U:世の中の仕組みについて
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11:稼いだ儲けはみんなで分ける

記者:さて、キャピタル3世のお話はいよいよ最終章に入っていきます。
 商品の客観的な価値も、どれだけ余分に働いたかも、すべて社会全体でみなければわからない、という前提にたってみてきました。そのおかげで、社会の経済活動の大きな仕組みはよく理解できました。
 商品の価値はそれに含まれる労働時間で決まるのに、商品の値段は変化します。社会全体では剰余労働がなされて利益が出ているのに、赤字になる会社と儲かる会社があるのはなぜかとか、いろいろわからないことばかりです。そのあたりからお願いします。

売上げ−費用=利益

3世:わかりました。これからは話が具体的ですからわかりやすいかも知れません。
 個々の資本家にとって不変資本(c)も可変資本(v)も剰余価値(m)もすべてはお金です。
 労働力の価値(必要労働時間)が何時間なのかもわかりません。資本家にとってはっきりしているのは「売上げ−費用=利益」の式だけです。どれだけの期間でどれだけの利益がでるのか、それだけが資本家の関心事です。

利潤率だけが問題

3世:売上げは市場で決まります。個々の資本(家)にとってはコントロールできない世界です。
 個々の資本家にとって努力できるのは費用だけです。この費用を減らせば、利潤は大きくなります。
 しかし、資本(家)は資金を増やすことだけしか関心がないので、何を生産しようと、何を売ろうとそんなことはどうでもいいのです。利益(利潤)÷出資額(前貸し資本)=利潤率ですから、資本家の最大関心事はこの利潤率になります。
記者:よくわかります。

利潤率に差があることが許されない

3世:ですから、資本家は少しでも利潤率が高い分野に投資したがります。例をあげて計算してみましょう。
 全社会の産業分野がTからXまでだったとします。それぞれの分野では次のような資本構成(不変資本と可変資本の割合)で剰余価値率100%で生産が行われ、剰余価値が生産されたとします。
分野資本構成剰余価値率剰余価値生産物価値利潤率平均利潤率利潤
T80c+20v100%20m12020%22%22
U70C+30v100%30m13030%22%22
V60c+40v100%40m14040%22%22
W85c+15v100%15m11515%22%22
X95c+5v100%5m105 5%22%22
390c+110v100%110m61022%22%110
記者:剰余価値率は全社会で平均化された数ですから、すべて100%と仮定しているのですね。資本構成は製鉄や繊維など分野によって異なるのは当然ですね。技術水準で決まります。機械化が進んでいればいるほどc/vの比は大きくなります。

全剰余価値=全利潤

3世:しかし、利潤率は資本構成が違いますから分野ごとに異なってきます。当然、資本家たちは利潤が高い分野に投資して、その分野の競争が激しくなり、その結果利潤は下がってきます。
 競争は利潤率がすべての分野で同じになるところまで進みます。こうして平均利潤率が成立し、各分野の利潤が一致します。
 全剰余価値と全利潤が一致するところまで競争がくり返されるのです。社会全体で見ると言うことはこういうことなのです。
記者:なるほど。価値と価格が一致する瞬間ですね。

生産価格=費用価格+平均利潤

3世:ですから(全剰余価値)÷(全資本)=110÷500=0.22が成り立つわけです。
 計算しやすいようにTからXまでの各分野の資本を100にしてありますから、平均利潤はみんな同じ22ですが、実際には資本×平均利潤率=利潤という式に従います。
 費用価格は各企業の努力次第です。しかし、競争が終わった段階では利潤は平均化されていますから生産価格は費用価格に平均価格を加えたものになります。各企業の努力も究極のところまでいっていれば、最終的には生産価格の差もなくなります。
記者:生産価格と費用価格との違いがわからないのですが。
3世:生産するのに要した価格(原価)が費用価格です。しかし、利潤を求めて生産するわけですから、実際に売る価格はそれに利潤が加わります。それが生産価格です。
 費用価格は個々の企業によって異なりますが、最終的には同じ技術水準になり、利潤も平均化された状態で生産価格が成立するわけです。
 しかし、実際には競争が終わることはありませんから、価格の変動はなくなることはありません。
記者:海の波のようですね。波の大きさは変動しますが、波がなくなることはない。海水面は平均値でしか計算できません。

