の人のために物を生産する分業社会です。したがって、生産されて資本家の手元にある生産物はそれを必要としている人に渡らなければならない。
 ところが、資本主義社会は貨幣経済の社会ですから、売買されなければなりません。物と同時にお金が流れていきます。この流れを考える場合、三つの立場を考えればいい。
1.生産手段を生産する第一部門の資本家
2.生産手段に手を加えて生活資料を生産する第二部門の資本家
3.生活資料を消費して労働力を生産している労働者
3世:この流れを記号で次のように表します。
cは生産手段(生産に必要な資材)、vは必要労働(労賃)、mは剰余労働(余分に働いた分)、wは生産物の合計
第一部門(金属・機械・燃料など):c1+v1+m1=w1
第一部門の労働者はv1の生活資料を買い、c1にv1とm1分の労働力を付け加えたw1を生産します。
第二部門(衣料・食品など):c2+v2+m2=w2
第二部門もc2にv2とm2を加えてw2の生産物を生産します。

単純再生産

記者:仮に次のような生産が行われたとします。
 4000(c1)+1000(v1)+1000(m1)=6000(w1)
 2000(c2)+1000(v2)+1000(m2)=4000(w2)
記者:つまり必要労働時間 (v) と剰余労働時間 (m) が同じということですね。と言うことは、給料の倍働いたということですね。
3世:そう言うことになります。続けます。
3世:6000(w1)は4000(c1)と2000(c2)にそれぞれ配分され、次の生産が行われます。
 4000(w2)のうち2000(w2)は1000(v1)と1000(v2)にそれぞれ分配され、第一・二部門の労働者の生活で消費され、新しい労働力が1000(v1)と1000(v2)だけ生みだされます。
 4000(w2)のうち残りの2000(w2)は第一・二部門の資本家の生活費になります。
 ふたたび生産された生産物は増資が行われない限り、前回とおなじ6000(w1)と4000(w2)で何ら増減はありません。でるからこの一連の流れを単純再生産といいます。

生産物が再生産に向け配分される仕組み
生産部門生産手段必要労働剰余労働全生産物
第T部門
1000 (v1)
1000 (m1)
2000 (w1)
第U部門
2000 (c2)
2000 (w2)
記者:ここまでは理解できます。

第一部門と第二部門は連動している

3世:続けます。社会全体で見ると、第一部門と第二部門の間には密接な関係があります。
それは第一部門の労働者と資本家は第二部門から生活資料を買わなければならないという ことです。
過不足なくこれを行うには(V1)+(M1)=(C2)の関係式が成りたっていなければなりません。
記者:生産する物によって生産に要する時間が違いますが、それはこの計算ではどう考えればいいのですか。
3世:確かに、造船業とお菓子屋さんでは資金の回転の速さが違います。しかし、この計算は抽象的な計算ですから、製品が完成しているかどうかは別に問題にしません。
 船が半分しかできていなければ0.5隻と数えればいいだけです。これらの数字は労働時間と考えても、お金と考えてもいいです。
 ちょうど商品の客観的な価値は誰にも分かりませんから、主観的な評価による価格で売買するしかありません。
 この段階では社会全体としてこうなっているという説明しかできません。価値と価格の関係はもっと先のテーマです。

みんな浮き草のように流れている

3世:そう感じるのは当然です。簡単に分かれば、だれも余分に働いたりしませんからね。労働者は生活をするために賃金をもらっていますが、あたかも労働したからその分の報酬をもらっていると錯覚してしまいます。
 資本家もそう思いこんでいる。なぜなら、働くのも働かないのも労資の契約によって決まるし、賃金は後払いだし、能率は人によって差があるし、たとえ剰余労働をしても、それが売れて利益として回収されなければ形にならないからです。
 つまり、個々の労働者や資本家は市場という流れのなかをただよう漂流物でしかありません。したがってまず、資本の流れにそって考えるしかないのです。私たちもそうしましょう。

