「イギリスの一人勝ち」の結果おきたもう一つの出来事がフランス革命です。スペイン継承戦争でのユトレヒト条約と七年戦争でのパリ条約で、フランスは多くの植民地をイギリスに奪われました。莫大な戦費により財政はピンチになり、戦勝国のイギリスからは産業革命によって安く生産された商品が続々と入ってくるようになりました。
こんな状況で、国王のルイ16世は、400年ぶりの三部会を招集し、それまで非課税だった特権身分(聖職者・貴族)への課税を提案したのでした。国王は課税に反対する特権階級と国民の大多数を占める市民の不満の間で、主導権を失いました。
誰の利害を最優先にするのか、フランス革命はそれを争った権力闘争の歴史でした。誰とは具体的な個人ではなくて社会的な立場のことです。この時代のフランスにはおよそ四つの立場がありました。
国王はこの四つの立場のバランスの上にありました。バランスがとられているうちは、国王は君臨することができました。
議決の方法をめぐって対立した三部会は、国民議会と名称を替え、特権身分と反特権身分の対立になっていきました。
危機感をつのらせた特権身分は武力で押さえ込もうとしますが、反特権勢力はバスチーユ牢獄を攻撃し、捕らえられていた政治犯を解放し、武器を奪います。全国で農民達も立ちあがり、領主を襲いました。国民議会での主導権を獲得した反特権勢力は1789年「人権宣言」を発表して、身分制の廃止を宣言します。
ここからはフランス革命は第二段階に入ります。今度は、憲法の内容をめぐって、貨幣経済の発展を求める実業家らの「自由・財産派」と貨幣経済の進展により没落の危機にある「平等派」とが対立しました。
国民議会の議論は「自由・財産派」の主導の下に進み、1791年に立憲君主制の憲法が制定されました。その内容は貨幣経済の進展を目指す「自由・財産派」の有産市民に有利で、「平等派」の無産市民には不満の残る内容でした。さらに、新しく発行された紙幣によってインフレがおき、民衆の生活は厳しくなっていきました。
反革命派の貴族達は国外に逃亡を始め、国王も妃の実家であるオーストリアに逃げようとして、見つかりパリに連れ戻されてしまいます。翌年1792年の4月にはオーストリアやプロイセンとの間で戦争が始まりました。この時、全国から義勇兵がパリに集まり、オーストリア軍・プロイセン軍を撃退しました。8月10日、民衆は王宮を襲って王政の廃止を宣言しました。
1792年8月10日の政変をもって、革命は第三段階に入ります。91年の憲法によって国作りを進めてきた立法議会は解散され、普通選挙によって国民公会が召集されました。国民公会は有産市民の利益を代表する「自由・財産派」のジロンド派(右派)と無産市民の支持を受ける「平等派」の山岳派(左派)により構成され、今度は両派の主導権争いが始まりました。
この頃、フランスは危機的な状況にありました。国内ではインフレや食糧不足により民衆の不満が高まり、各地で反革命の反乱が起きていました。また、国外ではフランス国王が処刑されたことに危機感をもった国々が対仏大同盟を結び、フランスに敵対の姿勢を明確にしてきていました。
この危機に、左派は右派を国民公会から追放し、祖国の防衛・革命の遂行・諸勢力の調整という課題に対応することになります。そのためには独裁的な政権が必要でした。左派のジャコバン派の中心人物であったロベスピエールは国民公会の中の公安委員会を拠点にして革命の実権を掌握して、迫る内外の危機に対処していきました。
理想を求めた革命ではあっても、個々の政策には現実的な妥協が必要でした。民主的な手続きにのとっていれば納得も得られたであろ妥協でも、独裁による妥協は左右両派からの攻撃は避けられませんでした。ロベスピエールは左右の反対派を反革命の名の下に処刑していきました(恐怖政治)。
内外の危機も何とか落ち着いた1794年7月、今度はロベスピエール自身が国民公会においてクデターに遭い、処刑されてしまいます。この「テルミドールの反動」によって、革命の主導権は再び、「自由・財産派」の人びとへと移りました。
危機を乗りきってしまえば、有産市民の「自由・財産派」は無産市民の「平等派」といつまでも手を組んでいる必要はありませんでした。無産市民によって支持されていた国民公会の諸政策が次々と廃止されました。物価統制も普通選挙も廃止されました。
しかし、混乱は収まりません。右派も左派も再興を図って反乱をおこしました。有能な指導者は恐怖政治によって処刑されたりしており、5人体制の総裁政府にも事態を収拾する力はありませんでした。
この時、現れたのがナポレオンでした。フランス革命はナポレオンによって収拾されていくことになりました。
フランス革命の推移を追っていくと、国王とはどんな存在か見えなくなります。小さくとも一国の主でいたい領主達には、特権を認めてくれる存在ですが、いろいろ干渉もしてくる存在です。実業家達には全国を統一して流通を助けてくれる存在ですが、税を浪費しながら平気で増税します。農民や労働者には暴君でありながら、正義の拠り所でもあります。
絶対王政の国王とは、誰の代表でもなく、少しずつすべての人の利益を守り、結果としその事がすべての人の不満の原因になっているような、絶妙なバランスの上に成り立っている権力だと言えます。ですから、「国家の裏切り者」のレッテルが貼られてしまうと、国民全員の敵とされ、その地位は風前の灯火です。