U:世の中の仕組みについて
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10:金ちゃんはどこまでやるの

記者:前回のお話で生産が拡大されていく様子についてはだいたい理解できました。
 しかし、経済は永遠に拡大し続けることはできるのでしょうか。今回はこのことについて話していただきます。
3世:資本は貨幣の運動体です。これは私の話の基本ですから、しかっかり確認しておいてください。なぜ貨幣は運動するのか。増えるためです。増えなければ投資されません。
記者:当然です。

キーワードは剰余価値率

3世:この当然の原則が今回の話の基本となります。ここで新しい言葉を覚えてください。これから何回も出てきます。それは剰余価値率です。
 剰余労働(時間)を必要労働(時間)で割った数です。労働者からすれば、どれだけ余分に働かされているかを表します。資本家にとってはどれだけ儲かるかを表します。
 これまでは計算を簡単にするために剰余価値率を1.0で表してきました。これからはこれが変動します。

拡大再生産の限界は労働者の人口

3世:拡大再生産はどこまで可能か。もし不可能ならその壁は何か。これが今回のテーマです。
 結論から言います。それは労働者の人口なのです。いくら増資しても、つまり、いくら給料を用意して労働者を雇おうとしても、必要な数の労働者がいなければ拡大再生産はできません。

記者:なるほど。人口ですか。これは意外です。労働者は人間ですからね。

労働者が不足すれば賃金が上がる

3世:経済の言葉でそれを表すとこうなります。拡大再生産を続けたとします。そうするとC+V+Mのいずれも拡大しいきます。そしてVも拡大し、労働者の人数の限界までになったとします。
 そうすると、資本家は競争で労働者を雇おうとしますから、給料が高くなります。または、労働時間が短いところに労働者が集まります。この二つは同じことです。
 給料が高くなると生活水準が高くなり、その生活資料を生産するための社会的平均労働時間(=必要労働時間)が長くなります。労働時間が変わらなければ剰余労働時間が減ることになりますから、剰余価値率が小さくなるのです。労働時間が短くなっても剰余価値率は小さくなります。これは説明しなくてもいいですね。
記者:労働時間が変わらない場合は相対的剰余価値が減少し、給料が変わらない場合は絶対的剰余価値が減少する可能性が高い、そういうことですね。
3世:まさにそういうことです。
(労働時間は変わらない場合)
(給料は変わらない場合)
給料の上昇
労働時間の短縮
生活費の増大
必要労働時間の増加
剰余労働時間の短縮
相対的剰余価値の減少
絶対的剰余価値の減少
剰余価値率の低下
剰余価値率の低下

剰余価値率の低下の対策は

記者:こうなると、労働者の方が有利になりますね。資本家には打つ手はなくなりますね。
3世:いやいや。資本家は意外な行動に出ます。資本家は生産設備を破壊してしまうのです。
記者:それはどういうことですか。それでは損でしょう。
3世:どんどん労賃があがると、もう利益が出なくなります。利益がないなら投資はしません。
 理屈ではそういうことですが、現実には倒産する企業が出てきます。過剰な設備は破壊されてしまいます。
記者:それだけでは何も解決しないのではないのですか。
3世:生産がストップすれば、資金が余ります。その資金は新し分野に進出したり、新しい技術を導入するために投資されます。これを式に表すとわかりやすくなります。
経過CVMM/V
はじめは10020201.0
生産が拡大される1503030 1.0
賃金が上昇する18060 0
新技術の導入1501515 1.0
記者:新技術の導入で(V÷C)が0.2から0.1になっています。つまり人手がかからなくなり、労働者の数が減らされています。合理化ですね。なるほど。
3世:よけいにお金がかかることは資本家はしませんが、利益が増えるなら一時的に損をしてでも、資本家は投資します。
記者:なるほど。まさに資本は自己増殖する貨幣の運動体ですね。

資本は全世界を支配できるか

3世:金という一商品を貨幣とすることによって成りたっていた商品経済のシステムは、物ではない労働力を商品として扱うことによって自己増殖するシステムをして完成しました。
 資本は社会の全生産を組織し労働者に生活資料を与えることによって、労働者を労働力として扱ってきました。言い換えると、労働者は生活資料を買うために働くしかなくなったのです。
 しかし、労働者そのもの、つまり人間を生みだすことはできません。資本とは物ではない人間を物として扱い続けようとする力なのかも知れません。
記者:お話は一区切りついたようですね。

