V:「生きづらさ」について
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(3) いま学校が生きづらいのはなぜですか

そもそも、学校という場所が開放的であったら、学校へ行くことが楽しくなるのでしょうか。そう考える人たちにより、いろいろな試みもなされています。学校という場所の特性をしばらく考えてみます。

校門圧死事件

1980年代であったか、兵庫県の県立高校で痛ましい事件がありました。その高校では遅刻対策として遅刻者には運動場を走らせるというペナルテイが科せられていました。そのため始業のチャイムが鳴るころ多くの生徒が校門をすり抜けペナルテイをまぬがれようとしました。

そこで指導にあたっていた教師が、公平を期すため鉄製の重い校門をチャイムと同時に勢いよく締めました。その時、いつものように校門をすり抜けようとした一人の生徒の頭が重い鉄門扉にはさまれてしまいました。生徒は死亡しました。

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平等原理でがんじがらめになっている学校

校門圧死事件の教師は真面目に考えた結果、そのような方法を選んだのでしょう。公平にすべきだとする選択が最優先され、危険性という問題が見過ごされました。おそらく、ペナルテイを科せられることになった生徒たちの不満の声がその教師を追い込んだのでしょう。

学校に勤めるとよくわかりますが、学校では生徒を平等に扱うことに大変なエネルギーが使われています。家庭環境も生育歴もことなるひとりひとりの子どもの現実にあわせた対応をしようとしても、形式的な平等を求める声が優先されてしまいます。学校という場所の堅くるしさはこんなところから生じています。

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学校教育の空洞化

20世紀から21世紀にかけて、世界の経済は限りなく国際化しました。さらにコンピューターやインターネットが普及し、工場でもオフィスでも合理化が進められました。技術部門や事務部門の人員が削減され、まず高等学校卒業者の就職先がなくなりました。大学卒業者も修了した専門分野にふさわしい就職先を見つけることが困難になりました。

延長され続けた学校教育がその目的を失い始めたのです。学校教育の空洞化の時代が始まりました。、

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学校は子どもたちの居場所

本来それ事態では意味のない通過儀礼に、さまざまな意味付けがなされて学校教育という制度が生まれた。時代ごとにその意味づけが変化し学校教育が肥大してきました。

大量の子どもたちや若者たちが長期にわたり学校に縛りつけられ、教師たちは平等の圧力の前に苦しげです。しかも、専門の教育を生かす機会も制限され、学校教育はその意味を見いだせなくなっています。ただ、子どもたちに居場所を提供する役割だけが現在の学校に残されている役割かのようです。

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個別化へ潮流

空洞化時代の学校教育のあり方として模索されているのが、教育の個別化です。集団のなかのひとりとしてではなく、子どもひとりひとりの多様性に対応していこうとする教育システムの構築です。

これまでの内容の平等ではなく、子どもひとりひとりの能力・進度・適性に応じた学習を個別に展開する機会の平等が重視されます。社会の養成に応えるのではなく、個々の子どもの要求に応えるこの学習の個別化によって、人材の選抜もさらに精密化していきました。

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形からはいる教育

空洞化の時代の学校教育のもうひとつの潮流は「形からはいる教育」です。目標でも内容でもなく、形を重視する教育が模索されています。

家庭ではさまざまな生活スタイルが実現し、学校では個別の学習が重視されるなか、その反動として「形や統一」が求められるようになります。作法・言葉遣い・身だしなみなど目に見える具体的な形の習得が目的です。言語系の能力が重視されがちであったこれまでの学校教育の弱点を突いて、身体的な要素が注目されるようになってきました。

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教育の技術化・専門家・規格化

一人一人の児童生徒に合う教育の個別化と形から入る教育は、さまざまな試みによって、洗練されつつあります。先端技術の利用・企業化による競争などによってめざましくその内容は進歩し、多くの専門分野が生まれ、技術者が育っています。

そうすると、必然的に、個々の児童生徒は計測され、その結果に合わせた手段が選択されます。その結果、個々の子供は規格化されていくことになります。

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漂流する学校教育

目的を見失った学校教育はその存在意義を学校教育自身に見出そうとしています。

ひとりひとりの子ども自身を教育の根拠とする個別化の流れと、身体の修練を重視する形からはいる教育のながれは、一見すると相反するようですが、実は補完しあう関係でもあります。学校教育がどのような物語をつくっていくことになるか、もう少し考えてみましょう。


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