V:「生きづらさ」について
女と男と家族と物語
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(8) 職業や結婚相手は本当に自由に決められるのですか

「就活」、「婚活」。そんな言葉を時々みかけます。どこか必死めいていて、つらそうなイメージです。いつごろから、どんな状況で使われだしたかわかりません。若者たちを追いこんでいるこれらの言葉の周辺を考えてみたいと思います。

身分制度から解放された就職と結婚

近代社会は人びとを身分制度から解放して、人はどんな職業にも就けるようになり、誰とでも結婚できるようになったと、学校で習います。「自由なんだから、その責任も個人が負う。」「自分の人生に責任をもって、自分で決めなさい。」ということになりました。実はこれがつらいんですよね。

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選択の自由の中身

選択の自由には二つの意味があります。例えば、休日に映画に行くか遊園地に行くか、他にも何でもできる、といった絶対的自由。もう一つが映画にいくことにはなっているが、どの映画を見るかは自由だ、といった範囲内自由です。

近代社会になって許されるようになったのは、後者の自由ではなかったのではないでしょうか。結婚も職業も一定の枠内での自由に過ぎなかったのではないでしょう。

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自由にならなかった人びと

実は近代社会で職業や結婚相手を自由に決められたのは限られた人びとだけでした。上流の社会の人びとと言うと、一見選択の余地がありそうですが、彼らの自由の範囲は狭く、結果として自由なんかなかったに等しいことが多かったと思います。彼らにあったのは範囲内自由でした。勿論その選択についてすら多くの悲劇や葛藤があったことは言うまでもありません。

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自由だったのは中産階級

それでは、この自由を謳歌したのはどのような人たちだったのでしょう。それは中間層の人たちでした。教育を受けられる経済的な余裕のある家庭に生まれ、ある程度の社会的な上昇も許された人たちが、この近代社会によって保障された自由を自分のものにできたのでした。

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膨張する中産階級

下層の人たちは購買力がなく、上流の人たちは人口が多くありません。彼らが消費する総量は多くありません。しかし、中間層はある程度の購買力をもち、人口もあります。

新しく都市で生活する中間層が大量にそして急速に生みだされる時代こそ、その社会が経済成長する時代でした。先進国の多くが、第二次世界大戦後に生まれたベビーブマーの時代にそれを体験しました。

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自由は経済成長の時代に

中間層が急速に拡大し、経済が飛躍的に成長する時代、市場が拡大し、人の社会的な移動も多くなりました。この時代に育った人びとには就職や結婚の選択肢は大きく広がっているように感じられたはずです。彼らにはあたかも絶対的自由が許されていると感じられたことでしょう。しかし、客観的には彼らの自由も範囲内自由でしかありませんでした。

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自由の時代のおわり

しかし、そのような時代はどこの国でも長く続きませんでした。そして、ベビーブーマーの子どもたち(baby boomer junior)の時代が過ぎると、それは急速に収縮していきました。「就活」「婚活」といった言葉が使われ出したのは、おそらくこの頃だと思います。


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