同一分野内での利潤はどうなるのか

記者:しかし、今回の説明では同じ分野でも競争は終わっていることが前提でしたかが、同一分野の資本の競争はどのように行われているのですか。

キーワードは剰余価値率

3世:この当然の原則が今回の話の基本となります。ここで新しい言葉を覚えてください。これから何回も出てきます。それは剰余価値率です。
 剰余労働(時間)を必要労働(時間)で割った数です。労働者からすれば、どれだけ余分に働かされているかを表します。資本家にとってはどれだけ儲かるかを表します。
 これまでは計算を簡単にするために剰余価値率を1.0で表してきました。これからはこれが変動します。

拡大再生産の限界は労働者の人口

3世:拡大再生産はどこまで可能か。もし不可能ならその壁は何か。これが今回のテーマです。
 結論から言います。それは労働者の人口なのです。いくら増資しても、つまり、いくら給料を用意して労働者を雇おうとしても、必要な数の労働者がいなければ拡大再生産はできません。
記者:なるほど。人口ですか。これは意外です。労働者は人間ですからね。

労働者が不足すれば賃金が上がる

3世:経済の言葉でそれを表すとこうなります。拡大再生産を続けたとします。そうするとC+V+Mのいずれも拡大しいきます。そしてVも拡大し、労働者の人数の限界までになったとします。
 そうすると、資本家は競争で労働者を雇おうとしますから、給料が高くなります。または、労働時間が短いところに労働者が集まります。この二つは同じことです。
 給料が高くなると生活水準が高くなり、その生活資料を生産するための社会的平均労働時間(=必要労働時間)が長くなります。労働時間が変わらなければ剰余労働時間が減ることになりますから、剰余価値率が小さくなるのです。労働時間が短くなっても剰余価値率は小さくなります。これは説明しなくてもいいですね。
記者:労働時間が変わらない場合は相対的剰余価値が減少し、給料が変わらない場合は絶対的剰余価値が減少する可能性が高い、そういうことですね。
3世:まさにそういうことです。
(労働時間は変わらない)
(給料は変わらない)
給料の上昇
労働時間の短縮
生活費の増大
必要労働時間の増加
剰余労働時間の短縮
相対的剰余価値の減少
絶対的剰余価値の減少
剰余価値率の低下
剰余価値率の低下

剰余価値率の低下の対策は

記者:こうなると、労働者の方が有利になりますね。資本家には打つ手はなくなりますね。
3世:いやいや。資本家は意外な行動に出ます。資本家は生産設備を破壊してしまうのです。
記者:それはどういうことですか。それでは損でしょう。
3世:どんどん労賃があがると、もう利益が出なくなります。利益がないなら投資はしません。
 理屈ではそういうことですが、現実には倒産する企業が出てきます。過剰な設備は破壊されてしまいます。
記者:それだけでは何も解決しないのではないのですか。
3世:生産がストップすれば、資金が余ります。その資金は新し分野に進出したり、新しい技術を導入するために投資されます。これを式に表すとわかりやすくなります。
経過CVMM/V
はじめは10020201.0
生産が拡大される1503030 1.0
賃金が上昇する18060 0
新技術の導入1501515 1.0
記者:新技術の導入で(V÷C)が0.2から0.1になっています。つまり人手がかからなくなり、労働者の数が減らされています。合理化ですね。なるほど。
3世:よけいにお金がかかることは資本家はしませんが、利益が増えるなら一時的に損をしてでも、資本家は投資します。
記者:なるほど。まさに資本は自己増殖する貨幣の運動体ですね。

資本は全世界を支配できるか

3世:金という一商品を貨幣とすることによって成りたっていた商品経済のシステムは、物ではない労働力を商品として扱うことによって自己増殖するシステムをして完成しました。
 資本は社会の全生産を組織し労働者に生活資料を与えることによって、労働者を労働力として扱ってきました。言い換えると、労働者は生活資料を買うために働くしかなくなったのです。
 しかし、労働者そのもの、つまり人間を生みだすことはできません。資本とは物ではない人間を物として扱い続けようとする力なのかも知れません。
記者:お話は一区切りついたようですね。