拡大再生産の場合

3世:拡大再生産は文字どおり生産の規模を増加させる生産です。増加させるには生産手段と労働力を増やすしかありません。
 そのためには資本家は剰余価値m1、m2のうちどれだけを自分たちの生活資料として消費し、どれだけを投資にまわすか決めなければなりません。
記者:確かに、生産物のうち、自由に使い道を決められるのはmつまり資本家の生活資料の分だけです。
3世:しかし、自由にその投資の量が決められるわけではありません。
 投資として必要なものは生産手段と労働力ですから第一部門(生産手段の生産)と第二部門(生活資料の生産)が互いに連携しなければならないのです。
 増やす生産手段は第一部門から調達し、労働力の増加分は第二部門から回さなければならないからです。
記者:前回のお話に出てきた v 2 + m2= c1 の関係式ですね。
3世:そうです。増資分についても(v1)+(m1)=(c2)の関係が成りたっていなければなりません。

左辺は第一部門が第二部門から調達する増加分を表し、右辺は第二部門が第一部門から調達する増加分を表しています。

 同じ量だけが両部門の間で交換されなければならないわけですから、これは当然のことです。

拡大再生産のモデルT

3世:式にしてみます。次のような単純再生産が行われていたとします。
産業部門前回のW次回のC次回のV次回のM
第一部門6000400010001000
第二部門30001500750750
3世:それに対して次のような増資が行われたとします。
産業部門前回のW次回のC次回のV
第一部門500400100
第二部門300200100
3世:第一部門の資本家は自分の取り分である1000(m1)から500(m1)を増資に回しています。
 第二部門の資本家も750(m2)から300(m2)を増資に回しています。
 その分、節約したわけです。そのおかげで、次のよう利益が増えます。
記者:A+Bその結果再投資分は次のようになります。必要労働と剰余労働の比(剰余価値率)は同じとします。
第一部門 1.0=1000(m1)/1000(v1)
第二部門 1.0=750(m2)/750(v2)
産業部門前回のW次回のC次回のV次回のM
第一部門6600440011001100
第二部門34001700850850
3世:第一部門で600(w1)第二部門で400(w2)の増産が行われた結果、100(m1)と100(m2)だけ利益が増えました。
記者:第一部門と第二部門とも同じだけ利益が増えていますが、いつも同じになるのですか。
3世:いいえ。C1:V1:M1:C2:V2:M2の組み合わせ次第で変わります。この場合は下のような比率で計算していました。
産業部門
第一部門
第二部門1.50.750.75

拡大再生産のモデルU

3世:いろいろ数字を変えてやってみてください。たとえば次のようなケースはどうでしょう。
産業部門w
第一部門2000500
500
3000
第二部門1000250
250
1500
合計30007507504500
3世:この場合第一部門で250増資があったとします。次期生産に向けての投資の配分は次のようになります。
産業部門mw
第一部門22005502503000
第二部門8002005001500
合計30007507504500
3世:その他の条件が変わらなければ、生産は次のように行われます
産業部門mw
第一部門2200550
550
3300
第二部門800200
200
1200
合計30007507504500
記者:これはすごい。第一部門の資本家の利益は500から550になっていますが、第二部門の資本家の利益は250から200に減っていますね。
 生産量も第二部門は1500から1200へと激減です。これはどのように考えたらいいのでしょう。
3世:第一部門の資本家が消費を我慢して増資した結果、第一部門の資本家は利益が増えますが、第二部門では第一部門の資本家が我慢した分、投資が減り、利益も減少しています。
 しかし、第二部門の資本家は減資した分を利益として前回の配分で得ています。

