V:「生きづらさ」について
自己という病
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後書きにかえて
  •  外国の人が、なにかにつけて祈る姿をよく見かけます。習慣で祈っているのかとも思えましたが、「自己という病」について考えるうちに、違って見えるようになりました。「祈り」とは自分と向き合わないようにするためには有効な方法だと気づいたのです。
  •  深い悲しみや不安、高まる緊張、爆発する歓喜、そんな激しい精神的エネルギーを自分で受けとめるのは、体には負担になります。体はこわばり、血圧は高まるでしょう。
  •  そんな時、ゆっくり息を吐くように、何かに向かって祈るのは、生理学的にもきわめて有効な方法だと思われます。「祈り」とは、何かに向かって過剰なエネルギーを放出し、自己と向き合ってしまわないように、心の姿勢を転換することではないでしょうか。
  •  ですから、古来より人は祈ることによって、悲しみ、怒り、恐れ、歓びの気持ちを大きな存在にゆだねてきたのだと思います。この「祈り」の知恵のなかに、「自己という病」の予防や治療のヒントが含まれているように思われます。
  •  現代社会に生きる以上、人は「自己という病」に感染します。発病のリスクを誰もが抱えていると言うことです。しかし、感染しても発病しない場合もあります。発病しても重症化しないで済むこともあります。それなら、発病させない、運悪く発病したなら、重症化させないことが大切です。
  •  私は、「自己という病」に感染・発病し、重症化させてしまう瀬戸際で生きてきました。この文章を書いて、はっきりとそれを自覚することができました。そこで、最後に「自己という病」に感染しても、重症化させない工夫について考えてみます。
  •  「自己という病」に長い間悩んできた私の自己流予防術です。お役にたてれば幸いです。
  • (重症化してしまったケースについては、それぞれの事情を鑑みながら、様々な試みが行われています。それは、簡単には一般化できない、現場での試行錯誤による日々闘いの世界です。専門の人々に委ねます)
  • 20.自己をコントロールできない

  • 依存症とか、気分の激しい深い落ち込みなど、自己回復が難しいときはどうしたらいいでしょうか。
  • @止めたいのに止められない(1)

    薬物依存、アルコール依存、ギャンブル依存と、依存症の話題に事欠かない昨今ですが、その治療現場は大変な苦労の連続のようです。

    どちらかと言えば依存症体質(タイプ?)の私も、五十歳の時に三十年の喫煙歴に終止符をうった以外、依存症に打ち勝てた実績はありません。現在も、軽度(?)のアルコール依存傾向があります。そのためか、依存症の治療には強い関心があります。

    喫煙習慣を克服したときに留意したことを参考にしますと、まずなぜそれを止めようと思うのか、はっきりと自己認識しなければなりません。そして、どんな時に依存行為をしてしまうのか、具体的に箇条書きにするのです。依存行為を続けるとどうなるのか、その弊害もはっきりとさせます。

    つまり、依存行為を止める理由を明確にし、その意志を強く持つことが何よりも大切です。(止める理由がなければ、止める必要はないという当たり前のことを、裏側から言っているだけです)

    A止めたいのに止められない(2)

    素人レヴェルの知識で言えば、依存症とは、一定の刺激に対して特定の行動を促す神経回路が強化され、その行動が意志に反してくり返される状態です。依存症を克服するためには、この神経回路を無力化させ、反応が起きにくくすればいいわけです。

    これと正反対なのが、リハビリです。脳梗塞などで特定の活動を促す神経回路が破壊され、生活に支障が生じてしまった場合は、新しい神経回路ができるように、つらいトレーニングを積み重ねながら、元の活動の復活を目指します。

    ですから、依存症の治療でも、特定の刺激に対して、異なった反応が生まれるように、新たな神経回路を作ればいいわけです。

    B止めたいのに止められない(3)

    異なった反応をする新しい神経回路を作ると言っても、依存系の神経回路がすでにあるわけですから、その回路で反応が起きないようにしなければなりません。川の流れをせき止め、別の所に新しい流路を作るのです。

    そのためには、かなり強い抑止力が必要です。これまで止められなかった依存行為を、自分の意志だけで抑制することは極めて難しいことです。ここはやはり、協力者が必要です。自分のことを思って厳しいことを言ってくれる、信頼できる人のサポートが受けられるようにしなければなりません。

    しかし、自分の依存行為を人に打ち明けるのには抵抗があります。その気持ちを克服して依存症に苦しむ現状を告白し、協力を求める必要があります。そのことによって、自分自身に対しても依存症を克服しようとする意志が確認できます。

    やはり、孤立は精神衛生によい影響をあたえません。

    C不安だ。イライラする

    漠然と不安な気持ちが続いている。理由もなくイライラしてばかりいる。そんな時はどうしたらいいでしょうか。

    普通なら人と話したり、テレビを見たりして気分転換します。旅行へ行くようなこともあるでしょう。しかし、無気力になって、そうした行動をする気力すら湧かず、押しつぶされそうな気持ちになってしまっていることもあります。

    そんな時は、心を消してしまうことをお勧めします。スニーカーを履いて外に出て、ただひたすら歩くのです。そんな気分になれなくても、とにかく外に出てみることです。何もしなければ心の落ち込みはどんどんつのるばかりです。

    歩くことに気持ちを集中させるために、歩きながら一から百まで数えて、千歩単位で指折りながら集計します。忘れそうならメモしたり、千ごとに小石を拾ったり、輪ゴムを腕に巻いたりと、とにかく歩くことに集中し、「歩く人」になりきるのです。

    そのうちに、汗が出てきて、爽快感が感じられるようになるかもしれません。

    D考えてばかりで疲れる

    感情、意識、心。それはある状況に全身で感応している状態です。そのうち、よく体験する状態に名称をつけて、悲しいとか、嬉しいとか、怖いとか言っているだけです。それなら、「植物心」という心の状態もあってもいいような気がします。それは、あたかも「植物ってこんな気持ちでいるのかなあ」と思えるような気分のことです。

    次の手順で、一度試してみてください。

  • 1)まず、仰向けに横たわります。布団の上で寝る時の状態です。
  • 2)次に、体の力を抜きます。布団の中に自分の体が沈んでいく様子をイメージします。
  • 3)横隔膜を持ち上げるようにして、お腹がしっかりへこむまで、ゆっくりと息を吐き   きってください。
  • 4)吐ききった反動で、息を吸ってください。お腹が思いっきりふくれるまで吸います。
  • 5)そして、「1・2・3」と三つ数えてゆっくり息を吐きます。
  • 6)へこんだり膨らんだりするお腹の様子に意識を集中しながら、できるだけゆっくり  3と5を繰り返してください。
  • 7)そうすると、自分の体が固まったようになって、動かしたくなくなります。
  • 8)さらに、自分がどんな状態でどこにいるのかも分からなくなってきます。
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