拡大再生産の場合

3世:拡大再生産は文字どおり生産の規模を増加させる生産です。増加させるには生産手段と労働力を増やすしかありません。
 そのためには資本家は剰余価値m1、m2のうちどれだけを自分たちの生活資料として消費し、どれだけを投資にまわすか決めなければなりません。
記者:確かに、生産物のうち、自由に使い道を決められるのはmつまり資本家の生活資料の分だけです。
3世:しかし、自由にその投資の量が決められるわけではありません。
 投資として必要なものは生産手段と労働力ですから第一部門(生産手段の生産)と第二部門(生活資料の生産)が互いに連携しなければならないのです。
 増やす生産手段は第一部門から調達し、労働力の増加分は第二部門から回さなければならないからです。
記者:前回のお話に出てきた v 2 + m2= c1 の関係式ですね。
3世:そうです。増資分についても(v1)+(m1)=(c2)の関係が成りたっていなければなりません。
 左辺は第一部門が第二部門から調達する増加分を表し、右辺は第二部門が第一部門から調達する増加分を表しています。
 同じ量だけが両部門の間で交換されなければならないわけですから、これは当然のことです。

拡大再生産のモデルT

3世:式にしてみます。次のような単純再生産が行われていたとします。
産業部門前回のW次回のC次回のV次回のM
第一部門6000400010001000
第二部門30001500750750
3世:それに対して次のような増資が行われたとします。
産業部門前回のW次回のC次回のV
第一部門500400100
第二部門300200100
3世:第一部門の資本家は自分の取り分である1000(m1)から500(m1)を増資に回しています。
 第二部門の資本家も750(m2)から300(m2)を増資に回しています。
 その分、節約したわけです。そのおかげで、次のよう利益が増えます。
記者:A+Bその結果再投資分は次のようになります。必要労働と剰余労働の比(剰余価値率)は同じとします。
第一部門 1.0=1000(m1)/1000(v1)
第二部門 1.0=750(m2)/750(v2)
産業部門前回のW次回のC次回のV次回のM
第一部門6600440011001100
第二部門34001700850850
3世:第一部門で600(w1)第二部門で400(w2)の増産が行われた結果、100(m1)と100(m2)だけ利益が増えました。
記者:第一部門と第二部門とも同じだけ利益が増えていますが、いつも同じになるのですか。
3世:いいえ。C1:V1:M1:C2:V2:M2の組み合わせ次第で変わります。この場合は下のような比率で計算していました。
産業部門
第一部門
第二部門1.50.750.75

拡大再生産のモデルU

3世:いろいろ数字を変えてやってみてください。たとえば次のようなケースはどうでしょう。
産業部門w
第一部門2000500
500
3000
第二部門1000250
250
1500
合計30007507504500
3世:この場合第一部門で250増資があったとします。次期生産に向けての投資の配分は次のようになります。
産業部門mw
第一部門22005502503000
第二部門8002005001500
合計30007507504500
3世:その他の条件が変わらなければ、生産は次のように行われます
産業部門mw
第一部門2200550
550
3300
第二部門800200
200
1200
合計30007507504500
記者:これはすごい。第一部門の資本家の利益は500から550になっていますが、第二部門の資本家の利益は250から200に減っていますね。
 生産量も第二部門は1500から1200へと激減です。これはどのように考えたらいいのでしょう。
3世:第一部門の資本家が消費を我慢して増資した結果、第一部門の資本家は利益が増えますが、第二部門では第一部門の資本家が我慢した分、投資が減り、利益も減少しています。
 しかし、第二部門の資本家は減資した分を利益として前回の配分で得ています。

