V:「生きづらさ」について
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(5) どうすれば将来の目標が見つかるのですか

「目標をもって頑張りましょう。」「ナンバー・ワンよりオンリー・ワン」などと言われても将来の目標などそんなに簡単には見つかりません。とってつけたような目標では意味がありません。社会体験のない若者には、目標や目的を見つけるのは本当に大変なテーマです。これについて考えてみます。

才能という物語

スポーツや音楽などで、ずば抜けた能力を小さいときから発揮するような人はともかく、大半の若者にとって自分にどのような才能があるかを知ることは大変難しいことです。

「好きなことをすればいい」と言われても、やっていて楽しいと感じられることはたくさんあります。ひとつのことに絞り込むことの方が不自然なことかもしれません。職業を選ぶなどということはたかだか200年くらいの歴史しかありません。人は必要に迫られて何かをすればいいのではないでしょうか。

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進路という物語

学校では進路選択が大きなテーマになります。最近は膨大な資料に囲まれて、その中から自分にもっともあった進路(進学・就職)先を見つけなければなりません。大仕事です。

「天職」を探すと考えると深刻になってしまいますが、結局、いろいろな成績や経済的余裕などの条件で選択の範囲は狭まってしまします。つまり、決まってしまうものです。希望する進路に進めたからといって満足する結果が待っているとは限りません。先々がどうなっていくかは、まったく未知です。進路で悩むことはあまり生産的でありません。

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天職ではなく転職

そもそも、市場原理で動いている近代社会では転職が前提とされています。天職ではなく転職です。市場で必要とされなくなった商品は生産されません。当然それをつくっている人たちの仕事はなくなります。つまり他の仕事をするしかないのです。

このことをふまえるなら、究極の選択のように職業を考えることは現実的ではありません。それはひとつの物語にすぎません。ここでも人は人生のさまざまな局面で必要に迫られてひとつひとつの試練を乗りこえていくしかないようです。

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自分の物語、人の物語

「夢をもつ」ことつまり自分の物語をもつことは楽しいことです。それが他のひとから理解され支持されれば本当に幸せなことです。しかし、あなたの物語はあなたの物語でしかありません。どのような理解も得られないこともあります。それを人のせいにはできません。

自分の物語だけに固執する生き方は世界を狭めてしまいます。すばらしい体験や出会いのチャンスを失うことにもつながります。人の物語を楽しむ余裕をもった生き方も大切です。それはきっとあなたの物語を豊かなものにしてくれるでしょう。

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社会の秩序を安定にする物語

才能、進路、職業はひろく世の中に流布している物語です。学校教育ではこの物語が重視されます。なぜなら学校は能力選別機関だからです。

選抜された人はさらに上級の機関へ、選抜からもれた人にはそれなりの進路を準備することは、学校のもっとも主要な役割です。選抜という厳しい現実を進路、適性、自己実現などという言葉で婉曲に表現しているにすぎません。この選別を本人の意志と責任というかたちで行うことで社会の秩序が安定しているのです。

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物語に振りまわされるな

ですから、これに振り回されることは危険です。社会には時代に応じて誰かが分担しなければならない役割があります。その割り振りは社会の大きな仕組みをとおして行われます。

それが職業とか適性という物語仕立てで行われるのです。この物語に乗って生きていくこともできますが、それに振り回されて家族の間に不要な葛藤を持ち込むことは賢くありません。

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積極的消極性のすすめ

現実はさまざまな課題を私たちに突きつけてきます。病気や災害といった予期しないこともおきます。私たちはその時々に持てる力を最大限生かして、その困難に立ち向かっていくことしかできません。

このような生き方は消極的なように聞こえますが、考え方によってはもっとも積極的な生き方かもしれません。「さあ、何でもかかってこい。準備は万端だ。」といったところでしょうか。「積極的消極性」とでも呼んだらいいのでしょうか。このようなスタンスを維持するには、いざというときに頼りになる隣人と日ごろの絶えざる鍛錬だけです。つまり、生きるのは大変だ、ということでしょうか。


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