U:世の中の仕組みについて
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7:忙しい皇帝の仕事

記者:前回のお話で、私たちが余分に働いている可能性があることがよく分かりました。でも、何かしっくりきません。だまされているような気にもなります。
私たちが毎日眼にするのは、みんなが競争で利益を争っている姿ですから。もうすこし、具体的に説明していただけますか。

みんな浮き草のように流れている

3世:そう感じるのは当然です。簡単に分かれば、だれも余分に働いたりしませんからね。労働者は生活をするために賃金をもらっていますが、あたかも労働したからその分の報酬をもらっていると錯覚してしまいます。
資本家もそう思いこんでいる。なぜなら、働くのも働かないのも労資の契約によって決まるし、賃金は後払いだし、能率は人によって差があるし、たとえ剰余労働をしても、それが売れて利益として回収されなければ形にならないからです。
 つまり、個々の労働者や資本家は市場という流れのなかをただよう漂流物でしかありません。したがってまず、資本の流れにそって考えるしかないのです。私たちもそうしましょう。

貨幣資本は悩んでいる

3世:続けます。資本はたえず増えようとする貨幣の流れでした。それを記号で表すとG-G'-Gとなります。Gは元金でG'は増加した利益分を加えた売り上げ分。つまり資本はまず貨幣資本として出発します。
 貨幣資本にとって最大の関心事はどれだけ儲かるかということです。つまり、どれだけの資金でどれだけの儲けがえられるかということです。
 式で表すと売上げ(G’)−費用(G)=利潤(g)ということになります。できるだけ安く買って、できるだけ高く売る。その差が利潤です。
 売上げの額は市場で決まります。資本家の自由にはならない。費用はある程度は抑えられるのですが、それも市場の影響も受けます。資本家はいくら努力してもある程度以上は利潤を増やすことはできません。資本にとっての大きな限界ですね、これは。
記者:自分の会社の従業員が余分に働いていても、売上げによって利益が出たり出なかったりするわけですね。
3世:そうです。

生産資本も悩んでいる

3世:これまでは資本の量的な大きさについてみてきましたが、これを時間の流れで見ると、意外な盲点が見えてきます。それを表にすると下のようになります。
量の視点資本の内容時間の視点
不変資本(C) 機械・建物 固定資本
原料・燃料 流動資本
可変資本(V) 労賃
3世:つまり、一度に流れて製品に含まれてしまう資本と少しずつしか流れない資本があるということです。少しずつしか流れない固定資本は、何度も生産に使われなければ、投資は無駄になります。
 工場を建てても、一台しか自動車を生産しなかったら、大変な無駄になります。たとえばここに100万円の機械があるとします。これで100万個の製品を作れば100万円÷100万個=1円/1個で一つの製品に機械の費用が1円ずつ移ったことになります。
 ですから、資本は少なくとも機械への投資分を回収するまでは生産しなければなりません。資本が回転しなければならないのはそのためです。 記者:具体的なので、よくわかります。

流通期間は無駄

3世:時間のメガネで見るともう一つ問題が見えてきます。それは製品が売れるまでの時間の問題です。
 これまではこの流通期間を無視して考えてきましたが、実際には、製品が売れて、売上金が回収されてはじめて資本は次の生産に取りかかることになるのです。売れなければ売れるまで生産が始められません。
記者:そうですね。投資して生産した製品は出荷してしまったのですからね。
3世:生産資本にとって無視できないこの流通期間。この壁を資本は自分を生産資本と流通資本(流動資本ではない)に分割して解決します。
 つまり、生産物が市場で売れきれるまでの期間、生産資本がゼロになり生産がストップしないように流通資本を分離するのです。価値を形成するのが労働だとしたら、生産の中断は価値形成の中断を意味します。
記者:トヨタがトヨタ自動車販売とトヨタ自動車工業に分かれていたことがありますが、あれですね。Time is moneyですね。

資本の回転の速さが重要

3世:実は、Time is moneyは流通期間だけの問題ではなく、生産期間でも問題になります。それは資本の回転の速さについてです。
鮎の友釣りを例に説明しましょう。Aさん、Bさん、Cさんの三人が一泊で鮎釣りに行ったとします。
 友鮎となる鮎をAさんは100円で小型の鮎を、Bさんは400円で中型の鮎を、Cさんは800円で大型の鮎をそれぞれ買いました。鮎は友鮎とおなじ大き鮎しか釣れないとします。二日間の三人の成績は次のようになりました。

名前資本取れ高売上げ利潤利潤率
Aさん100円8尾800円700700÷100=7.0
Bさん400円2尾800円400400÷400=1.0
Cさん800円1尾800円0÷800=0
3世:売上げは同じでも、利益率はAさんが一番高いことになります。Aさんは100円の元手で700円の利益ですが、Cさんは800円の元手で0円です。Aさんが100円の友鮎を8尾買って釣りをしていたら、6400円の売上げがあったかも知れません。Cさんとの差は歴然です。
記者:なるほど。これはおもしろいですね。まさにTime is moneyだ。
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