U:世の中の仕組みについて
金ちゃんの征服物語
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5:キャピタル3世の誕生

記者:前回はいろんな商品の価格を表す手段でしかない金が逆襲に出て、支配者になろうと決意するところで終わりました。さあ、今回はいよいよキャピタル3世の登場です。前回に続き、よろしくお願いします。
3世:そですね。わがキャピタル家にとってもその頃は重要な時期でした。

みんな悩んで大きくなった

【記者の解説】

驚いてはいけない。分裂した金一族を統一し、キャピタル家の全盛期をきづいたのはわれらの悩める金ちゃんそのひとだったのだ。自分の価値はどうしたら表せられるのか。

悩み、悩み、悩み抜いてみつけた結論。それは自分を増やすことだった。自分がどれだけ増えたかを表す増加率こそ金ちゃんの価値の物差しなのだ。これは他の商品にはない金ちゃんだけの特権なのだ。

【記者の解説】

われらの金ちゃんがすごいのは、この理論を考えただけではなく、この理論にもとづく経済システムを確立したことである。もう金ちゃんとは呼べない。キャピタル3世を呼ばなければならない。しかし、このキャピタル家一族の成功までにはキャピタル1世、2世の試行錯誤があったおかげである。

記者:失礼しました。それではお願いします。

キャピタル1世の失敗に学べ

3世:商品界の王、自己増殖する貨幣の冒険者、つまり資本への脱皮の第一歩を踏み出したのはキャピタル1世だったのです。1世は商業活動をとおして自己増殖をしようと考えました。
3世:ところで、商業による自己増殖には限界がありました。たとえば、ある商品を金100グラムで仕入れ、客に金105グラムで売って5グラムの利益を得たとします。
 しかし、客が仕入れ元へ行って直接仕入れてしまったら、金5グラムの利益は得られないのです。たまたま利益があがっているだけなのです。

キャピタル2世の仕事

3世:私の父のキャピタル2世は金を貸して利子をとりました。しかし、100グラムの金を貸して105グラムの金を回収してもこの5グラムがどこから生まれたのか説明できなければ、この利益は偶然にすぎないかもしれません。
3世:キャピタル1世も2世も利益を個別に考えるだけでした。もしこの利益が誰かの損失で成りたっているとしたら、社会全体ではプラス・マイナス・セロであり、何ら自己増殖したわけではないのです。

社会全体で見る

3世:そこで私は社会全体で考える必要があることに気がついたのです。
記者:それはどういうことですか。
3世:順番に考えていきましょう。まず、人間は自然に働きかけ、原料を手に入れ道具を作る。原始時代にいい形の石を見つけてきて石器を作ったようなイメージです。その道具(石器)で木の実を砕いたり、動物を殺したりして食糧(生活手段)をえる。それを食べて、また、働く。おまけに排泄もする。
記者:はい、そうですね。
3世:これを整理すると、
自然+労働力→生産手段+労働力→生活資料
→労働力+廃棄物
と言うことになる。つまり自然に手を加えて生産手段を生産し、さらにそれで生活資料を生産して、それを消費して労働力を作りだしている。回り道しているんです。

流れているのは労働力

3世:自然+労働力→生産手段+労働力→生活資料+廃棄物
→労働力。
 このうち自然(物)は労働力をいれる器だと考えれば、この流れは次のようになります。
【手記】
人間はいない自然(0)
自然を加工した自然(0)
労働力(1)
生産物ができた自然(0)
生産物(1)
生産物に手を加えた自然(0)
生産手段(1)
労働力(2)
生活資料ができた自然(0)
生活資料(3)
生活資料を消費した自然(0)
新しい労働力(3)
新たに自然を加工した自然(0)
新しい労働力(3)
3世:この流れをよく見ると、流れているのは労働力だけだということがわかります。生活で生みだされた新しい労働力(1)と(2)がふたたび労働して新しい生産物(3)を産みだしているわけです。
記者:生産手段(鉄や機械など)をつくる労働の量が1で生活資料(衣類や食料など)をつくる労働の量が2でその結果できる生活資料に含まれる労働の量が1+2で3になるわけですね。それを全部消費したとすれば、その結果生まれる新しい労働力(働く元気)に含まれている労働の量も3というわけですね。この表はそのように見ればいいのですね。
3世:はい、そのとおりです。この新しく生まれた労働力に含まれている過去の労働の量を労働力の価値といいます。これは大切な概念です。生の自然には労働が含まれていませんから、それに含まれる労働の量はゼロです。
記者:しかし、これだけでは同じことのくり返しにすぎない。何も増えていませんね。
3世:そうです。ここからが大切です。分かると簡単ですが、このなかに気づきにくい秘密が隠されているのです。

死んだ労働と生きている労働

3世:おじさんのキャピタル1世もおとうさんのキャピタル2世も扱ったのは商品と貨幣だった。言い換えれば商品や貨幣に含まれている過去の労働しか扱わなかった。過去の労働とは死んだ労働、労働力の化石だ。それは決して増えない。
 増えるとすればそれは生きている労働だ。そう私は考えました。これはわかってしまえば簡単なことだけど、はじめはなかなか納得できない。

記者:はい。よくわかりません。

生きた労働は生きている

3世:考えてもみたまえ、人間は消費した生活資料とおなじ量しか生産しないだろうか。
 たとえば、先の式の@を5時間の労働とする。生産された生産手段に含まれた労働時間は5時間。
 Aも5時間とすれば、生産された生活資料に含まれている労働時間@+Aは5時間+5時間で10時間ということになる。10時間の過去の労働が含まれた生活資料を消費してできる新しい労働力は10時間の過去の労働で生みだされたわけだ。
3世:この労働者は10時間しか労働しないだろうか。いや、11時間でも12時間でも働く。家族のためだったり、脅されたりして働く。実際19世紀には16時間以上も働かされた。
 10時間の労働で生産された生活資料を消費した労働者が14時間働けば、14時間−10時間=4時間で4時間も余分に働いていることになる。
 時給1000円なら14000円−10000円=4000円で4000円の利益だ。自動販売機に10000円入れても、出てくるのは切符とおつり10000円分。何も増えない。増やされるのは生きている人間だけさ。
記者:泥棒じゃないですか。
  3世:シッ、声が大きいよ。
気まずい沈黙。(遠くでパトカーのサイレンの音)
 キャピタル家の繁栄の秘密をあかしたキャピタル3世は静かに続けました。
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