貯蓄と拡大再生産の関係

記者:まだ質問があります。生産されたものはすべて消費されるとは限りません。労働者や資本家は貯金しませんか。貯蓄ということをどう考えればいいのですか。
3世:労働者の貯金はいつかは未来の生活に回されるだけだから、すべて労働力に変わります。
 資本家が消費する生活資料はわずかだから、大部分は増資に回される。しかし、すべてを増資するわけではない。そうすると余りはどうなるのか。
 第一部門の利益は機械だったり、石油だったりする。第二部門の利益はシャツだったり、食糧だったりする。そんな物を大量にもっていても仕方ありません。
記者:そうですね。
3世:しかし、第一部門の金鉱山では金が生産されています。この金の一部は工業製品の原料になります。
 さらにそれが第二部門に回り金の指輪やネックレスや入れ歯や万年筆のペン先になります。その他に、地金(いわるゆ金の延べ棒)として資本家の金庫や銀行の金庫に貯蔵されます。
 この金庫には金のネックレスや宝石も一緒に入れられることを考慮すると、これらは商品として貯蔵されているのか貨幣として貯蔵されているのか曖昧です。これが金が貨幣の役割をする根拠なのです。
記者:なるほど、出発点に戻ってきてますね。この商品と貨幣の性格を合わせもつ金で投資の増減を調節すれば、資本家は生活費を切りつめて増資することもないわけですね。うまくできていますね。

やっぱり社会全体で考える

3世:資本主義社会は他の人のために物を生産する分業社会です。したがって、生産されて資本家の手元にある生産物はそれを必要としている人に渡らなければならない。
 ところが、資本主義社会は貨幣経済の社会ですから、売買されなければなりません。物と同時にお金が流れていきます。この流れを考える場合、三つの立場を考えればいい。
1.生産手段を生産する第一部門の資本家
2.生産手段に手を加えて生活資料を生産する第二部門の資本家
3.生活資料を消費して労働力を生産している労働者
3世:この流れを記号で次のように表します。
cは生産手段(生産に必要な資材)、vは必要労働(労賃)、mは剰余労働(余分に働いた分)、wは生産物の合計
第一部門(金属・機械・燃料など):c1+v1+m1=w1
第一部門の労働者はv1の生活資料を買い、c1にv1とm1分の労働力を付け加えたw1を生産します。
第二部門(衣料・食品など):c2+v2+m2=w2
第二部門もc2にv2とm2を加えてw2の生産物を生産します。

単純再生産

記者:仮に次のような生産が行われたとします。
 4000(c1)+1000(v1)+1000(m1)=6000(w1)
 2000(c2)+1000(v2)+1000(m2)=4000(w2)
記者:つまり必要労働時間と剰余労働時間が同じということですね。と言うことは、給料の倍働いたということですね。
3世:そう言うことになります。続けます。
3世:6000(w1)は4000(c1)と2000(c2)にそれぞれ配分され、次の生産が行われます。
 4000(w2)のうち2000(w2)は1000(v1)と1000(v2)にそれぞれ分配され、第一・二部門の労働者の生活で消費され、新しい労働力が1000(v1)と1000(v2)だけ生みだされます。
 4000(w2)のうち残りの2000(w2)は第一・二部門の資本家の生活費になります。
 ふたたび生産された生産物は増資が行われない限り、前回とおなじ6000(w1)と4000(w2)で何ら増減はありません。でるからこの一連の流れを単純再生産といいます。
生産物が再生産に向け配分される仕組み
第T部門
1000 v1
1000 m1
2000 w1
第U部門
2000 c2
2000 w2
記者:ここまでは理解できます。

第一部門と第二部門は連動している

3世:続けます。社会全体で見ると、第一部門と第二部門の間には密接な関係があります。
 それは第一部門の労働者と資本家は第二部門から生活資料を買わなければならないという ことです。
 過不足なくこれを行うには(V1)+(M1)=(C2)の関係式が成りたっていなければなりません。
記者:生産する物によって生産に要する時間が違いますが、それはこの計算ではどう考えればいいのですか。
3世:確かに、造船業とお菓子屋さんでは資金の回転の速さが違います。しかし、この計算は抽象的な計算ですから、製品が完成しているかどうかは別に問題にしません。
 船が半分しかできていなければ0.5隻と数えればいいだけです。これらの数字は労働時間と考えても、お金と考えてもいいです。
 ちょうど商品の客観的な価値は誰にも分かりませんから、主観的な評価による価格で売買するしかありません。
 この段階では社会全体としてこうなっているという説明しかできません。価値と価格の関係はもっと先のテーマです。
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