貯蓄と拡大再生産の関係

記者:まだ質問があります。生産されたものはすべて消費されるとは限りません。労働者や資本家は貯金しませんか。貯蓄ということをどう考えればいいのですか。
3世:労働者の貯金はいつかは未来の生活に回されるだけだから、すべて労働力に変わります。
 資本家が消費する生活資料はわずかだから、大部分は増資に回される。しかし、すべてを増資するわけではない。そうすると余りはどうなるのか。
 第一部門の利益は機械だったり、石油だったりする。第二部門の利益はシャツだったり、食糧だったりする。そんな物を大量にもっていても仕方ありません。
記者:そうですね。
3世:しかし、第一部門の金鉱山では金が生産されています。この金の一部は工業製品の原料になります。
 さらにそれが第二部門に回り金の指輪やネックレスや入れ歯や万年筆のペン先になります。その他に、地金(いわるゆ金の延べ棒)として資本家の金庫や銀行の金庫に貯蔵されます。
 この金庫には金のネックレスや宝石も一緒に入れられることを考慮すると、これらは商品として貯蔵されているのか貨幣として貯蔵されているのか曖昧です。これが金が貨幣の役割をする根拠なのです。
記者:なるほど、出発点に戻ってきてますね。この商品と貨幣の性格を合わせもつ金で投資の増減を調節すれば、資本家は生活費を切りつめて増資することもないわけですね。うまくできていますね。

やっぱり社会全体で考える

3世:資本主義社会は他の人のために物を生産する分業社会です。したがって、生産されて資本家の手元にある生産物はそれを必要としている人に渡らなければならない。
 ところが、資本主義社会は貨幣経済の社会ですから、売買されなければなりません。物と同時にお金が流れていきます。この流れを考える場合、三つの立場を考えればいい。
1.生産手段を生産する第一部門の資本家
2.生産手段に手を加えて生活資料を生産する第二部門の資本家
3.生活資料を消費して労働力を生産している労働者
3世:この流れを記号で次のように表します。
cは生産手段(生産に必要な資材)、vは必要労働(労賃)、mは剰余労働(余分に働いた分)、wは生産物の合計
第一部門(金属・機械・燃料など):c1+v1+m1=w1
第一部門の労働者はv1の生活資料を買い、c1にv1とm1分の労働力を付け加えたw1を生産します。
第二部門(衣料・食品など):c2+v2+m2=w2
第二部門もc2にv2とm2を加えてw2の生産物を生産します。

単純再生産

記者:仮に次のような生産が行われたとします。
 4000(c1)+1000(v1)+1000(m1)=6000(w1)
 2000(c2)+1000(v2)+1000(m2)=4000(w2)
記者:つまり必要労働時間と剰余労働時間が同じということですね。と言うことは、給料の倍働いたということですね。
3世:そう言うことになります。続けます。
3世:6000(w1)は4000(c1)と2000(c2)にそれぞれ配分され、次の生産が行われます。
 4000(w2)のうち2000(w2)は1000(v1)と1000(v2)にそれぞれ分配され、第一・二部門の労働者の生活で消費され、新しい労働力が1000(v1)と1000(v2)だけ生みだされます。
 4000(w2)のうち残りの2000(w2)は第一・二部門の資本家の生活費になります。
 ふたたび生産された生産物は増資が行われない限り、前回とおなじ6000(w1)と4000(w2)で何ら増減はありません。でるからこの一連の流れを単純再生産といいます。
生産物が再生産に向け配分される仕組み
第T部門
1000 v1
1000 m1
2000 w1
第U部門
2000 c2
2000 w2
記者:ここまでは理解できます。

第一部門と第二部門は連動している

3世:続けます。社会全体で見ると、第一部門と第二部門の間には密接な関係があります。
 それは第一部門の労働者と資本家は第二部門から生活資料を買わなければならないという ことです。
 過不足なくこれを行うには(V1)+(M1)=(C2)の関係式が成りたっていなければなりません。
記者:生産する物によって生産に要する時間が違いますが、それはこの計算ではどう考えればいいのですか。
3世:確かに、造船業とお菓子屋さんでは資金の回転の速さが違います。しかし、この計算は抽象的な計算ですから、製品が完成しているかどうかは別に問題にしません。
 船が半分しかできていなければ0.5隻と数えればいいだけです。これらの数字は労働時間と考えても、お金と考えてもいいです。
 ちょうど商品の客観的な価値は誰にも分かりませんから、主観的な評価による価格で売買するしかありません。
 この段階では社会全体としてこうなっているという説明しかできません。価値と価格の関係はもっと先のテーマです。
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