貨幣資本は悩んでいる

3世:続けます。資本はたえず増えようとする貨幣の流れでした。それを記号で表すとG-G'-Gとなります。Gは元金でG'は増加した利益分を加えた売り上げ分。つまり資本はまず貨幣資本として出発します。
 貨幣資本にとって最大の関心事はどれだけ儲かるかということです。つまり、どれだけの資金でどれだけの儲けがえられるかということです。
 式で表すと売上げ(G’)−費用(G)=利潤(g)ということになります。できるだけ安く買って、できるだけ高く売る。その差が利潤です。
 売上げの額は市場で決まります。資本家の自由にはならない。費用はある程度は抑えられるのですが、それも市場の影響も受けます。資本家はいくら努力してもある程度以上は利潤を増やすことはできません。資本にとっての大きな限界ですね、これは。
  記者:自分の会社の従業員が余分に働いていても、売上げによって利益が出たり出なかったりするわけですね。
3世:そうです。

生産資本も悩んでいる

3世:これまでは資本の量的な大きさについてみてきましたが、これを時間の流れで見ると、意外な盲点が見えてきます。それを表にすると下のようになります。
量の視点資本の内容時間の視点
不変資本(C) 機械・建物 固定資本
原料・燃料 流動資本
可変資本(V) 労賃
3世:つまり、一度に流れて製品に含まれてしまう資本と少しずつしか流れない資本があるということです。少しずつしか流れない固定資本は、何度も生産に使われなければ、投資は無駄になります。
 工場を建てても、一台しか自動車を生産しなかったら、大変な無駄になります。たとえばここに100万円の機械があるとします。これで100万個の製品を作れば100万円÷100万個=1円/1個で一つの製品に機械の費用が1円ずつ移ったことになります。
 ですから、資本は少なくとも機械への投資分を回収するまでは生産しなければなりません。資本が回転しなければならないのはそのためです。
記者:具体的なので、よくわかります。

流通期間は無駄

3世:時間のメガネで見るともう一つ問題が見えてきます。それは製品が売れるまでの時間の問題です。
 これまではこの流通期間を無視して考えてきましたが、実際には、製品が売れて、売上金が回収されてはじめて資本は次の生産に取りかかることになるのです。売れなければ売れるまで生産が始められません。
  記者:そうですね。投資して生産した製品は出荷してしまったのですからね。
3世:生産資本にとって無視できないこの流通期間。この壁を資本は自分を生産資本と流通資本(流動資本ではない)に分割して解決します。
 つまり、生産物が市場で売れきれるまでの期間、生産資本がゼロになり生産がストップしないように流通資本を分離するのです。価値を形成するのが労働だとしたら、生産の中断は価値形成の中断を意味します。
記者:トヨタがトヨタ自動車販売とトヨタ自動車工業に分かれていたことがありますが、あれですね。Time is moneyですね。

資本の回転の速さが重要

3世:実は、Time is moneyは流通期間だけの問題ではなく、生産期間でも問題になります。それは資本の回転の速さについてです。
 鮎の友釣りを例に説明しましょう。Aさん、Bさん、Cさんの三人が一泊で鮎釣りに行ったとします。
 友鮎となる鮎をAさんは100円で小型の鮎を、Bさんは400円で中型の鮎を、Cさんは800円で大型の鮎をそれぞれ買いました。鮎は友鮎とおなじ大き鮎しか釣れないとします。二日間の三人の成績は次のようになりました。

名前資本取れ高売上げ利潤利潤率
Aさん100円8尾800円700700÷100=7.0
Bさん400円2尾800円400400÷400=1.0
Cさん800円1尾800円0÷800=0
3世:売上げは同じでも、利益率はAさんが一番高いことになります。Aさんは100円の元手で700円の利益ですが、Cさんは800円の元手で0円です。Aさんが100円の友鮎を8尾買って釣りをしていたら、6400円の売上げがあったかも知れません。Cさんとの差は歴然です。
記者:なるほど。これはおもしろいですね。まさにTime is moneyだ。
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