U:世の中の仕組みについて
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20:ありがとうございました

記者:「資本論」は商品の価値をそれに含まれる労働の量(単純労働時間)で表されるとする仮説によって、利潤は余分に働くことから生まれることを論理的に証明しました。
 しかし、資本主義は労働者や資源や環境など自然の問題を排除していましたが、それらが資本主義経済が成りたつ前提でした。
 このことと資本主義経済の基本原理である市場原理は何か繋がりがあるような気がします。本日はこのことについて考えてみます。

アダム=スミスとマルクス

記者:はい、わかりました。ところで、市場原理とは何でしょう。
3世:そうですね。より安く買い、より高く売ろうとする値段の競争みないなことです。
記者:そうですね。より安く買おうとする「需要」側とより高く売ろうとする「供給」側が互いに競争しあうことによって、もっとも妥当な商品の価格が自動的に決まる仕組みですね。
 この原理によって配分される商品の量が必然的に決まります。人為的な影響力を用いることなく自由な競争によって価格や消費量が決まることが市場原理の利点でした。
記者:市場原理と資本主義は選挙と民主主義の関係に似ていますね。
3世:うまいことを言いますね。アダム=スミスという18世紀のイギリスの経済学者は市場における自由な競争によって経済活動は自動的に調整されると考えました。
 しかし、マルクスはこれを批判しました。労働者がひどい労働条件で働かされているだけでなく、資本がより多くの利潤を求めて競争し続ければ、やがて生産過剰になり、失業者も増えて、市場の自動調整機能がはたらなくなると考えました。恐慌ですね。
 市場原理と資本主義は選挙と民主主義の関係に似ていますね。
記者:19世紀の半ばには、実際にその恐慌が起きるようになりました。

世界恐慌とケインズ

3世:そうです。だから、資本主義はやがて行き詰まり、崩壊するだろうと当時の社会主義者たちは考えました。
 実際ロシアでは社会主義革命がおきました。さらに、1929年には世界恐慌がおき、資本主義は破局に向かうだろうと思われました。
記者:しかし、アメリカのフランクリン=ローズヴェルト大統領は英国の経済学者であるケインズの理論と生かしてニューデイール政策を行いました。
3世:そうです。ケインズは収入を失った労働者や農民たちが物を買わないから経済が停滞しているのだから、政府が労動者たちを救済し、企業には仕事(公共事業)を発注すればいい、と提案したのです。
 その結果、経済は少しずつ回復しましたが、もっともそれに効果があったのは皮肉にも第二次世界大戦のための軍需生産という「公共事業」でした。

戦争と経済成長

記者:しかし、それでは戦争が終わればまた、不況になりませんか。
3世:そうなのです。ですから第二次世界大戦が終わったら、今度はアメリカとソ連(ロシア)との間で始まった冷戦が戦争と同じ効果を経済にもたらしました。
経済が戦争体質になってしまったのです。
記者:軍拡競争は新兵器の競争でもありますから、古い武器はどんどん不要になりますね。
3世:まさにそのとおりです。原子力、宇宙開発、コンピューターなどすべて戦争がらで開発された技術です。
 それが民間経済にも応用され、新しい需要を作りだしていったのです。

財政赤字と新自由主義

記者:シュンペーターという経済学者が資本主義は絶えざる技術革新によっていくつもの壁を乗りこえ、永続していくと言ったと聞いたことがありますが、冷戦とまさにこれと同じですね。
3世:シュンペーターの言うとおりの展開でした。これで「めでたし、めでたし。」と言いたいところですが、歴史の現実はそう進みませんでした。
 軍拡競争や景気刺激政策などで政府は膨大な財政赤字に苦しむようになりました。国民も政府の手厚い社会保障政策に慣れ、赤字財政を支持し続けたので、多くの先進国では事態は深刻になっていきました。
記者:そこで出てきたのが新自由主義ですね。アメリカやイギリスでは政府の財政支出を減らし、経済は市場原理にゆだねるという政策に切り替えられていきました。1980年代のことですね。

「豊かさ」が冷戦を終わらせた

3世:第二次世界大戦以来の軍需産業とそれがもたらした新技術、そして財政支出により支えられた景気浮揚策の結果、先進工業国の人びとの暮らしは豊かになりました。
 その勢いは東アジアの開発途上国とされた国々の一部にもひろがり、やがてそれはソ連を中心とする社会主義を自称する国々の政治体制も崩壊させました。水爆やミサイルによってではなく、西側の大衆の生活の豊かさが東側の大衆を動かしたのでした。
記者:東アジアの開発途上国とは韓国や台湾のことですね。
3世:そうです。21世紀に入りその動きは中国、インド、ロシア、ブラジルにも広がりました。
 こうした地域の人びとが1億人単位で資本主義経済に参入する空前の出来事によって現在の資本主義経済が支えられています。

高度消費社会が意味すること

3世:20世紀の後半の経済の動きは私たちに二つのことを教えています。
資本主義経済は技術革新と非資本主義地域の人々を資本主義の仕組みに吸収することによって延命しているということです。
記者:それはどいいうことですか。
3世:技術革新により新しい欲望つまり需要がつくり出され、より多くの利潤がもたらされます。
 しかし、それが均衡化されると、今度は安い労働力とどん欲な需要を求めて、資本主義は資本主義経済の支配下に入っていない地域にひろがっていきます。
 この二つの動きによって、現在の資本主義は活力をえているということです。
記者:それでは、全世界が資本主義に完全に呑みこまれてしまったら、資本主義は安い労賃で超過利潤を得るという道を失い、技術革新と新しい需要の開発でしか生きのびる道を求めることができなくなるとうことですね。
3世:そうです。その場合の技術革新は採算がとれる範囲の技術です。そして採算がとれる欲望ならすべて投資の対象になります。たとえば不安とか恐怖とか。
記者:伝染病がはやれば薬、犯罪が多くなれば警備会社といった話ですか。
3世:臓器売買やクローン技術は人間の根源的なもたらす様々な欲望を掘り起こすことになるかもしれません。
記者:ということは、市場での動向には私たちは常に関心をもち、必要なら法的な規制が必要だと言うことですね。
3世:そうです。資本主義経済も「両刃の刃」なのですね。ですか、資本主義経済の仕組みを設計した私には責任があるのです。(キャピタル3世はそう言うと、静かに窓の外をながめました。そこには、すっかり葉を落とした木立が初冬のやさしい陽に照らされていました。)
 それから、私は長きに渡ったインタビューのお礼を申しあげ、最後のインタビューを終えました。並木道を歩きながら、始めたお会いしたときのキャピタル3世の謙虚な印象が思い出されてきました。それは重たい責任を引き受けた人の覚悟のようなものだということが、インタビューを終えた今、私にははっきり分かるような気まします。
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