U:世の中の仕組みについて
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19:人間や自然はどうするの

記者:18回にわたり、キャピタル3世のご苦労を語っていただきました。
3世:いや、私は資本主義経済の仕組みの基本設計をしただけです。現実の経済社会はわが金一族の人びとの日々の営みでつくられたのです。
 しかも、私の話は19世紀のドイツの思想家カール・マルクスの大著「資本論」と20世紀の日本の経済学者鈴木鴻一郎の「経済学原理論」によるところが大部分です。
記者:そうなんですか。それではこれらの思想家のお話をお聞かせいただけないですか。
3世:わかりました。それでは今回はカール・マルクスからお話します。

利潤が生まれる根拠を解明したマルクス

3世:マルクスは産業革命がヨーロッパの先進地ですすみ、その結果うまれた資本主義社会が多くの問題をはらんでいることが急速に明らかになっている頃の人です。
 彼は新しく成立した資本主義社会の矛盾をその犠牲者である労働者の立場から分析しました。特に利潤はなぜ生まれるのかを論理的に説明しようと、「剰余価値学説」に関する膨大なノートを残しています。
記者:3世のお話で言えば、「働きすぎている。」の箇所ですね。3世のお話を伺いながら、3世は資本家の味方なのか、労働者の味方なのかわからなくなることがありました。
3世:そうですか。あなたのおっしゃるとおり、マルクスは利潤が生まれる根拠を労働者が必要以上に働きすぎていることに見出しました。

労働価値説は仮説だ

3世:マルクスは利潤(剰余価値)を説明するために、商品の価値は労働時間で表すことを考えました。しかし、前に説明しましたように労働の質は労働者や製品によって違います。この場合の労働時間というのは、あらゆる労働をその時代の生産水準での単純労働に置き直した数字です。
 商品の価値が労働時間で表されることはあくまでも説明のための前提であって、個々の商品について言っていることではないのです。ですから、時計でそれを測定して数字で表しても意味がありません。
記者:そうですね。「社会全体で見なさい。」と3世は何度もおっしゃいました。
3世:そのとおりです。この仮説を前提として、資本主義経済の全体像を説明することができれば、労働価値説は真実ということになるのです。
記者:それで、その証明は成功したのですか。

労働価値説には前提がある

3世:成功したとも、しなかった、とも言えます。
記者:そうなんですか。
3世:いや、成功したけれどそれにはいろいろな前提があったと言った方がいいですね。
記者:何ですか、その前提とは。
3世:マルクスは商品の価値をつくっているのは労働であるとし、分析の対象を労働だけに限定したことです。たとえば、人間の手がかかっていない物は価値はないとして、自然を論理から排除してしまいました。
記者:金ちゃんの最初の悩みは「物を作った時の苦労をどうやって他の人にわかってもらうか」でしたから、分析の対象が労働になることは当然な気がします。

「労働力は商品」とみなされた結果は

3世:そうですね。しかし、その結果どんなことになったか一つ一つ見ていきましょう。
 資本主義社会は労働力が商品とみなされていることです。このことにより利潤が生まれる仕組みが明らかになりました。
 しかし、労働力を生みだすのは人間です。景気にあわせて人口を資本のように増減するわけにはいきません。
記者:そのためにどのような制約が生じているのでしょうか。
3世:たとえば、生産技術が高度化し、工場の機械設備は高価で巨大になれば、資本は労働者を解雇します。その結果、労働者は資本主義経済のシステムの外に追いやられてしまいます。
記者:それでも労働者は生きていかなければなりませんし、企業も作った製品を買ってくれる人がいなくなりますから困りませんか。
3世:そうです。つまり、資本主義経済の仕組みは、資本主義のシステムの外部にシステムの矛盾を引き受けてくれるクッションのような仕組みがないと成立しないということです。

資源と廃棄物は経済学の対象ではない

3世:前提の二つめは、「資本論」では労働が加わっていない物は価値がないとみなす一方で、資源の供給や廃棄物の処理は無限にできると考えられています。
 しかし、実際にはそうではありません。資源は有限です。環境破壊やゴミの廃棄の問題は現代文明のウイークポイントです。資本主義の論理は人間や自然が必要なときには必要なだけ調達できることが前提となっています。
記者:労働力の件も自然の件も経済システムの外部の問題が資本主義の仕組みのネックになっていますね。
3世:そうです。「資本論」で分析して証明されたのは、人間社会の労働が市場原理でどのようにコントロールされているかということだけです。
記者:そのことによって、利潤の生まれる秘密とその配分の仕組みが明らかにされたのですね。

剰余価値説が問うている課題

3世:おっしゃるとおり、剰余価値説が証明できたことはおおきな前進でしたが、それは同時に新しい問題を提起しました。
記者:どのような問題ですか。
3世:分配の問題です。余分に働いて生みだされた利潤はどのように配分されるべきか。その一つの方法は政治により利潤の配分を行う道でした。
 これをめぐり社会主義運動や革命がおきました。
記者:その道はどうもうまくいかなかったようですね。
3世:そうです。もう一つは市場原理を至上の原理として追求する道です。資本主義と市場原理は切り離せないものですが、相反する性格ももっています。
 資本とはたえず増えようとする貨幣の動きでした。しかし、資本は利潤を求めて競争すればするほど、利潤は平均化され、その格差は縮小に向かいます。
記者:なるほど。言われてみればそのとおりですね。だから、市場原理は簡単には否定できない原理なのですね。
 それで、市場原理が利潤の配分にはふさわしいという結論になったのですか。
3世:それが、簡単には結着がつかいな問題なのです、これは。
記者:それでは次はこのことについてお願いします。
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